住友化学、過去最大の最終赤字に 

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住友化学は4月30日、経営戦略説明会を開催し、2024年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が3120億円の赤字になったと発表した。従来は2450億円の最終赤字を見込んでいたが、赤字幅が670億円広がった。連結子会社である住友ファーマの医薬品の特許権などで減損損失を計上するためで、過去最大の赤字幅となる。

単位:億円 売上高

営業損益

株主帰属
損益
コア 非コア 合計
2023/3実績 28,953 928 - 1,237 - 310 70
2024/3予算 29,000 400 -200 200 100
同 2024/2/2予想 24,800 -1,450 -1,400 -2,850 -2,450
同 今回予想 24,470 -1,490 -3,400 -4,890 -3,120


コア営業損益

医薬品における北米でのラツーダ(非定型抗精神病薬)の特許切れによる売上高の激減に加え、後継候補であるオルゴビクス(進行性前立腺がん治療剤)、マイフェンブリー(子宮筋腫治療剤)、ジェムテサ(過活動膀胱治療剤)等の売上が計画を下回る見込みであることに加え、
エッセンシャルケミカルズにおいては世界的な景気減退による需要減少や交易条件の悪化等により持分法適用会社であるPetroRabigh の業績悪化が見込まれること等から、コア営業損益は-1490億円と予想した。

2023/11/8 米国医薬業界、特許切れの恐怖:住友ファーマのケース

(億円)
23/3実績 24/3予算 2024/2予想 今回予想
エッセンシャルケミカルズ
(うちPetroRabigh)
-342

-70

-870
(-630)
-910
(-650)
エネルギー・機能材料 152 130 50 80
情報電子化学 476 380 380 440
健康・農業関連 573 620 400 310
医薬品 162 -610 -1,310 -1,330
その他 104 150 -100 -80
全社 -197 -200
コア営業損益 928 400 -1,450 -1,490


非コア損失(赤字

合計 うち減損 その他
住友ファーマ関連 2219億円 1809億円

(基幹3製品 特許権 1,335億円)
(      のレン  359億円)
(開発品目開発中止  106億円)

北米子会社再編 301億円

固定資産除却等 109億円

その他 1181億円 885億円(国内石化、シンガポールMMAほか) 固定資産除却等 296億円
総計 3400億円 2694億円 706億円

医薬品における特許権及びのれん等

基幹3製品(進行性前立腺がん治療剤「オルゴビクス」、子宮筋腫・子宮内膜症治療剤「マイフェンブリー」、過活動膀胱治療剤「ジェムテサ」)の売上収益の伸びが想定を下回っており、北米事業の事業予想を見直した結果、「マイフェンブリー」にかかる特許権の一部133,457百万円及びのれんの一部35,858百万円を減損することとなった。
また、rodatristat ethyl及びEPI-589(いずれもフェーズ2試験段階)等の開発品目の開発を中止したことにより、当該開発品に係る仕掛研究開発10,577百万円を減損するなど、総額180,857百万円の減損損失を計上した。

医薬品以外の主なもの

千葉工場エッセンシャルケミカルズ製造設備及び工場共用資産  減損損失25,381百万円
シンガポールにおけるメタアクリル製造設備  減損損失14,891百万円
愛媛工場における正極材焼成実証設備  減損損失11,566百万円

全体の非コア損失のうち、評価損が合計2694億円に達する。
 

4月30日の経営戦略説明会では2024年3月期の実績を上記のように説明したうえで、短期集中業績改善策と、抜本的構造改革を説明している。

最大の経営課題は、「2024年度業績V字回復の達成」(コア営業利益 1,000億円、純損益 200億円としたうえで、

短期集中業績改善策による2024年度キャッシュ創出目標を、従来の5,000億円から6,000億円に上積みするとした。

抜本的構造改革として下記を挙げた。

1) 再興戦略
  住友ファーマは、グループの総力を挙げて徹底した合理化を進め、一日でも早く完全に止血する。
  その間、基幹3製品の拡販とともに、再成長に向けたあらゆる選択肢を検討していく。

  PetroRabighは、当社とAramco両社で「共同タスクフォースチーム」を結成することで合意。
  収益力強化を含む緊急度の高い重要課題解決に向け、短期集中で取組む。 

2) 成長戦略
  「Innovative Solution Provider」を長期に目指す企業像とし、新しい成長戦略を策定。
  
  農業関連、ICT関連が成長ドライバー。経営資源を集中投入し、2030年に各々1,000億円のコア営業利益を目標とする。

  次世代成長領域として先端医療を拡充。

  石化関連は長期的視点で環境負荷低減技術による価値創造に舵を切る。

ーーー

日本経済新聞はこれを取り上げ、石化再建「肩すかし」で株安 という副題で下記のとおり報じた。

大規模な止血策と2025年3月期の黒字化を発表したにもかかわらず、市場は厳しい反応を示した。30日の終値は前日比17円安(4.8%安)の337円と、470円上げた日経平均株価とは対照的な動きとなった。「ラービグを巡る構造改革案が具体策に欠け、構造改革に期待を寄せていた投資家が肩すかしをくらったとの受け止めからか」(立花証券の福永幸彦アナリスト)との声が聞かれた。

ラービグとはサウジアラビアの国有石油会社サウジアラムコとの合弁で、住友化学にとって持ち分法適用会社の「ペトロ・ラービグ」のこと。石油精製での競争力が低く、24年3月期は650億円の赤字に落ち込んだ。今回の経営戦略発表会で収益改善に向けた具体的な施策が示される期待もあったが、新たにアラムコとタスクフォースを設置し「1年以内に将来像の方向性を示したい」(岩田社長)との内容にとどまった。

収益改善には石油精製の部分を高度化する装置への投資などが必要だが、住友化学はそこへの追加投資はしない姿勢を貫いており、アラムコとの交渉が難航している。ラービグはアジア向けの汎用品が多く、「日本の内需は悲観していないが、アジア市況は24年も23年に比べてそんなに改善は期待できない」(岩田社長)。ラービグを含む石化関連事業全体の25年3月期のコア営業損益は350億円の赤字を見込む。福永氏は「タスクフォース結成はプラス材料だが先送り感が残る」とみる。

経営戦略説明会でも、「当社としては、同社に対するエクスポージャーを増加させる資金支出は実施しない意向」としている。

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