ナルコレプシーなどの過眠症患者は、夜間に十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、通常起きている時間帯に自分では制御できない眠気が繰り返し起る。また感情の高まりをきっかけに突然寝てしまう情動脱力発作が起こり うる。
取引先の前で話している途中で寝てしまったとか、学生であれば受験など重要な試験中で寝てしまったとか、日常生活で壮絶なトラブルがある。
運転中などでも起こり得るため、患者の生活の質は大きく低下する。
日本で過眠症治療に使用できる薬剤は、覚醒剤と類似した作用機序を有しており、薬物乱用や依存が問題になる上に、処方できる医師が限られる。
もっともよく効く薬はメチルフェニデート(商品名リタリン)だが、依存性が問題になっており、近年では適応が非常に厳しく制限されるようになってきた。
ペモリン(商品名ベタナミン)はその点の問題は少なく有用な薬だが、劇症肝炎のリスクがあり、アメリカなど他国では使用が禁止されるなど、一癖ある薬である。
マジンドール(商品名サノレックス)も覚醒作用があるが、日本では眠気治療に保険適応がなく、やせ薬としてのみ使用されている。リタリン同様依存性が問題として言われている。
比較的新しい薬として、モダフィニル(商品名モディオダール)がある。依存性が少なく、副作用も少ないので画期的な薬で、最近条件付きで、睡眠時無呼吸症候群にも使用が承認された。ただ、効果がある人とない人がある。
以上 ナルコレプシーなど過眠症で用いられる薬 から
そのため、高い安全性及び有効性の両者を兼ね備えた薬剤の開発が待たれている。
北海道大学大学院医学研究院(2023/4まで東北大学大学院)の吉川雄朗教授らの研究グループは、ヒスタミン代謝酵素であるヒスタミンメチル基転移酵素(histamine N-methyltransferase:HNMT)の阻害薬を用いた研究成果を発表した。
ヒスタミンは脳内で覚醒の維持に重要な役割を果たしている。過眠症の一つであるナルコレプシーでは患者の脳脊髄液中ヒスタミン量が低下していることが報告されていた。
そこで本研究では、脳内ヒスタミンを分解する HNMT を薬物により阻害し、脳内ヒスタミンを増加させた際に症状が改善するかを調べた。
HNMT 阻害薬はマウス脳内ヒスタミン量を増やし、覚醒時間を延長すること、及び過眠症マウスの症状を大幅に改善することを明らかにした。
HNMT の阻害作用があるメトプリンを野生型マウスに投与すると、脳内のヒスタミン量が約2倍に増加し、マウスが長時間起きていることを明らかにした。
メトプリンは 脳内のヒスタミン量を増加させる薬物 で、メトプリンを投与すると脳内のヒスタミン量が増加し、睡眠覚醒や情動脱力発作に影響を与えることが知られている。
Metoprine:製造元:Toronto Research Chemicals Inc、販売元:富士フィルム和光純薬
試験・研究の目的のみに使用されるものであり、「医薬品」、「食品」、「家庭用品」などとしては使用できません。
次にヒトのナルコレプシーと類似した症状を持つ病態モデルマウスにメトプリンを投与し、過眠症状がほぼ完全に消失することを明らかにした。
また、メトプリンの効果は欧米でナルコレプシー治療薬として承認されているピトリサントよりも強いことが示された。
日本発の製薬ベンチャー企業のアキュリスファーマは2024年11月21日、ナルコレプシー患者を対象にしたヒスタミンH3受容体拮抗薬/逆作動薬ピトリサントの国内臨床第3相試験で主要評価項目を達成したと発表した。
これらの結果から、HNMT の阻害はナルコレプシーの有効な治療戦略となるため、これを標的とした新たな創薬研究の発展が期待される。
本研究成果は、2024年10月23日公開の睡眠学の国際専門誌 SLEEP に掲載された。
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