日産自動車、下請法違反との一部報道を受け、調査結果と今後の対策を発表

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日産自動車は5月31日、下請法違反を繰り返しているとの一部報道を受けての社内調査結果を、長島・大野・常松法律事務所と共同で公表した。

日産自動車では、今年3月に公正取引委員会から下請法違反の勧告を受けた後も、取引先に対して不当な減額を強要していたと一部報道されていた。

これを受け同社では、外部の弁護士などによる第三者が社内調査を実施した。調達部門の担当者260人のメールを確認し、関係があると考えられる部門の関係者37人への延べ43回のヒアリングや収集した見積書などを確認・精査して実施した。

その結果、試作品のメーカーに対して原価低減目標を示したフォーマットがある事実などは確認されたものの、取引先への依頼は根拠があり、下請法などの法令違反は確認されなかったとしている。

報道された具体的内容については後記の通り。

「一部の試作部品に対して毎年減額率(6%)を記した発注フォーマットがあったこと」、「日産からの目標金額を示したメールがあったこと」などは確認された。しかし、契約は一部試作品のプレス部品への限定的かつ両社の話し合いのもとでの契約である。

また量産車部品に対する恒常的かつ自動的な原価低減を要求する発注フォーマットは見つからず、「ほぼ30%、ひどいときは50%」というような圧力をともなう大幅な減額要求も確認できなかった。

外部弁護士は、あくまで調査対象は社内のみ(相手からは聞いていない)とした上で、代金は双方で合意されたものだとの文書があると説明、「現時点で下請法など何らかの法令違反があると断定的に評価する状況にない」とした。

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しかし、内田誠社長は「取引先から(強引な値引き要請などの)声があがっていることが問題」と述べ、サプライヤーの困りごとなどの相談を受け付ける部署を新設するなど、サプライヤーとの関係改善を図る方針を示した。

内田社長は「国や業界をあげて適正取引の徹底に向けて取り組み進める中、こうした報道がされたこと、各方面から厳しい声が上がっていること、大変重く受け止めている」と述べ、下記の方針を挙げた。

・下請けとの取引の適正化といった対応を強化するため、社長直轄の新たな組織を6月に設置する。

・下請法違反の勧告を受けた部品購入代金の「割戻金」については、下請法の対象外の大手サプライヤーを含めて廃止した。

・サプライヤーが日産との取引に関する問題や相談を匿名でも応じるホットラインを設置する。ここで受け付けた情報に法令違反など問題がある場合は購買部門に提言するなど、対応していく。

・「パートナーシップ改革推進室」を新設する。ものづくりや取引に関する法令に詳しい人材約20人を配置し、取引先の一次サプライヤー約2000社に直接出向いて困りごとの相談に乗るほか、日産に対する要望も社内に持ち帰って対応していく。同室に持ち込まれた案件は上位組織のパートナーシップ委員会でも論議し、スピーディーに対応していく。


日産は下請法違反で勧告を受けた件に関する社内調査の結果と再発防止策は6月末までに策定し、関係当局に提出する。下請法違反の監督責任を明確化するため、内田社長は4月から3カ月間、報酬の30%を自主返納することも明らかにした。

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テレビ東京の5月10日「The 追跡」での報道についての調査結果 

A社の説明:

①下請け先(A社)は、日産が作成したフォーマットに従って作成した見積書を提出することとなっている。
②フォーマットには、日産が指定する一定の減額率(「原低率●%」)が記載され、自動計算式が設定されている。
③A社が正規価格をフォーマットに入力すると「数%から数十%」の原低率相当額が控除された金額が、自動表示され、価格が一方的に減額される。
④A社が日産に2024年4月●日付けで提出した見積書には、日産のフォーマットにより「個別原低とは、弊社より依頼したもの」との記載が当初から存在するところ、「弊社」はA社を意味しており、A社側が原価低減を依頼しているという見積もり上の体裁を日産が作出している。


