日本のLNG輸入のニーズはたかまっており、輸入量が増大する一方、輸入価格は大幅に上昇している。
また、中部電力は6割がカタール産となっているが、仮にホルムズ湾が閉鎖されると、中部電力は発電量の約4割を失うという。
2011年の日本のLNG輸入7,853万トンのうち、カタールが15.1%、UAEが7.0%、オマーンが4.9%ほかで湾岸諸国が28.1%を占める。
他に、豪州17.8%、マレーシア19.1%、インドネシア11.9%など。原油は官民で200日分の備蓄があるが、LNGには備蓄の義務がなく、電力各社には2~3週間分の在庫しかないとされる。
一方、米国の天然ガス価格は、原油価格が上昇しているのに対し、シェールガスの増大に伴い、逆に下落しつつある。
以上については 2012/2/21 三菱商事がカナダのシェールガス開発に参加 参照
しかし、米国からのLNG輸入は簡単ではない。
米国はLNGを戦略物質とみなし、輸出を個別の許可制にしている。唯一の例外は本土48州に輸送不可能だったアラスカのKenai LNGの輸出だった。
日本の各社が米国のシェールガス開発に相次いで参加しているが、日本への輸出には米国政府の個別承認が必要となる。
米国は輸出承認で米国とFTAを締結している国とそれ以外で差をつけており、FTAを結んでいない日本はガス輸入のハードルが高い。
政府はLNGの新たな資源調達先として昨年秋から米国と交渉を始めた。経産省の牧野副大臣は2011年に米エネルギー省のチュー長官と会談し、ガス輸出事業を許可するように働きかけた。
読売新聞(2月22日)によると、政府が米国のLNGの対日輸出許可を求め、米政府と交渉に入ったことが明らかになった。
日本政府は、米ルイジアナ、メリーランド両州で進む民間のLNG生産プロジェクトからの輸出許可を求めており、野田首相訪米の際、オバマ大統領とLNG輸出で合意する方向で両政府が調整している。
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現時点での米国のLNG輸出計画は下記の通りだが、エネルギー省の認可は2件のみで、エネルギー規制委員会の認可はどこも取得していない。
プロジェクト | 州 | 事業者 | 申請液化能力 万トン/年 |
政府認可状況 | |
エネルギー省 | エネルギー規制委 | ||||
Sabine Pass | ルイジアナ | Cheniere | 1,600 | 認可済 | 審査中 |
Freeport | テキサス | Freeport LNG | 900 | 審査中 | 審査中 |
Lake Charles | ルイジアナ | Southern Union | 1,500 | 認可済 | 未申請 |
Cove Point | メリーランド | Dominion | 800 | 未申請 | 未申請 |
Jordan Cove | オレゴン | Jordan Cove LNG | 900 | 未申請 | 未申請 |
Cameron | ルイジアナ | Sempra | 1,200 | 未申請 | 未申請 |
米国計画 合計 | 6,900 |
先行しているのはCheniere Energy が海外からのLNG受入基地に天然ガスのLNG化設備を建設してLNGを輸出する計画で、2010年9月に米国がFTAを締結している国(将来締結した国も含む)に限定して輸出許可が出された。
それまでアラスカ産を除けば、米国からの天然ガス輸出はほとんど前例がなく、認められないというのがおおかたの見方だったが、それを覆す意外な決定だった。
これに対し、同社は、多国間での自由貿易協定を目指すWTO加盟国へのガス輸出を禁止することが正当かどうかの判断を政府に求め、エネルギー省は2011年5月、同社に条件付きですべての貿易相手国への輸出を認めた。
(CheniereのSabine Pass プロジェクトへの承認であり、個別に承認するが、FTA締結国とそれ以外で差が存在する)
Cheniereは2012年1月に建設着工、早くて2015年に稼働開始の予定で、既に売買契約を締結済である。
売買先は以下の通りで、既に米国とのFTAを締結し、間もなく発効予定の韓国の韓国ガス公社(Kogas)が含まれている。
(韓国以外の各国は米国とのFTAを締結していない)
輸出先 数量
万トン/年供給開始 契約期間 定額固定費
$/百万BTUBG Group (英) 350 2016 20年間 2.25 同上 追加 200 2016 同上 3.00 Gas Natural(スペイン) 350 2016 同上 2.59 Gail(インド) 350 2017 同上 3.00 Kogas(韓国) 350 2014 同上 3.00 合計 1,600 FOB価格は、原料ガスコスト(Henry Hub 渡し市況 x 115%)+固定費(ガス化費用など)
15%は天然ガスのトレーダーとしてのマージン。
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米国からのLNG輸入には他にも問題がある。
1)事業者
Chiniereやその他の事業者は中小規模のガス・トレーダーで、大規模な資金負担に耐えられるか疑問視され、またLNG事業操業能力にも疑問が残るとされる。
大手石油企業・ガス生産者がLNG液化・輸出事業に参入する気配はない。
2)国内の反応
米国のエネルギー多消費型の産業界(発電業界、化学、アルミ、米国ガス協会等)から米国のLNG輸出に対する懸念が頻繁に提起されている。輸出により国内ガス価格が上昇するのを懸念し、一定の制限を設けるべきとの主張を展開している。
付記
DowのAndrew Liveris CEOは3月8日、エネルギー関連の調査機関が主催する年次会合CERAweek でスピーチし、シェールガスからのLNGの輸出を制限するよう求めた。
アメリカのこの安く豊富なガスの産業での有利性は、首尾一貫した国のエネルギー政策をつくらなければ消えてしまう。天然ガスを輸出する代わりに、液体形態ではなく、これを加工した固体形態で輸出するべきだ と述べた。
3)米国政府の「エネルギー戦略物資」論
米政府は「LNG輸出の国内ガス需給への影響」に係る調査実施を2012年第1四半期に完了させる予定。
米市場への適切なエネルギー供給を維持するために、LNG輸出に対しては何らかの条件が加えられる可能性がある。
中国向けの輸出を認めるかどうかは大問題である。米国はハイテク製品についても軍事転用が可能だとして制限している。
4)LNG輸出に対する米国政府の低い支援
米国投資銀行は、米国の政治的リスク、ガス市場価格の不安定性を理由として、液化設備建設への投資に慎重な姿勢を見せている。
5)米国の将来のガス供給力
今後のシェールガス掘削費用のアップ、環境対策費のアップなどから、将来も安い生産コストを維持できるかどうかは別問題。
野田首相は4月30日のオバマ米大統領との首脳会談で、LNGの対日輸出拡大などエネルギー面での協力を求めた。
オバマ大統領は首相の輸出要請に対し、「日本のエネルギー安全保障は米国にとっても重要」と理解を示す一方、「(対日輸出は)政策決定プロセスにある」として、明言は避けた。日本政府内には「少なくとも11月の大統領選までは、オバマ大統領が輸出認可に動く可能性は低い」との見方が強い。
付記
資料 2012/2/1 JOGMEC 世界LNG: 実現に近づく次世代LNG供給地域・プロジェクト
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/4/4585/1201_out_c_green_lngs.pdf
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