上記の手術の1ヶ月後に検査結果を聞くために病院に行った。消化器内科と外科の医師から「転移あり」と伝えられ、手術を勧められた。
そして、臨床応用研究中のダヴィンチ手術を紹介された。
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ダヴィンチ法は、元々は1980年代の後半に米国陸軍と旧スタンフォード研究所において開発されたもので、戦地での負傷者の手術を、離れた場所にいる空母や米本土の病院の医師が遠隔操作ですることを狙った。
1995年、民間での応用をさらに推し進めるため、Intuitive Surgical 社が設立され、1996年には最初のロボット支援下手術用サージョンコンソールを開発した。
(戦争はミサイルによるものになり、昔のように兵士が敵地で手術を必要とするようなケースは激減した。このため、民間用の手術方法となった。)
1999年1月に、da Vinci Surgical Systemを上市、2000年には、一般的な腹腔鏡下手術を適応とする初のロボット支援下手術システムとして、FDAにより認可された。その後は、胸腔鏡手術、補助切開部からの心臓手術のほか、泌尿器科、婦人科、小児外科、経口アプローチによる耳鼻咽喉科の手術についてもFDAから認可を得ている。
日本では、2009年11月に、泌尿器・一般消化器・婦人科・胸部外科でダヴィンチの薬事承認がなされ、2010年3月に販売を開始した。
2015年9月に心臓手術も承認された。
2018年4月から直腸癌も保険適用となった。(筆者の手術時点では適用外)
通常の腹腔鏡下手術は、腹に4つ(ヘソと他に3つ)の穴をあけて、機器の出入り口であるポートを設置し、ヘソからは腹腔鏡を入れる。
(他に血液などを外に出すためのドレン用の穴をあけるため、合計5つの穴)
手術者は腹腔鏡の画像を映すモニターをみながら、ポートからいれた機器で手術を行う。 当然、手ぶれの恐れなどもあり、ずっと上向きのため、長時間の手術は疲れる。
ダヴィンチ法では、システムは、サージョンコンソール、ペイシェントカート、ビジョンカートなどから構成される。
3つのアームと1つのステレオ3Dカメラを搭載し、アームのカセットを交換することで、様々な処置を行うことが出来る。
通常の腹腔鏡下手術では医師が直接鉗子を操作して行うが、「ダ・ヴィンチ」による手術では鉗子の操作はロボットアームにより行われる。
執刀医は数m離れた場所に置かれた「サージョンコンソール」という機械に座り、術野の3D画像を見ながら、ロボットアームを遠隔操作する。
患者の横には吸引作業や機器カセットを交換したりする補助作業者が立つ。
両眼視で見る3Dモニターを使用して下向きの目線(開腹手術と同じ目線)で操作を行うために術者の疲労が少なく、視野も広く奥行きの把握も良好とされる。
通常の腹腔鏡下手術ではポートに入れた鉗子の先が開閉するだけだが、「ダ・ヴィンチ」では鉗子の先が人間の手首と同じように自在に曲がるので、可動域が広くなる。
手の震えを除去できる手ぶれ制御機能が付いているうえに、可動域の広さが人の手首以上となっており、人の手以上に細かく、丁寧に、確実な手術ができる。
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当時は直腸癌は保険適用外であったが、東京都では有用性と安全性の確認のための臨床応用研究として人数を絞って手術を行っており、それを勧められた。
それまで、手術のやり方を詳しく説明し、もしもの場合の対策があることなども説明して、ようやく2例を実施した段階であった。
小生は以前からこれについて聞いており、関心があったので、即座に応じ、医師を驚かせた。「もしかして、同業ですか?」と聞かれた。
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腹腔鏡による手術の手順は次の通り。全身麻酔のため、手術の経緯は資料で調べたもの。
切除した大腸部分をどうやって取り出すのか、切除した後でどうやって接続するのかが大きな疑問であった。
手術の概要
尿管や神経を傷つけないように腹腔鏡や鉗子を入れ、切除する腸に関係する栄養血管の処理を始める。血管の根元をクリップで止めて出血しないようにしたあと、切り離す。
次に、直腸の周囲を覆う腸間膜のうち、背中側の膜を結腸側から肛門側に向かって電気メスで剥がして、仙骨と分離させる。その後、直腸を固定している側方靱帯も電気メスで剥がす。
後方の処理が済んだら、直腸の前側の腹膜を剥がして、男性なら、精のう、前立腺と直腸の間を、女性なら膣と直腸の間を剥離する。
最後に、がんより肛門側で直腸を切り離し、へその穴を広げて、切り取った腸(癌の部分を含む)を取り出す。
切り取った直腸とつながっている細い血管を処理しながら、がんのある腸を切除する。
残る腸をへそから体内に戻し、残してあった腸と自動吻合器(円形にホッチキスが配置され、その内側にカッターがある)で接続する。
①病変部分を切除したS状結腸にアンビルヘッドを固定し、体内に戻す。
②肛門から自動吻合器を挿入して、S状結腸に固定したアンビルヘッドと結合する。
③自動吻合器でホッチキスで留めながら、余分な部分を切り取る。
④自動吻合器を抜く。
ホッチキスの針はチタン製で、そのまま埋め込む。
3年後の内視鏡でのチェック時には、ホッチキスでとめた部分を肉が覆っており、見えなかった。
手術翌日から歩いており、手術翌日の昼から栄養剤、2日目からはお粥、3日目夜から常食で、手術1週間後に退院した。
手術翌月に病理検査の結果の説明があり、転移していないことが判明した。
その後、6か月後にCT検査を受け、5年で治療が完了した。
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名称は、医師免許も持つ漫画家の手塚治虫の作品「火の鳥」から採った。
2020/8/14 国産手術支援ロボ 発売へ
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