弁護士の調査結果:

報道されたような計算式と個別原低に関する記載が存在する見積書のフォーマットの利用というものが確認されている。

このフォーマットというものは量産品サプライヤーとの間では利用されておらず、あくまで試作品のプレス部品を製造する数社との取引により限定的に利用されるもの。
2015年に一品一様の試作品プレスの価格レベルの妥当性・一貫性を担保する目的で、日産自動車と各サプライヤーは原単位コストテーブルにより算出される単価の使用を合意した。
試作品のプレスということで、その単価というものを算定することが難しいということで、試作品の難しさであったり、そういった個別の事情に応じて単価というものが算定される、そういった原単位のコストテーブルを合意した。

FY16からFY19にかけて、日産自動車と各サプライヤーは、そのフォーマットから導き出される査定値というものを基準に毎年6%の原価低減の実施を合意し、計算式を設定するという取り扱いにした。
毎年6%ということなので、FY19時点では6%の4乗という計算式が設定されたフォーマットということになる。
FY19以降は原価低減率の加算というものは行なわれなかったが、この計算式が設定されたフォーマットを利用する運用というものは継続することになった。
したがって、2024年時点もFY15の時点で合意した原単位コストテーブルに基づく査定値、それに所定の原価低減を行なうことで見積もり金額が算出される仕組みになっていた。

サプライヤー自身の見積もり金額ではなく、FY15に合意した原価低減前の当該コストテーブルにより算出される査定値、それを入力する運用となっていた。
この原単位コストテーブル、個別の原価低減にかかる合意の交渉経緯に関して、資料の検討やヒアリングのプロセスで特段の問題は確認されていない。

報道ではこのフォーマットに『個別原低とは、弊社より依頼したもの。』という記載があるが、実際のフォーマットにはそれに続けて、『御社で独自に取り組んだもの。等の原低内容です。』という記載が存在した。
したがって、日産自動車とサプライヤーの双方が原価低減に取り組んでいる、そういう内容の書面だった。

B社の説明:

①日産の担当者が、下請け先(自動車部品メーカーB社)に対し、「当社の目標は●円以下」という内容のメールを送付するなどし、日産が納得する水準の価格になるまで見積書の再提出を複数回求める。
②日産の担当者がB社に対し、「長い付き合いだからといっていつまでも仕事もらえると甘く見るなよ」などと告げる。
③減額率は「ほぼ30%」、「ひどいときは50%」である。

弁護士調査結果

設備手配案件の調達プロセスにおいて、日産自動車の購買業務の委託先がサプライヤーに対して『当社の目標』としての金額等を示すメール、それを送付していた事実が確認されている。

報道で黒塗りされているが、以下の記載がある。

「御社の最終見積書をご提出お願いいただけますでしょうか」 「御社のベストプライスで最終見積書を」 「尚、ご参考ながら、当社の目標は●円でございます」

このようなメールは、業務手順書に基づき送付するもので、言及されている金額は、日産自動車の調達依頼部門が過去案件等を参考に技術的な観点から査定したもので、一定の根拠のある数値であった。

その内容について、調達依頼部門からサプライヤーに対しそれを説明する場合もあるということ。また、こういったメールを送るのは2回までである。

メール中の記載の通り、この目標金額というものはあくまで参考として示されていて、これを下回る提案がサプライヤーからなされなければ取引が成立しないというような運用ではない。

過去約8年間のこの委託先が関与する設備手配取引を確認したところ、減額率が30%を超える取引が多数であるというような状況はわれわれの調査では確認されていない。
こうした設備手配の案件において、威圧的なコミュニケーションがなされている事実は、われわれの調査で確認されていない。

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「一部試作品のプレス部品」であればメーカーの数は限られている。調査に当たった外部弁護士が直接ヒアリングをせずに、日産側の主張だけで「法令違反があると断定できない」とするのは理解できない。

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