スイスの製薬大手Rocheは7月17日、肥満症治療などの候補薬「CT-996」が、初期段階の臨床試験で平均約7%減量できる結果を得たと発表した。
CT-996は、2型糖尿病および肥満の治療のために開発中の1日1回経口投与の小分子GLP-1受容体作動薬。
データは、肥満で2型糖尿病のない参加者において、プラセボ調整後の平均体重減少が4週間以内に臨床的に意味のある-6.1%を示したことを示している。治療開始から4週間後、CT-996は臨床的に意味のある体重減少(-7.3%)を示した(プラセボ群の体重減少は-1.2%)。
薬物動態データは、CT-996の1日1回経口投与のレジメンを支持している。
予期しない安全性シグナルは観察されなかった。
5月15日には子会社Genentechが別の候補薬:肥満患者に対するデュアルGLP-1/GIP受容体作動薬「CT-388」でも臨床試験で良好な成績が得られたと公表していた。
CT-388の第Ib相試験で良好な結果を報告
24週間にわたり、週1回の皮下投与で、臨床的に有意かつ統計的に有意なプラセボ調整後の平均体重減少率18.8%(p < 0.001)を達成した。
24週目には、CT-388治療を受けた参加者全員が体重減少率5%以上を達成し、70%が15%以上、45%が20%以上の体重減少を達成した。
ベースラインで前糖尿病のサブグループでは、CT-388治療により全患者の血糖値が正常化し、グルコース恒常性に強い影響を示した。
新たな安全性の問題や予期しない副作用は検出されず、CT-388はその薬剤クラスに一致する安全性および忍容性プロファイルを示した。
Rocheは2023年12月4日に、肥満症薬の開発を手掛ける米 Carmot Therapeuticsを買収すると発表したが、CT-996、CT-388は Carmot の開発品。
Rocheは肥満症や糖尿病の治療薬は成長が見込める分野で、開発競争で先行するデンマークのNovo Nordisk 、米Eli Lilly などに対抗する。
新タイプの肥満症治療薬の利用者が、米国を中心に世界で急増している。先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手Novo Nordisk のWegovy(ウゴービ )で、2021年に米国で承認された。もともと糖尿病(内臓脂肪の蓄積が主な原因)のために開発した薬(GLP-1受容体作動薬)を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。日本では「セマグルチド(遺伝子組換え)」として2023年3月に承認された。
米Eli Lillyは昨年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬Zepboundを米市場に投入した。
CNBCによると、各社の開発状況は下記の通り。
製品名
メーカー
用法
米承認
Wegovy
Novo Nordisk
週1回の注射
2021 承認
GLP-1を活性化
Zepbound
Eli Lilly
週1回の注射
2023 承認
GLP-1とGIPを活性化
Saxenda
Novo Nordisk
週1回の注射
2020 承認
GLP-1を活性化
MariTide
Amgen
月1回の注射
Experimental
GLP-1を活性化し、GIPをブロック
Danuglipron
Pfizer
1日1回の錠剤
Experimental
GLP-1を活性化
VK2735
Viking Therapeutics
週1回の注射
Experimental
GLP-1とGIPを活性化
Pemvidutide
Altimmune
週1回の注射
Experimental
GLP-1を活性化
GSBR-1290
Structure Therapeutics
週1回の錠剤
Experimental
GLP-1を活性化
Survodutide
Zealand Pharma,
Boehringer Ingelheim週1回の注射
Experimental
GLP-1とグルカゴンを活性化
2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増
ーーー
Rocheは2023年12月4日、カリフォルニア州バークレーに拠点を置く非公開の米国企業Carmot Therapeuticsを買収する最終合併契約を締結したと発表した。
Carmot TherapeuticsのR&Dポートフォリオには、肥満患者と糖尿病患者の両方に対して治療効果が期待される臨床段階の皮下注射および経口インクレチンが含まれており、複数の前臨床プログラムも存在する。
食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンをインクレチンといい、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド )とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)がある。
2型糖尿病に対する治療薬として注目されるのがGLP-1である。GLP-1は、食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、すい臓のβ 細胞表面にあるGLP-1の鍵穴 (受容体) にくっつき、β 細胞内からインスリンを分泌させる。GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴がある。摂取した食物の胃からの排出を遅らせる作用や食欲を抑える作用などもある。
GIPも食欲を抑制するだけでなく、体内での糖分や脂肪の分解を改善する可能性がある。
買収により、Rocheは以下を含む差別化されたインクレチンのポートフォリオを得た。
- CT-388:肥満患者および2型糖尿病患者に対する治療を目的としたフェーズ2準備中のデュアルGLP-1/GIP受容体作動薬(膵臓からのインスリン分泌を促し、そのインスリンの作用より血糖値を下げる薬 )。
週に一度皮下注射し、単独療法および組み合わせ療法としての可能性を持ち、体重減少を改善し、他の適応症にも拡大できる可能性がある。
- CT-996:現在フェーズ1にあり、肥満患者および2型糖尿病患者に対する治療を目的とした一日一回経口投与の小分子GLP-1受容体作動薬。
- CT-868:肥満または過体重の1型糖尿病患者を対象としたフェーズ2の一日一回皮下注射デュアルGLP-1/GIP受容体作動薬。
コメントする