九大、加齢に伴う筋萎縮を抑制する抗体開発

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年齢を重ねると、骨格筋はなぜ萎縮するのか。筋の柔軟性もなぜ低下するのか。「効果的な予防法や治療法はないのか」ー 九州大学農学研究院の辰巳隆一教授らの研究グループは9月25日、加齢に伴う筋萎縮と柔軟性低下を抑制する抗体を開発したと発表した。

九州大学大学院農学研究院の辰巳隆一教授、鈴木貴弘准教授、中島崇助教、中村真子教授らの共同研究グループは、筋幹細胞 (衛星細胞と呼ばれる"眠れる筋組織幹細胞")の活性化因子HGF (肝細胞増殖因子)がニトロ化されると生理活性を失うことを見出し、この現象が加齢に伴い進行・蓄積することによって筋萎縮が進行するという新しい学説を本年1月に発表した。

この研究成果に基づいて、HGFのニトロ化・不活化を抑制するモノクローナル抗体の作出を目指し、これに成功した。

この1C10抗体は、ニトロ化されるチロシン残基の極近傍に結合することで、HGFのニトロ化を抑制する特殊な抗体。

抗体が結合した状態でも細胞膜受容体との結合性は保持されているので、筋幹細胞の活性化とこれに続く増殖・分化などの生理活性も損なうことはない。

また、抗体のFab領域(抗体分子の「Y」の上半分の「V」の部分)がニトロ化抑制効果を発揮することも明らかにした。

これらの研究成果はヒト・ネコ・イヌなどのHGFにも広く適用可能で、ヒトや伴侶動物の加齢性筋萎縮症に対する抗体医薬への応用が期待され、健康寿命の延伸に大きく貢献すると期待される。 

下図の左では、K1のy198、K2のY250はニトロ化していない。(正常)

下図の右ではK1のy198、K2のY250はペルオキシナイトライト(ONOO)によりニトロ化しており、筋萎縮がおこる。

下図中央は今回の成功事例。モノクローナル抗体(1C10)がHGFにペルオキシナイトライト(ONOO)がつくのを防ぎ、ニトロ化を抑制する。

筋幹細胞(別名:衛星細胞):

骨格筋組織に存在する幹細胞。通常は休止した状態にあるが、運動や筋損傷などの物理刺激を受けるとHGF (肝細胞増殖因子)依存的に活性化し増殖を開始する。
その後、増殖した細胞は互いに融合し新しい筋線維(骨格筋を構成する主要な細胞。細長く大きな多核細胞なので"筋線維"と呼ばれる)を形成するほか、既存の筋細胞に融合する。これにより筋線維の肥大・再生が起きる。

活性化因子HGF (肝細胞増殖因子):

1980年代前半に、肝臓から同定された細胞増殖因子。種々の組織や細胞で多彩な機能を発揮しており、多機能性細胞制御因子として認知されている。
骨格筋においては、筋幹細胞の活性化を誘導することが認知されている唯一の因子である。

活性化した筋幹細胞の増殖を促進する一方で、線維芽細胞の増殖や脂肪細胞の肥大化を抑制する働きを知られている。全身性のノックアウトは致死性であることから、HGFの重要性は容易に理解される。

ニトロ化:

特定の芳香族アミノ酸 (主にチロシン残基) の側鎖にニトロ基 (-NO2) を導入する翻訳後化学修飾反応。
生体内において、一酸化窒素ラジカル(*NO)と活性酸素(*02-)との反応により速やかに生成するペルオキシナイトライトによって非酵素的にニトロ化が起こる。

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