公正取引委員会は2024年7月5日、トヨタ自動車の子会社が製品製造に使う金型などを取引先に無償で保管させたなどとして、下請代金支払遅延等防止法(下請法)に基づき再発防止を勧告した。
公取委は、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(以下、TCD)に対し調査を行ってきたところ、下請代金支払遅延等防止法第4条第1項第4号(返品の禁止)及び同条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)の規定に違反する行為が認められたので、下請法第7条第2項及び第3項の規定に基づき、同社に対し勧告を行った。
注)TCDはトヨタや日野自動車の特装車事業を手がける。出資はトヨタ自動車が90.5%、豊田通商が9.5%
違反事実の概要
(1) TCDは、資本金の額が3億円以下の法人たる事業者に対し、自社が販売する又は製造を請け負う自動車に架装(自動車の外観変更や機能向上のための外装品や内装品を装着すること)する外装及び内装用の製品の製造を委託している。
(2) ア TCDは、下請事業者に対し、下請事業者から製品を受領した後、当該製品に係る品質検査を行っていないにもかかわらず、当該製品に瑕疵があることを理由として、2022年7月から2024年3月までの間、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該製品を引き取らせていた。
イ 返品した製品の下請代金相当額等は、総額5427万3356円である(下請事業者65名)。
(3)ア TCDは、下請事業者に対して自社が所有する金型等(製品の製造に用いる金型、製品の塗装・メッキ処理等の加工を行う際に用いる治具及び製品のサイズを正確に確認するための計測器具である検具)を貸与していたところ、遅くとも2022年7月1日以降、当該金型等を用いて製造する製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計664個の金型等を無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(下請事業者49名)
イ TCDは、2022年7月から2024年3月までの間に、前記664個のうち、合計108個の金型等を廃棄している(下請事業者3名)。
(4) TCDは、前記(2)の行為について、2024年6月20日、下請事業者に対し、返品した製品の下請代金相当額等を支払っている。
TCDの発表によると、一部の対象金型などはすでに廃棄の対応をしており、補償の協議も始めたという。保管費用に相当する額は、公取委の確認を得た後、速やかに支払うとしている。勧告対象期間以外についても総点検し、違反行為が認められた場合は生じた金銭負担相当額を支払う。
金型はプレスや鋳造などで製品を大量生産する際に使われ、国内では生産金額の約7割を自動車用が占める。旧来の業界慣行では量産期間中は受注側がほぼ無償で管理・修繕をするなど取引条件の曖昧さが問題視されていた。
公取委の上席下請取引検査官を務める大沢一之氏は同日の記者会見で、金型の無償保管などについて「わりと取引慣行として定着してしまっている部分がある」と指摘した。
本来無料で保管していること自体が「おかしい」が、下請けが保管費用の支払いを求めた事例が確認されていないことなどから、下請け側も同慣行に慣れてしまっている可能性がある、と続けた。
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上記の通り、下請取引については下請法では違法であるが、「取引慣行として定着している」ものが多い。
下請法に関しては、日産自動車が下請法勧告後も違反行為をしていたのではないかとして問題になったばかり。
2024/5/20 日産自動車、下請法勧告後も違反行為継続か?
公正取引委員会は5月27日、人件費や原材料費が高騰する中、中小企業などが価格転嫁しやすくするため、下請法の運用基準を改正した。
大企業などがコストが上がっていることを把握しながら取引価格を据え置く行為を「買いたたき」と明記し、違反行為には指導や勧告など強い姿勢で臨み、取引慣行の改善を目指す。
2024/5/28 公取委、下請法運用基準を改正、コスト上昇時の価格据え置きは「買いたたき」
今後、下請法として問題とされる事態が多数出ると思われる。
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日野自動車やダイハツ工業、豊田自動織機などグループ会社で相次いで起きた認証試験での不正が6月、トヨタ本体でも発覚するなど同社の企業統治(コーポレートガバナンス)が疑問視されている中での新たな不祥事となり、親会社としての責任が改めて問われそうだ。
2021年には国内ディーラーの「車検不正」の大問題が見つかった。
トヨタ自動車は2021年9月29日、トヨタ系販売大手のATグループ傘下の販売会社「ネッツトヨタ愛知」の不正車検に始まるトヨタおよびレクサス販売店における不正車検問題を受けて、全国販売店の4852拠点を総点検した結果を発表した。
販売店11社12店舗で不正車検を実施していたことが判明した。対象となる車両は1345台である。
2022年に日野自動車のエンジンの排出ガス/燃費の認証不正が表面化、そして2023年4月にダイハツの衝突試験認証不正、その後に豊田自動織機でもフォークリフト向けエンジンの認証不正が発覚した。ダイハツ不正は拡大し、2023年末から国内出荷を全面的に停止する事態に発展。
豊田自動織機のエンジン不正はディーゼルエンジンの出力認証不正に発展し、そのエンジンを搭載するハイエース、ランドクルーザーなどの人気モデルが出荷停止に追い込まれた。
ダイハツ工業や豊田自動織機での不正発覚を受け、国土交通省は2024年1月に、型式指定を取得している自動車メーカーら85社に対して申請における不正行為の有無などに関する調査・報告を指示した。
その結果、同年5月31日までに、トヨタ自動車とホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社から、不正行為が行われていたとの報告があった。同省は、事実確認などのため、これら5社に立ち入り検査を実施。トヨタ自動車とマツダ、ヤマハ発動機については、現行の販売車種が含まれており、該当車種の出荷を停止する事態となった。
トヨタが不正を行った試験項目は、[1]前面衝突時の乗員保護試験、[2]オフセット衝突時の乗員保護試験、[3]歩行者頭部及び脚部保護試験、[4]後面衝突試験、[5]積み荷移動防止試験、[6]エンジン出力試験の6つ。
[1]~[5]については悪質性は低そうで、実は、トヨタ自動車は認証試験よりも厳しい基準(条件)で開発している。従って、実質的な性能に問題はないが、認証試験では法規が定めた手順・条件を順守していないため不正と判断された。
一方、[6]のエンジン出力試験は意図的に不正な操作を施したもので、「悪質」とのそしりを免れない。
国土交通省は7月5日、トヨタ自動車から「新たな不正は確認されなかった」との報告を受けたと発表した。同省は不正行為の原因を継続調査するよう同社に指示。再度立ち入り検査を行った上で、行政処分の可否を判断する見通し。
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