河出書房新社の上記自伝を読んだ。
彼女については下記ブログで取り上げた。
2023/10/3 ノーベル生理学・医学賞に新型コロナワクチンのカリコ氏ら
Katalin Karikoはハンガリー出身で、 セゲド大学在学中からRNA研究に取り組んだ。主要研究はRNAの免疫原性を抑制するヌクレオシド修飾プロセスの発見で、mRNA研究の臨床応用への道を開いた。
1985年に夫と娘と共に渡米し、ペンシルベニア州のテンプル大学でポスドク研究員として働き始めた。しかし、テンプル大学の上司が国外退去させようとしたため、4年間務めた同学を辞職してペンシルベニア大学に籍を移した。
mRNAの抗ウイルス応答が癌ワクチンの腫瘍予防に有効であることが分かったが、応募を重ねても研究助成金がまったく得られず、大学では降格された。
そのなかで学内で免疫学者のDrew Weissmanと知り合い、共同研究から生まれたのが上記の論文である。
Drew WeissmanはHIVワクチン製造のため、抗原を細胞に届ける方法を模索、試していないのがmRNAであった。
やってみると、樹状細胞が想定をはるかに超える大量の炎症性サイトカインを産出した。mRNAが炎症を引き起こす。
mRNAはDNAの遺伝情報をたんぱく質に翻訳する橋渡しの分子である。DNAの情報は転写プロセスでmRNAに写し取られ、mRNAは細胞核から細胞質に移動し、リボソームがmRNAをタンパク質に翻訳する。このタンパク質が細胞や組織で各種の役割を担う。
Katalin KarikoはmRNAを直接、体に投与し、治療やワクチンに必要なたんぱく質を細胞に作らせることを狙った。
問題は注射すると身体の免疫系が異物と認識し、炎症反応を引き起こす。
ミトコンドリアや細菌のRNAは炎症反応大、哺乳類のmRNAや細菌や哺乳類のtRNA(transfer RNA)は炎症反応小と判明。
前者にはRNAヌクレシオド修飾が少なく、後者には多い。修飾されていないRNAが炎症を起こす?10年ほど前にトル様受容体が警戒している事実が判明していた。
RNAで最もよく見られる修飾ヌクレシオドはシュードウリジン。これを持つmRNAは翻訳効率よく、10倍以上のタンパク質を翻訳。
ウリジンをシュードウリジンにかえたmRNAは危険な免疫応答をせず、かつ、より多くのタンパク質を翻訳する。
mRNAは、「アデニンA」「ウラシルU」「シトシンC」「グアニンG」という4種類の塩基からなる。その一つ が問題であることが分かり、それをわずかに細工すること(RNA修飾)で免疫系をすり抜け、炎症を回避し、細胞にたんぱく質を作らせる手法 を考えた。
ウラシルから誘導されるヌクレオシドはウリジンであるが、ウリジンをシュードウリジン(Ψ)などに置き換えると、mRNAの二次構造が変化し、効果的な翻訳を可能にしながら、自然免疫系による認識を低下させる 。
mRNAワクチンはこの発明により可能となった。
しかし、この発見はごく少数の企業を除いて、無視された。
最初に論文を提出したのNature 誌だっが。編集者は論文がIncremental 貢献にすぎないとして即座に却下した。
次に論文をImmunity誌に送った。差し戻しや追加の実験を経て、ようやく掲載が決まった。
電話は鳴らなかった。雑誌が出版された日も、翌日も、翌週も、翌月も、その後の数年で講演に招かれたのは2回だけ(2006年)だった。
2013年にはペンシルベニア大学を放り出された。出勤すると、持ち物が廊下で出されていた。
この論文に注目し、行動したのは、ModernaとBioNTech(&ワクチン開発で提携する Phizer)であった。
2019年末にCOVID-19が発生、2020年1月に中国の張永振がウイルスの遺伝子配列を公表した。
両社は直ちにワクチンを発表した。Katalin Kariko は有名人になった。
偶然の出会いから20年、Drew Weissmanと二人でワクチンを受けた。
なお、彼女の娘のスーザンはボートの米国代表として、2008年の北京五輪、2012年のロンドン五輪で金メダルを取った。
山中伸弥氏の評 「どんな困難や理不尽なことが起こっても屈せず、自身の信念を貫き通してきたカリコ先生を心から尊敬しています」
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