抗生物質原体の国内生産

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抗生物質(抗菌性物質製剤)は、供給が途絶すると国民の生存に直接的かつ重大な影響が生じるが、その中でも注射剤の大半を占める βラクタム系抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系などに区分される)は、その原材料をほぼ100%中国に依存している。   

抗菌薬の中で微生物が作った化学物質を抗生物質、抗生剤という。         

実際に、βラクタム系抗菌薬として汎用されるセファゾリンナトリウムについては、中国での製造上のトラブル等に起因し、2019 年に長期にわたって供給が滞り、国内での医療の円滑な 提供に深刻な影響を及ぼす事案が発生した。サプライチェーンの構造を踏まえれば、今後も供給途絶のおそれがある。

発端は、原材料をつくる中国メーカーの工場の稼働停止。排水処理に問題があるとして、中国当局の指導で操業できなくなった。日本で流通する抗菌薬は日医工などのジェネリック薬(後発薬)メーカーが製造しているが、その原材料となる化学合成物質は中国から調達している。

「国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、安全保障を確保するため、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大していることに鑑み」、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進することを目的に、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律:「経済安全保障推進法」が2022年5月11日に成立し、同月18日に公布された。

2022年12月23日に経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令が施行され抗菌性物質製剤が経済安全保障推進法第7条の規定に基づく特定重要物資として指定された。 

抗菌性物質製剤の安定供給を図ろうとする事業者は抗菌性物質製剤の安定供給にかかる計画の認定を受けることで、取組方針に基づく支援を受けることができる。


2024年7月5日の日本経済新聞は「抗生物質も脱中国 薬安定供給へ国産化」という記事を掲載、そのなかで、「厚労省は明治ホールディングス系のMeiji Seikaファルマと塩野義製薬系のシオノギファーマが率いる2つの事業を支援し、設備投資を2件合計で約550億円補助することを決めた」と報じている。

2社を認定したことは下記のとおり発表しているが、補助金額は明らかにして おらず、日経の取材によるものと思われる。


抗菌性物質製剤に係る安定供給確保を図るための取組方針 (2023/1/19)

取組方針では、βラクタム系抗菌薬について、製造設備の整備により国産原料由来の原薬を提供可能とすることに加えて、原材料及び原薬の備蓄設備の構築を通じて、海外からの原薬の供給が途絶した場合であっても医療現場に切れ目なく製品を供給する備蓄体制を一体的に整備することとしている。

計画の認定実績

No. 認定供給確保業者 安定供給確保を図ろうとする特定重要物質 認定日
Meiji Seika ファルマ㈱
富士フィルム富山化学㈱
大塚化学㈱
ペニシリン系2剤

 アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム
 ピペラシリンナトリウム・タゾバクタムナトリウム


〈取組内容〉
・原薬等製造設備導入
・備蓄体制整備

2023/7/7
2 シオノギファーマ㈱
Pharmira ㈱ *
セフェム系抗生物質
 セファゾリンナトリウム

セファマイシン系抗生物質
 セフメタゾールナトリウム


〈取組内容〉
・原薬等製造設備導入
・備蓄体制整備

2023/7/28

* シオノギファーマは、同社及び千代田化工建設、大成建設、藤本化学製品、竹中工務店、横河電機、長瀬産業によって設立された合弁会社であるPharmira を2024 年4 月1 日付けで吸収合併した。

セフェム系抗菌薬を含むβラクタム系 抗菌薬 は、感染症の治療だけに限らず、手術時の感染予防等のための診療ガイドラインにおいても推奨薬に位置づけられるなど、医療上の必要性が極めて高いとされてい る。
セファゾリンナトリウムについては、中国での製造上のトラブル等に起因し、2019 年に長期にわたって供給が滞り、国内での医療の円滑な 提供に深刻な影響を及ぼす事案が発生した。

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