米Merck (米国・カナダ以外での社名は MSD) は5月29日、眼科に特化した英国の非公開バイオ企業 Eyebiotech Limited (略称 EyeBio)を最大30億ドル(約4720億円)で買収することで同社と合意したと発表した。
Merckは前払い金として13億ドルを支払いEyeBioが将来の事業目標を達成した場合にさらに最大17億ドルを支払う。
Merckにとって大きな課題の1つが、2030年の前にも特許切れによって減収が予想される主力製品、がん免疫治療薬「キイトルーダ」の穴埋めを見つけることである。収益源を分散化するため買収を活発化している。
Merckは2023年4月16日、潰瘍性大腸炎やクローン病(炎症性腸疾患)向けの治療薬を開発している米バイオ企業Prometheus Biosciencesを買収すると発表した。
2023/4/18 米Merck、バイオ企業を1.4兆円で買収
EyeBioは、網膜血管漏出に関連する視力喪失の予防および治療のための臨床および臨床前候補薬のパイプラインを開発している。
同社の主要候補薬であるRestoret™(EYE103)は、Wingless-related integration site(Wnt)シグナル伝達経路のアゴニストとして作用する、潜在的に初の四価の三特異抗体。新生血管を伴う加齢黄斑変性や糖尿病に伴う眼疾患などの治療法として期待されている。
通常、生体内にある抗体は、1つの標的に対して作用にする。
しかし、免疫研究の進展、がん免疫療法の登場に伴い、より高度に生体を調節する期待を以て、2つの標的に結合する二重特異性抗体が開発された。二重特異性抗体は、従来の抗体では達成できない細胞同士の架橋、細胞やタンパク質を物理的に近接させる効果、標的の二重阻害等の効果が期待できる。現在までにアムジェンやロシュが抗がん剤や血友病治療薬を上市しており 、2021年の二重特異性抗体の世界市場規模は38億ドルと見積もられている。また、今後も市場成長を続け、2028年の市場規模は129億ドルに達するという予測がある。
臨床で二重特異性抗体の実績が確認されたことを受け、更に高度に生体を調整するために、多重特異性抗体の技術開発が行われている。直近1年では、特に三重特異性抗体を開発するスタートアップに対する動きが目立った。2023年11月に1.3億ドルに調達を行ったスタートアップEyeBio(2021年設立)は、網膜疾患(血管新生加齢黄斑変性症、糖尿病黄斑浮腫)に対する三重特異抗体Restoretを開発している。Restoretがタンパク質に結合することで、タンパク質同士の複合体を形成させる、という新たなメカニズムを有する。
EyeBioは2024年2月13日、Wnt(Wingless-related integration site)シグナル伝達を活性化するアゴニスト抗体(Restoret、EYE103)の第1b/2a相臨床試験(AMARONE試験)の中間解析結果を発表した。
糖尿病黄斑浮腫(DME)、新生血管を伴う加齢黄斑変性(NVAMD)患者を対象にRestoretを増量法で硝子体内投与し、未治療のDME患者を対象とする概念実証(POC)パートでは、単剤で最高矯正視力(BCVA)の改善、網膜厚の減少が認められた。
2024年後半にDME患者の治療を調査するための重要な第2b/3相試験に進むことが予想されている。
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