韓国統計庁が2月28日に発表した「2023年人口動向調査」によると、2023年の出生数は前年から1万9,186人減少し、23万人だった。また、合計特殊出生率は前年に比べ0.06低い0.72で、8年連続で過去最低を更新した。
合計特殊出生率0.72はOECD加盟国の中で最低で、1.00を切ったのは韓国のみだ。同時に発表した2023年第4四半期(10~12月)の合計特殊出生率は0.65で、四半期ベースで過去最低、初めて0.70を割った。
なお、中国については下記参照
2022/1/20 中国の出生率、建国以来最低、2021年1,062万人で5年連続減
尹錫悦大統領直属の「低出産高齢社会委員会」は6月19日、大統領の主宰で会議を開き、次のような内容の「少子化傾向反転のための対策」を発表した。
育児休職給与が月最大150万ウォン(約17万円)から250万ウォンに100万ウォン引き上げられる。 (1ウオン=0.11円)
育児休職は必要な場合、2週間単位で分けて使える。
妻の出産時、夫が使える有給休暇は1カ月に増える。
公共住宅を分譲する時、新生児特別供給も新設される。
委員会は少子化問題解決に向けた3大核心分野として
▽仕事・家庭の両立
▽養育
▽住居--を挙げた。
今回の対策を通じて大統領の任期内に出生率を反騰させて、2030年までに「合計特殊出生率1」(2001年の水準)に戻すという目標も掲げた。
尹大統領はこの日の会議で「人口国家非常事態」を公式宣言して「少子化問題を克服するまで汎国家的総力対応体系を稼動する」と述べた。
「(これまで注ぎ込んだ多くの)百薬が無効であり、大韓民国の存亡まで心配しなければならない状況」としながら「これからは国家総力戦を行って暗鬱な未来を希望に満ちたものに変えなければならない」と強調した。 人口減などで滅亡したとされる古代ギリシャのスパルタの歴史に触れ、「少子化問題を克服するまで国を挙げた総力対応体制を取る」と述べた。
韓国政府はこれに伴い、低出産高齢社会委員会を人口非常対策会議に切り替えて毎月開くことにした。大統領が委員長を、低出産高齢社会委員会委員長が幹事を務め、対策推進と補完事項などを点検する。
副首相級部署である人口戦略企画部を新設し、政策を安定的に推進するために別途の「財布」である人口危機対応特別会計も導入する。
少子化対応関連の予算が重複、浪費なくうまく行き届くように研究開発審査水準の事前審議制導入も検討する。
今回の対策は▽仕事・家庭の両立▽養育▽住居など3大核心分野に集中した。
特に仕事・家庭両立分野に最も多くの支援が集中する。
新規に追加される予算4兆ウォンの80%がここに使われる。
まず、多くの両親が育児休職を使うように休職期間に給与の一部(75%)だけを受け取り、残り(25%)は復職後6カ月働かないと出さないという「事後支給金制度」を撤廃する。
(この制度は労働者が休職を終えた後に復職し、すぐ会社を辞めることを防ぐために2011年に導入された。)
現在、通常賃金の80%を支給している育児休職給与額は今後満額支給する(最初の6カ月)。
月間給与最大上限額も現行150万ウォンから250万ウォンに引き上げる。
これに伴い、1年間育児休職を取ると受け取ることができる最大金額が1800万ウォンから2310万ウォンになる。
このようになれば所得代替率が60%(現行38.6%)に上がる。上限額を250万ウォンに引き上げたことに対して副委員長は「(月平均報酬)268万ウォン程度の中小企業労働者をターゲットにした」とし「もっと引き上げたいところだが、財政条件を勘案して需要が多い機関を中心に上げる形にした。財政条件が許せば改善していきたい」とした。
韓国政府は男性育児休職率を2027年までに50%(2023年 6.8%)に、女性は80%(2023年 70%)に引き上げるという目標を掲げた。
2週間単位の短期育児休職導入も予告した。休みや面談の時、子どもが病気のときにすぐに短く使えるようにする。
父親出産休暇は現在の10日から20日に増やす。勤務日基準なので、週末を含めれば1カ月まで休むことができる。
分割を3回まで許容し、請求期限を90日から100日まで延ばす。 また、出産休暇や育児休職を周囲の目を気にしないで使えるように、一度に統合申請することも可能にし、両親が合わせて最大2年使うことができる育児休職を1年6カ月ずつ(両親がともに3カ月以上使う場合)合計3年使えるようにすることにした。
育児期の短縮労働時には会社に同僚業務分担支援金を月20万ウォンずつ支援する。
ケア支援制度も強化される。現在0~2歳だけが対象の無償教育・保育を来年5歳、その後は2027年までに3~4歳に拡大することにした。
モデル事業を通じて外国人家事管理士も100人投じることにした。雇用労働部関係者は「成果評価に基づいて来年上半期までに規模を1200人水準に増やすのが目標」と話した。
住居支援も大幅に増強し、結婚と出産がマイホーム購入のメリットになるようにした。今年グリーンベルトを解除して新規宅地を2万戸用意するが、このうち新婚・出産・多子世帯に70%の1万4000戸を供給することにした。
国民対象の少子化克服公募展で1等を取ったアイデアも対策に含まれた。公共賃貸住宅に居住する新婚夫婦が子どもを産めばさらに大きな坪数の家に引越しできるようにサポートし、再契約も最大20年まで許容する。結婚特別税額控除を100万ウォン限度で新設する。
新生児特例融資を受けることができる夫婦合算所得要件も来年1月1日から3年間、出産した世帯に限って年間2億5000万ウォンに増える。
所得制限を事実上廃止して高所得の共稼ぎ夫婦も低金利の新生児特例融資を受けられるようにした。
子どもを産みたいと思う不妊治療中の夫婦に対する支援も手厚くなる。不妊治療支援に関連し、年齢や回数制限をすべて緩和した。
年齢を問わず不妊治療施術の時に健康保険本人負担率を30%に引き下げ(現在は45歳以上に50%支援)と施術支援も子女当たり25回(体外受精20回、人工受精5回)に拡大することにした。
「育児休職の回数を増やして分けることはどれも良いが、企業がそれを了承してくれるか心配」で、「正直言って、今でも妊娠された方々が周囲の目を気にして短縮勤務を十分活用することができないでいる」との意見もある。
今回の政府の方針について、従来の福祉強化政策の枠組みから抜け出せていないという指摘が出る。
ソウル大学保健大学院のチョ・ヨンテ教授は「構造的な対応策が抜けている」と話した。
例えば教育体系や大学入試制度を出生児童20万人時代に合わせ変えるべきなのに70万人時代のやり方を固守しているということだ。
人口非常事態を宣言したが核心政策である外国人・移民政策がほとんど検討されていない点も限界と指摘される。
人口戦略企画部に少子化予算事前審議権を与えることにしているが、審議結果を企画財政部がそのまま受け入れるかもカギだ。育児休職大幅拡大などが目立つのは事実だが、日本のように子ども3人以上の世帯の子ども(但し2人まで)の大学授業料免除、高校生までの児童手当て支援のような破格な対策はない。
結婚と出産を敬遠する若年層の考えを変えられるか疑問だ。今回の対策に対する20~30代の反応は交錯している。
「育児休職給与の引き上げはとても肯定的だ。政府が何かをしようという意志があるようだ」、「育児休職給与の引き上げと事後支給金廃止はとてもよい」との意見がある 反面、企業と社会の認識変化がなければ実効性が落ちるという懸念も聞かれる。
(主に韓国の中央日報の記事による)
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