2024年イグノーベル賞

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2024年のIg Nobel 賞の受賞者が9月12日(日本時間13日)に発表され、生理学賞は、東京医科歯科大学と大阪大学で教授を務める武部貴則氏らの研究チームによる「多くの哺乳類が肛門呼吸できることの発見について」に贈られた。

武部貴則教授(37)の専門は実は「再生医学」で、11年前に共同研究者とともにヒトのiPS細胞から肝臓の機能を持つ細胞のかたまりを作ることに初めて成功した。

2019年にはヒトのiPS細胞から肝臓やすい臓など複数の臓器を同時に作り出すことにも成功している。

今回の研究を始めるきっかけとなったのは、田んぼなどに生息する「ドジョウ」で、ドジョウは酸素が少ない環境ではえらだけでなく腸でも"呼吸"できるという特徴があるため、哺乳類の中にも同じように腸から酸素を吸収できるものがいるのではないかと考えた。


実験では肺の機能が低下したブタのお尻から高い濃度の酸素を含む特殊な液体を入れ、体内に酸素がどれくらい取り込まれるかを調べた。その結果、血液中の酸素の量が大幅に増えた。

さらに▽酸素を含む液体を注入したマウスは酸素が少ない環境でも活発に動き回る様子が確認できたほか、▽呼吸不全の症状のあるブタに酸素の液体を注入したところ、症状が改善した。

この研究の論文は3年前の2021年、新型コロナウイルスの感染拡大によって各地の医療機関で重い肺炎の患者が相次ぐ中、発表された。

呼吸不全の新たな治療法として、実用化に向けた研究は現在も進められていて、ことし6月には武部教授が創業したベンチャー企業などが安全性などを確認する臨床試験を始めている。

株式会社EVAセラピューティクスは、腸呼吸を応用した治療法や医療機器を開発する東京医科歯科大学発ベンチャー企業。

武部貴則教授の研究チームが開発した、腸を用いたガス交換により血中酸素分圧を上昇させる「腸換気技術(EVA法)」の実用化を目的として設立。

腸管内に純酸素ガスもしくは酸素が豊富に溶けたパーフルオロカーボン(炭素とフッ素のみから構成される化学物質)を注入することで肺を介さずに呼吸不全を緩和できる可能性があり、人工肺(ECMO)や人工呼吸器の離脱促進や上気道閉塞における急性期の呼吸管理法としての利用を見込む。

EVA法は、内閣府主催の「第4回 日本オープンイノベーション大賞」において、「腸換気(EVA)技術の実用化」として科学技術政策担当大臣賞を受賞した。


なお、日本人の
イグノーベル賞受賞は18年連続。 過去の受賞者


本年のその他の受賞(9件)は次の通り。

平和賞
B.F. Skinner
ミサイルの飛行経路を誘導するために生きたハトをミサイル内に飼育することの実現可能性を調べる実験

第二次世界大戦時に海軍研究所で行われた研究プログラムで、ミサイルの誘導にハトを使うことが検討された

鳥を垂直に透明なプラスチック板(スクリーン)の上に配置する新しいハーネスシステムを考案し、ニュージャージー海岸のどこかにあるターゲットの投影画像をスクリーン上で「つつく」ように訓練した。
誘導信号は、スクリーンとくちばしが接触したポイントから拾われた。
最終的には、システムをより強固なものにするために、3羽の鳩を使用するバージョンを作成した。

この時点で、軍事の焦点はマンハッタン計画に移っており、この案は却下された。

植物学賞
Jacob White
Felipe Yamashita

「本物の植物が隣接するプラスチック製の人造植物の形状を模倣することの発見」

ホワイト氏とヤマシタ氏(ブラジル人、ボン大学)は、チリ南部の熱帯樹林に生育するBoquila trifoliolataというつる植物をプラスチック製の藤の木にまとわせたところ、Boquila trifoliolataの葉色・向き・葉脈パターンがプラスチック製の藤の木についている偽物の葉を模倣したことを発見した。

Boquila trifoliolataが宿主植物の模倣をすることは知られていたが、どういう情報経路で模倣を行うかはわかっておらず、化学物質経由か遺伝子経由であると考えられていた。しかし、今回の実験でプラスチックの植物も模倣したことから、「これまで考えられた2つの可能性は否定された」と論じている。

解剖学賞
Marjolaine Willems

「毛髪形成における遺伝的決定論と半球の影響」

研究チームは、北半球に住んでいる人と南半球に住んでいる人、そして同性の双生児74組でつむじの向きをチェックした。

その結果、双子のつむじの向きは同じであったことから、つむじの向きへの遺伝的影響は強いことが判明。
さらに、南半球の子どものつむじ毛は北半球の子どもよりも反時計回りの傾向が高いこともわかり、研究チームはHemispheric Influenceの可能性が示唆されたとしている。

