米最高裁、トランプ氏の免責特権を一部認め、下級審に差し戻し

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米連邦最高裁は7月1日、トランプ前大統領が2020年米大統領選の敗北を覆そうとした罪で起訴されている裁判を巡り、在職中の公的な行為について「免責特権」を認める判断を下した。

最高裁が大統領経験者に何らかの刑事免責を認めるのは初めてだが、私的な行為については免責特権は適用されないとし、トランプ氏の行為の免責が適用される範囲を審理するよう下級審に差し戻した。

判決は6対3で、保守派判事全員が支持、リベラル派3人が反対した。

 最高裁判事

性別 born 人種背景

指名した大統領

就任日 判断傾向
Clarence Thomas 男性 1948/6 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守
John Roberts  (Chief) 男性 1955/1 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守
Samuel Alito 男性 1950/4 イタリア系 2006年1月31日 保守
Sonia Sotomayor 女性 1954/6 ラテン系 Barack Obama 2009年8月8日 リベラル
Elena Kagan 女性 1960/4 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル
Neil Gorsuch 男性 1967/8 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守
Brett Kavanaugh 男性 1965/2 白人系 2018年10月6日 保守
Amy Coney Barrett 女性 1972/1 白人系 2020年10月26日 保守
Ketanji Brown Jackson 女性 1970/9 アフリカ系 Joe Biden 2022年6月30日 リベラル

トランプ訴訟以前には、最高裁は言うまでもなく、どの裁判所も大統領が刑事訴訟を免れることができるかどうかという問題について判決を下したことはなかった。

判決文を起草したロバーツ最高裁長官は、「大統領は法の上に立つ存在ではない」としつつ、「だが議会は、憲法の下で行政府の責任を遂行する大統領の行為を犯罪とすることはできない」と記した。

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ジャック・スミス特別検察官は2022年11月、トランプ前大統領への捜査責任者になるよう任命された。

スミス特別検察官は、トランプ前大統領を2回起訴した。2020年大統領選の結果を覆そうとしたとされる事件と、機密資料を不正に取り扱ったとされる事件での違法行為40件についてである。

トランプ氏は刑事裁判の被告になり得ないと申し立てていたが、ワシントンの連邦地裁が2023年12月1日、大統領の免責特権が適用されるとしたトランプ氏側の主張を退けた。

大統領在任中に行った行為について、退任後に刑事責任を問えないと結論付ける法的根拠はないと判断した。

連邦地裁は起訴が合衆国憲法修正第1条で保障された言論の自由を侵害するとしたトランプ氏の主張も退けた。

トランプ氏が控訴、裁判は2024年3月に始まる予定だったが、トランプ氏が判決を不服として控訴すれば、高裁、さらには最高裁で免責特権について審理が行われる間、スミス特別検察官の裁判は延期されることになる。

このため、検察側ジャック・スミス特別検察官は、免責特権についての審理を早急に進めようと、通常の控訴裁の判断を待たずに、最高裁に審理を求めた。

しかし、連邦最高裁は2023年12月22日、「大統領在任中の行動は刑事責任を免れる」というトランプ前大統領の主張を、現段階では審理しないと決めた。説明なしに簡潔な1ページの命令で出された。

最高裁が現段階で審理しないと決めたため、免責特権をめぐる判断は通常どおり控訴裁で審理されることになり、その結果2月3日に、「スーパーチューズデー」の前日の2024年3月4日に予定されていた乱入事件についての初公判は延期が決まった。

米首都ワシントンの連邦控訴裁判所は2月6日、トランプ前大統領について、大統領免責特権を認めず、2020年大統領選の結果を覆そうと企てた罪で起訴されうるとの判決を出した。

連邦控訴裁の判事3人は全員一致でトランプの主張を退けた。判決は、「選挙結果の承認と実施という行政権に対する最も基本的なチェック機能を無力化するような犯罪も犯せる無制限の権限を大統領はもっているとするトランプ前大統領の主張は、受け入れることができない」とした。

トランプ陣営は、判決直後に声明を発表。「(前大統領は)DC巡回控訴裁判所の判決に謹んで異を唱え、上訴する」とした。また、「大統領に免責が認められないなら、今後退任する大統領はすべて、対立政党から即座に起訴されることになる」、「完全な免責がなければ、米大統領はまともに機能できない」と主張した。

トランプ前米大統領は2月12日、大統領の免責特権を認めないとした連邦控訴裁の判決を保留するよう最高裁に要請した。最高裁の判断は裁判日程を左右し、大統領選の行方に影響を与える可能性がある。

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ロバーツ最高裁長官は今回の判決で、大統領は訴追を恐れることなく公正に職務を遂行する必要があるとし、

「憲法上の核となる権限」については 「絶対的」な免責が与えられるとし、
公務の外枠内の行為」については 少なくとも免責が推定される」とした。一方で、
「非公式の行為」については 「免責はない」とした。


最高裁は起訴状に含まれるトランプ氏の4つの行為を分析した。

選挙後の司法省当局者との会話 完全に免責
バイデン大統領の当選を議会で認定しないよう当時のペンス副大統領に圧力をかけた 免責が推定される(presumptive immunity)としたが、下級審に審理を差し戻し。
認定手続きで自身を支持する偽の選挙人を集めたとされる行為 下級審に差し戻し。
議会襲撃事件に関連した行為 下級審に差し戻し。


最初の「選挙後の司法省当局者との会話」は下記の事態である。

検察は、トランプ氏が司法長官代行に対し、選挙不正があったとする訴訟を推し進めるよう働きかけ、抵抗した場合は解任すると脅したと主張している。

リベラル派のソトマイヨール判事は反対意見で、今回の判決によって大統領は政敵の暗殺を軍に指示したり、権力を維持するために軍事クーデターを起こしたりしても免責されることになるとし、「あらゆる公的権限の行使において、大統領は法を超越した王になった」と痛烈に批判した。

Roberts長官は保守派でありながら、いろいろなケースで独自の意見を述べてきた。Trump元大統領が強引に選出した3人の判事とは全く異なる。その長官が今回の強引ともみえるトランプ擁護の判決文の筆者であることに驚きを感じる。

最高裁の判断を受け、初公判は11月の大統領選前には開かれない可能性が高まった。返り咲きを目指すトランプ氏は最高裁の判断を歓迎、自身のソーシャルメディアに「われわれの憲法と民主主義のための大きな勝利だ。アメリカ人であることを誇りに思う」と投稿した。

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この判決を受け、バイデン大統領は「大統領ができることに事実上制限がないことを意味するもの」で「根本的に新しい原則で危険な前例だ」と最高裁の判断を批判した。

トランプ氏の支持者が21年1月6日に連邦議会議事堂を襲撃した事件に関連し、「1月6日のドナルド・トランプ氏による米国の民主主義への攻撃の結果、彼が公職に不適格かどうか、国民は判断を下さなければならない」と呼び掛けた。

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