京大、iPSで糖尿病を治療  

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京都大学病院はiPS細胞から作った膵臓の細胞のシートを糖尿病の患者に移植する臨床試験を2025年にも実施する。

膵臓の細胞が正常に働かず血糖値が上昇し、様々な合併症を引き起こす重症の1型糖尿病の患者にiPS細胞から作った膵臓の細胞「膵島細胞」を移植する。

血糖値を下げるための注射を不要にしたり、回数を減らしたりして、患者の負担を軽減できる可能性がある。2030年以降の実用化をめざす。

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膵臓は、アミラーゼやリパーゼなどの消化酵素を分泌する外分泌細胞と、インスリンやグルカゴンを分泌して血糖調節を行う内分泌細胞との2種類の異なる細胞群(組織)からできている。

この血糖調節を行う内分泌組織を「膵島」という。直径が約 0.1〜0.3 mm の球状の塊で、膵外分泌組織の中に点々と散らばっている。

膵臓の中には 成人1人あたり約 100 万個の膵島があり、膵臓を構成する組織の約1%程度といわれている。

膵島のうち、血糖を上昇させる働きがあるグルカゴンを分泌するのがα細胞

血糖を低下させるホルモンであるインスリンを分泌するのがβ細胞

糖尿病には1型と2型がある。

1型は、自己免疫疾患などが原因でインスリン分泌細胞が破壊されるもので、インスリンの自己注射が必要。 患者は通常、インスリン製剤を毎日数回、腹部に自分で注射する必要がある。

2型は、遺伝的要因に過食や運動不足などの生活習慣が重なって発症する。糖尿病の多くは、この2型である。


国内では、亡くなった人の膵臓から膵島細胞を取り出し、重症患者に移植する「膵島移植」が2020年から公的医療保険の対象になっている。
しかし、日本膵・膵島移植学会によると、提供者(ドナー)不足などから、保険適用後に実施されたのは10人以下にとどまっている。

健康な人の膵島細胞を移植する既存の治療法はドナー(提供者)が不足しており、免疫抑制剤による副作用もある。


京大などはiPS細胞から膵島細胞を作ってシート状にする技術を開発し、この技術をもとに京大病院での治験計画を立てた。
2024年の8月下旬に京大の治験審査委員会で承認され、医薬品を承認審査する医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画書を送付した。

健康な人の細胞から作ったiPS細胞から膵島細胞の塊をつくり、複数集めて数センチメートル四方のシート状にする。手術でシート複数枚を患者の腹部の皮下に移植する。

移植したシートが患者本来の膵島細胞の代わりにインスリンを放出し、血糖値を下げることで、患者の体の負担や合併症のリスクを減らせる。

シートは京大と武田薬品工業が中心となって立ち上げ、iPS細胞の事業化を手掛けるオリヅルセラピューティクス(神奈川県藤沢市)が製造する。同社は実用化に向けて今回の治験の後、海外の研究機関や企業などと協力し、規模を拡大した国際共同治験によって有効性を確かめる方針だ。

オリヅルセラピューティクス株式会社 は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業によるiPS細胞共同研究「T-CiRAプログラム」の事業化を目的に発足した研究開発型企業で、創業日 は2021年4月9日
事業内容 は、1.細胞移植による再生医療等製品の開発、2. iPS細胞関連技術を利活用した、創薬研究支援および再生医療研究基盤整備

株主は、京都大学イノベーションキャピタル、武田薬品工業、SMBCベンチャーキャピタル、他

iPS細胞から作った膵島細胞を使う治療法について、主に1型糖尿病の患者支援や治療法の開発支援に力を入れるNPO法人「日本IDDMネットワーク」の井上龍夫理事長は「新しい治療法が従来の課題を解決し、根治に向けた選択肢になると期待したい」と話す。

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世界でも1型糖尿病の治療技術の開発が進む。米バイオ企業のVertex Pharmaceuticalsは6月、1型糖尿病の患者12人にヒトの幹細胞からつくった膵島細胞を移植し、インスリンが作られることを確認したと発表した。うち11人は注射などによるインスリンの投与量が減ったり、投与が不要になったりした。

国立国際医療研究センターはヒトではなくブタの膵島細胞を使う手法の研究を進めており、今後1型糖尿病患者向けに臨床試験の実施を目指す。ヒトの免疫がブタの細胞を攻撃するのを防ぐため、細胞を微小な穴の開いたカプセルに入れて投与する。

ブタの細胞がつくるインスリンはヒトのものとの違いが少なく代用できる。過去にはブタのインスリンを糖尿病の治療に活用していた時代もある。

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