薬学賞
Lieven A. Schenk
痛みを伴う副作用を引き起こす偽薬は、痛みを伴う副作用を引き起こさない偽薬よりも効果的である可能性があることについて


研究チームは77人の健康な参加者に「フェンタニル(鎮痛薬)鼻腔スプレーを投与する」と伝えて投与する実験を行った。
実際には一方のグループには中性のスプレー、一方にはカプサイシン(軽度の灼熱感を引き起こし、偽の副作用として機能)を含むスプレーが与えられた。

実験の結果、偽の副作用を引き起こすプラセボスプレーの方が、副作用のないプラセボスプレーよりも効果的に痛みを軽減することが明らかになった。
これは参加者が灼熱感を副作用として期待し、それによってスプレーが効いていると思い込んだためと考えられる。軽度の副作用が実際には治療効果を高める重要な役割を果たす可能性があることを示唆している。

物理学賞
James C. Liao
死んだマスの遊泳能力の実演と説明

魚は渦流のエネルギーを利用することでエネルギー消費を抑えていると考え、泳ぐ動きを変えて流れ​​に同期するニジマスを実験対象として選んだ。

ニジマスの死骸を流水装置に入れたところ、速度変化をつけることはできないという違いはあるものの、生きたニジマスと同じような動きをすることが分かった。「つまり、魚は渦流から十分なエネルギーを引き出して自身の抗力を克服することができ、羽ばたく物体はたとえ遠く離れていても、エネルギーを消費することなく、別の航跡を生成する物体を追うことができるということです」

確率賞
František Bartoš
コインを投げた時、最初に上にしていた面が出る確率の方が高いという理論を35万757回の実験で示したことについて


理論的にはどちらも2分の1で等しいはずだが、実際にはコインの重心に偏りがあり、コインを投げるとその回転軸の方向が変化するため、最初の面を上にして空中にある時間がより長くなると研究チームは予想した。テストの結果、最初に上にしていた面が出る確率の方がわずかに高いことが示された。

化学賞
Tess Heeremans
酔った虫と酔っていない虫を分離するためのクロマトグラフィーの使用

自己駆動粒子(自分で速度を変えられる物質や物体)に関するもので、研究チームはイトミミズを高活性グループと低活性グループに分け、低活性グループにはエタノールを吸収させ、両方のイトミミズを流路に放った。

その結果、エタノールを摂取していない高活性のミミズは、酔っぱらったミミズよりも先に流路の端まで到達した。活性ポリマーを長さと活性で選別するには「構造化された空間中に流れる流路」が適していることを示した。

人口統計学賞
Saul Justin Newman
最も長生きしたことで有名な人々の多くが、出生と死亡の記録がきちんと保管されていない場所に住んでいたことの発見


従来、100歳以上の長寿者が集中する「ブルーゾーン」は、強い社会的つながりや野菜摂取量の多さ、特定の遺伝的要因などと関連付けられてきた。しかし同氏は、貧困や低所得、高い犯罪率といった要因と長寿との意外な関連性に気づき、人口統計データを詳しく調査した。

その結果、各ブルーゾーンのデータに多数の誤りがあることが判明した。例えば、1997年のイタリアでは3万人の死亡者が年金を受給し続けていたり、2000年のコスタリカの国勢調査では99歳以上の42%が年齢を誤って申告していたことが分かった。さらに2010年の日本では、百歳以上の高齢者23万人以上が行方不明、架空の人物、死亡、または事務的ミスによるものであり、82%もの誤りがあったことを明らかにした。ニューマン氏は「他の分野でこれほどの誤りが発見されれば大スキャンダルになるはずだが、人口統計学ではこうした問題がほとんど言及されません」と指摘。

生物学賞
Fordyce Ely
牛がいつ、どのように乳を噴出するかを調べるために、牛の背中にいる猫の横で紙袋を爆発させる実験(猫は不要と判明)


搾乳時に乳を出そうとしない牛と、すぐに乳を出す牛の違いに注目し、乳房からの乳の射出に関わる生理学的プロセスを理解するための実験

乳を出す行為は、血中のオキシトシンによる乳腺内の圧力が高まる条件反射として説明できると結論付けられた。
この条件反射により、乳腺胞と乳管の筋肉が収縮し、乳が放出されると論じている。
また、乳を出さない場合は血中のアドレナリンが筋肉の収縮を妨げ、乳腺内の圧力が高まるのを防いでいることが分かった。


注 人口統計学賞での日本についての記述

2010年9月10日、所在不明高齢者問題を巡り、現住所が不明で住民票が削除されているにもかかわらず、戸籍上「生存」する100歳以上の高齢者が約23万人以上いることが法務省の調査で分かった。
戦争や移民先の海外で死亡したものの、死亡届が未提出の例が多いとみられる。同省は自治体に対し、戸籍の整理・抹消手続きを促す。

同省は2010年8月末から9月初めにかけ、電子化された戸籍を中心に、全体の約9割にあたる約4743万戸籍を調査。現住所や住所履歴を記す戸籍の「付票」に住所の記載がない100歳以上が23万4354人。うち「120歳」以上が7万7118人、「150歳」以上は884人だった。

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