テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」は翌10日の特集「The 追跡」で「日産〝不当な減額要請〟継続か」を報道した。日産の経営を揺るがすだけでなく、大企業と下請けの関係に一石を投ずる内容だった。
日産は中小の取引先企業36社に対し、違法な減額強要で公正取引委員会から再発防止の勧告を3月に受けていた。同番組がこの36社以外を独自取材すると、「減額の強要が変わらず続いている」実態が浮かび上がった。
公取委の3月の勧告は下記の通りで、36社だけでなく、すべての取引が下請法に違反しないことを求めている。
⑴ 日産自動車は、次の事項を取締役会の決議により確認すること。
ア 前記2⑵の行為が下請法第4条第1項第3号の規定に違反するものであること
イ 今後、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じないこと
⑵ 日産自動車は、今後、下請法に違反することがないよう、次の行為を行うなど経営責任者を中心とする社内遵法管理体制の整備のために必要な措置を講ずること。
ア 法務担当者による下請法の遵守状況についての定期的な監査
イ 役員及び発注担当者に対する下請法遵守のための定期的な研修
⑶ 日産自動車は、次の事項を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。
ア 減額した金額を下請事業者に支払ったこと
イ 前記⑴及び⑵に基づいて採った措置
⑷ 日産自動車は、次の事項を取引先下請事業者に通知すること。
ア 減額した金額を下請事業者に支払ったこと
イ 前記⑴から⑶までに基づいて採った措置
⑸ 日産自動車は、前記⑴から⑷までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。
番組は、日産の内田誠社長から違反行為は勧告後にやめたと言質をとっていた。
放送内容は下記の通り。いずれも公取委の勧告後の取材である。
1) 日産と約20年取引のある資本金3億円以下の中小企業A社社長のインタビュー
勧告後も「減額の強要が続いている」
減額要求はもう、毎回ある。半額というケースもあるし2割3割(引き)は当たり前に起きている。それに対してあらがえば切られてしまう。
勧告後の2024年4月の見積書に「原低率」が記載されている。
原価低減を何%するという意味合いで、「何%引きます」と自ら言うことは基本的にないので強要である。しかも、「個別原低とは弊社より依頼したもの」と最初から書いてある。
われわれの意思で書いたという体で、「受け入れざるを得ない。いじめに遭っている人が手を挙げられないのと同じ。」
望まない原低率は数%から数十%に及ぶ。
2) 30年取引のあるB社営業担当のインタビュー
日産のメールに「この仕事が欲しいならこの金額以下でもう一回見積もりを出し直しなさい」とある。
「長い付き合いだからといっていつまでも仕事もらえると甘く見るなよ」と言われた。
どんどん価格を下げられていって見積もりを2回も3回も出して向こうが納得する金額まで強要されるというのが続いた。
つい先日の日産からのメール 「当社の目標は xxx円以下」
どれくらい低減させられる?の質問に、
ほぼ30%とか ひどいときは50%とかもある
全然 適正でない。0か100なので、断ったら仕事が来なくなる。
番組は報道予定の番組内容を公取委の官房審議官にみてもらい、意見を聞いた。
1) A社のケース
こういうフォーマットで一方的に一律で「単価を引き下げなさい」という要請は、「買いたたき」に抵触する可能性がある。
買いたたきは下請法で禁止されている。
2) B社のケース
一般論だと、自分が思う価格の指し値なら交渉ができているのか、疑義が生じるのであまりよろしくない。
テレビ東京によると、日産に見解を尋ねると、「現在、報道された内容について、事実関係を確認しております」と述べるにとどまり、調査をいつどのように報告するのかについては言及を避けた。
「下請けに血の涙を流させてあげた利益」など放送直後からSNSに怒りの声が殺到した。「(広告主ゆえ)勇気がいったと思う」「他の局は追随できるのか」
当日の放送では、特集中にホンダのCMが流れた。日産のCMも放送最後で流れた。
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これについて、斎藤経産相は5月17日の閣議後記者会見で日産を厳しく批判した。「今回の報道内容につきましては、至急事実関係を調査し、報告するように求めています」、「法令順守の観点のみならず、経済界を挙げて進めている価格転嫁に水を差すもの」としたうえで、「極めて遺憾」と厳しく批判した。
斎藤大臣は、日産からの報告内容をふまえて、今後の対応を検討するとしている。
経産省の幹部はテレビ東京の取材に対し、「ここで変わらなかったらいつ変わるのか、大きな山場だ」と述べ、経済界の賃上げ心理に水を差さないよう、日産に厳しい姿勢で臨むことを示唆した。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は5月14日の会見で以下のように述べた。
目下、(多くの)企業、とりわけ大企業が多重(下請け)構造において、いわゆる価格転嫁をしっかりと進めようと取り組んでいる中で、このような問題が起こっていること自体が大変な問題であり、経営陣として「知らなかった」では済まされない。多くの企業が一緒になり、デフレ脱却(に向けて)、下請け(企業)による適正な価格転嫁を認めようと取り組んでいる中、こういう問題が起きていることは大変遺憾であり、企業の責任をどう示していくのか。
同じ経済界(にいる者)として、いかに(責任を果た)されるのかを注目している。その点では、企業はそれぞれ個々で(経営を行っている)が、(各社の経営が)社会にどのような意味を持つかという観点から(経営)責任を明確にしていただきたい。
社会的にこれまでは当たり前のように行ってきたとしても、時代の転換点を迎えて、(現在は)そうではない(社会に変化している)ことを分かっていない企業が存在することが大変遺憾である。
(適正な価格転嫁も受け入れられない)下請け(企業)の方々が意欲を持って部品を作ることは難しいだろうし、(その結果として)製品の質も悪くなると、消費者は買わなくなってくる。そのため、このようなことを行っている限り、株価などに表れる通り会社の価値は高まらないというのが結論である。
経営責任をどう取るのか、または、このような状況からどう脱却するのかを早期に明確(に示す必要がある)。トヨタ自動車のように(下請け)各社に対して(納入価格の)値上げを行いながら(製品を)供給している(例もある)ため、社会的責任を果たせない企業がどうあるべきかという点については、自ら処すべきであり、大変厳しく見るべきだと思っている。
これは経済同友会の事後の発表で、いろいろ補足しているが、新聞報道では次のようになっている。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は5月14日の会見で、「大企業が下請け企業の価格転嫁を認めようと努力している時であり、大変遺憾だ。経営陣は知らなかったでは済まされない」と強い口調で述べ、経営責任の明確化を求めた。
新浪氏は「(こういう会社の)下請けが意欲を持っていい製品をつくろうと思いますか? そういうクルマを買おうと思いますか? だから会社の価値は上がらないし、株価を見ても上がっていない。それが結論です」と痛烈に批判した。
付記
日産自動車は5月23日、公取委から勧告を受けたあとも代金の引き下げを行っていた可能性があり、調査を進めていると発表。調査結果については1週間後をめどに公表。
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