米最高裁、「飲む中絶薬」の認可差し止めを認めず

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米連邦最高裁は6月13日、人工妊娠中絶のための飲み薬(経口中絶薬)「ミフェプリストン」の認可差し止めをめぐる訴訟で、訴えた中絶反対派の医師たちに原告となる資格がないと判断した。

米食品医薬品局(FDA)の承認の是非については判断せず、米国でこの経口中絶薬を使い続けられることになった。この判断には9人の最高裁判事全員が賛成した。

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米食品医薬品局(FDA)は2023年1月、妊娠中絶に使用される経口薬「ミフェプリストン」の薬局での販売を許可すると発表した。

商品名:Mifeprex(一般名:mifepristone)は、妊娠を続けるために必要な黄体ホルモンのはたらきを抑える経口薬で、この薬をのんだ後、子宮を収縮させる働きがあるミソプロストールをのむことで中絶を起こすもので、世界で普及している。

日本では2023年4月28日、「子宮内妊娠が確認された妊娠63 日(妊娠9 週0 日)以下の者に対する人工妊娠中絶」を効能又は効果として製造販売承認された。日本では、母体保護法に基づき、母体保護法指定医師のみが人工妊娠中絶を実施することとされており、本剤の使用についても同様の扱いとなる。

米国では以前はこの錠剤は専門の医院でのみ調剤され、女性は直接受け取る必要があった。今回、小売薬局を通じての販売を可能にし、薬局はこれまで患者が直接受け取る必要があった錠剤を郵送で送ることができるようになる。

FDAの規則緩和を受け、米国での中絶処置の半数以上を占める経口中絶薬へのアクセスは中絶が合法とされている州では容易になる。

中絶に反対する医師らが2022年、FDAが2000年に承認したmifepriston は安全でないとしてFDAによる承認を無効にするよう求めて提訴した。

米テキサス州連邦地裁は2023年4月7日、認可を差し止める判断を下した。

Matthew Kacsmaryk判事は訴えを認め、FDAによる認可は、特定の医薬品に関する迅速認可のルールに違反したとの判断を示した。さらに、mifepristoneの「心理的影響」をFDAが「十分に考慮しなかった」ことの「重大性は看過できない」と指摘し、「生殖機能が発達中の18歳未満の少女への影響」が確認されていなかったと述べた。

その上で、FDAに控訴する時間を与えるため、判事自身がこの決定を7日間 一時停止(stay)した。

米司法省は、テキサス州地裁の判断を不服として連邦高裁に控訴した。

mifepristoneが禁止されればもう一方の薬ミソプロストールだけで処置することになり、効果が低下する。

司法省は最高裁に介入を求め、係争中は流通を全面的に認めることを求めた。

政権側の控訴を受けて連邦控訴裁は2023年8月、流通は認めたものの医師による対面の診察と処方を義務付け、郵送を禁止するなど入手を困難にする判断を出した。政権側がこれを不服として最高裁に上訴した。

2023/4/10 米国で経口中絶薬で相反する判決 を補正

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政権側の上訴を受け、米連邦最高裁は2024年3月26日、「ミフェプリストン」の流通規制の是非について口頭弁論を開いた。

保守派判事を含む多くの判事から規制に懐疑的な発言が相次いだ。

口頭弁論では原告の医師らに訴えを起こす権利があるかどうかが焦点の一つとなった。

原告は中絶薬の流通による具体的な損害を証明する必要がある。医師らは中絶薬の合併症の患者への対応を迫られれば中絶に反対する信念に反し、倫理的な損害を被ると主張した。

リベラル派のジャクソン判事は医師は信念に反する措置を拒否することが可能で、中絶薬の流通全体を禁止する必要はないと指摘した。

保守派のゴーサッチ判事やカバノー判事、バレット判事も同様の見解を示唆した。

最高裁は22年6月に中絶の権利を否定する判断を下し、主に保守地盤の州が中絶を禁止したり規制を強化したりした。米国では中絶を望む人の半数以上が中絶薬を使用している。流通が規制されれば、合法の州でも中絶が困難になると懸念されている。

また政権や製薬会社側は最高裁が原告の主張を認めてFDAの承認を無効にすれば、FDAの判断に疑問を呈することになり、FDAが承認する他の薬や医療機器などにも影響が及びかねないと警告した。

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米連邦最高裁判所は6月13日、国内に普及している経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の入手や使用を全面的に認めるべきだとの見解を示した。
郵送禁止など、一定の制限を加えることを決めた下級審の判断を覆した。



最高裁の判事9人全員が制限導入に反対し、そうした措置を求めている原告側は訴訟を続ける上で必要となる法的な要件を満たしていないと指摘した。


ただ、判断は中絶薬の是非そのものには踏み込んでおらず、アメリカのメディアは今後またこの薬をめぐる新たな訴えが起こされる可能性があると指摘している。


中絶問題は11月の大統領選でも争点の一つになっている。トランプ前大統領は「各州の判断に委ねるべきだ」との立場をとっている。

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