アルミ産業が集積する富山県高岡市で、太陽光発電の廃棄パネルで水素発電する事業が始まる。パネルからアルミを抽出する企業グループと、アルミを化学反応させて水素を取り出し火力発電する事業者が連携する。
高岡市は官民連携で地域内アルミリサイクル事業を進めており、2023年に環境省の「脱炭素先行地域」に指定された。
同事業の目玉は①リサイクル業のハリタ金属(高岡市)と三協立山による太陽光の廃棄パネルからアルミを抽出して再生する取り組みと、②アルハイテック(高岡市)が手掛けるアルミ水素発電の2つ。
先進的で効果の高い取り組みを実現することで上限50億円の交付金が得られ、双方の取り組みの相乗効果を訴求する。
2030年代に廃棄パネルの大量発生が見込まれるなか、再生可能エネルギーの利用比率を高めたい電力事業者に売り込む。
廃棄パネルの処理ではハリタ金属が保有する大型ラインが中核的な役割を担う。自動車スクラップ1台分をまるごと粉砕でき、1時間に1000枚(20トン)以上処理する能力がある。
アルハイテックは、アルミを有効活用した水素社会づくりを目指す「北陸アルミ水素将来ビジョン」を掲げ、工場や家庭からのアルミ廃材全般からアルミ水素発電を行う取り組みを進めており、今回、廃棄パネルの処理を行うハリタ金属/三協立山と提携する。
アルミ系廃棄物を処理して水素発電をするまでには大きく4つのステップがある。
①パルパー型分離機でアルミ系廃棄物をパルプとプラスチック付きアルミに分離する。アルミ付き廃棄物から、水を用いて紙を分離する装置。
基本的には排水を必要としない構造で、水を循環させ且つ少ない電気エネルギーでの運転が可能
パルパー底面の特殊スクリーンを通過したパルプ繊維を回収するので、繊維を切ることがほとんどない良質な繊維が再利用できる。②次に、乾留炉でプラスチック付きアルミを乾留してプラスチックを分解し、アルミを取り出す。
アルハイテックが開発した乾留炉はパルパー型分離機で回収された樹脂部分を熱処理により分解除去し、不純物の少ないアルミを回収する。
同社の特許技術により600℃前後の温度で付着するプラスチックを自燃させることよる運転で分離を可能にした。これにより、純度が高いアルミを回収することができる。③続いて、水素製造装置で、繰り返し使える特殊なアルカリ系溶液とアルミを反応させて高純度の水素を発生させる。
アルハイテックが開発した水素製造装置は水素ではなく、アルミを輸送・貯蔵し、必要な時に水素を製造する。
また、アルハイテックの水素製造装置は小型化が容易なため、施設の規模感に合わせて柔軟に対応可能。
独自開発した特殊なアルカリ性反応液を用いて水素と水酸化アルミ(難燃剤として高価で売れる)を製造する。従来品よりも高効率・高反応速度で水素を得ることができる。
この反応液は約100回繰り返し使用することができる。④最後に、その水素を燃料電池に送って発電に利用する。
水素製造装置は、アルミと反応液を混ぜることで常温、常圧で水素を生成し、同時に資源として使える水酸化アルミニウムを取り出すことができる。
通常、反応液に使われる水酸化ナトリウム水溶液は、使うたびに消耗して化学反応の速度・効率が落ちるが、アルハイテックではバルセロナ自治大学の基礎研究を元に、アルカリ水溶液に触媒を加えた独自の反応液を開発し、常温で100回以上繰り返し使用できる画期的なものに改良した。
また、この反応液は触媒の効果により、劇物である水酸化ナトリウムの含有量を最小限に抑えながらも効率的に水素を発生させることができる。そのため、劇物の対象外となり、取り扱いやすいという利点もある。
反応槽は二重部屋構造を採用して、水素発生中にアルミを連続的に投入できるようにし、供給を自動で制御することも可能で、動作確認では、9kgのアルミから1kgの水素と26kgの水酸化アルミニウムを生成できた。
2023年にアルハイテックが環境省の助成を受けて実施した事業化調査の結果では、320キロワット規模(一般家庭250軒分)では年間600トンのアルミ原料が必要になる。調達価格が1キロ100円未満で採算が取れる。
高岡市には年間100トン以上のアルミスクラップを排出する工場も多い。高純度のアルミの市況は同200円以上だが、切りくずなどでは100円以下もある。切りくずは溶融用の溶液になじみやすく発電効率も高まる。
一方で売電価格の動向が事業展開のカギを握る。同社では、アルミ水素発電の売電価格8〜30円(1キロワット時)程度で事業化を想定する。
アルハイテックは工場や家庭などから排出されるアルミを回収し、水素を作り出すことでエネルギーや資源に変える「アルミ水素エネルギー社会システム」の実現を目指している。
2018年8月には、システムを地域から北陸全体へと広げることを目指す「北陸アルミ水素将来ビジョン検討会議」が発足、その後、参加を表明した北陸地域の約80機関による検討会議が行われ、3回目に座長の川口教授から、「アルミ水素エネルギー社会システム」の将来像や2040年頃までのロードマップをわかりやすく示した「北陸アルミ水素将来ビジョン」が発表された。
参考資料 NEDO Web Magazine クリーンなエネルギーを地産地消する水素発電システムを開発
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