ミャンマーの経済特区

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ミャンマー訪問中の安倍晋三首相は5月25日、ヤンゴン市内で行われた日本・ミャンマー経済セミナーに出席し、「官民一体となってミャンマーの国づくりを支援したい」と表明した。具体的には電力網や水道、道路などのインフラ整備を挙げたほか「人材教育に注力していく」と訴えた。

セミナーに先立ち視察したヤンゴン近郊のティラワ経済特区(Thilawa SEZ)にも言及し、「日本とミャンマーの経済協力の象徴だ。絶対に成功させなければならない」と力説した。

5月26日にはテイン・セイン大統領と会談し、共同声明を発表した。

日本政府はミャンマーの発展を支援するため約2千億円の対日債務を解消し、インフラ整備支援などのため910億円のODAを2013年度末までに順次実施する。
ミャンマー政府の制度整備や人材育成を重視。日本からの技術協力の重要性を共有し、発展させていく。
両国間の貿易・投資を含めた経済関係の強化のため、投資協定の早期署名に向けた作業を加速化。技術協力協定に向けて努力し、ティラワ経済特区開発などに協力する。

ミャンマーの開発にはインフラ整備がまず必要となる。
発電の7割を水力が占め、ダムの水量が減る乾期終盤の4~5月には停電が頻発する。

同国では天然ガスの開発が進むが、外資獲得のため、自国では余り使用せず、主にタイにパイプラインで輸出している。来月には中国へのパイプラインでの輸出が始まる。


ミャンマーでは3つの経済特区計画がある。

  先行するのは北部のチャウピュー(Kyaukpyu)で中 国が開発しており、既に中国向けの原油とガスのパイプラインが完成している。
  
2013/5/24  パイプライン万里長城が完成


ヤンゴン南部のティラワ(Thilawa SEZ)は日本が担当する。

南部のDawei SEZはタイが担当するが、出遅れている。

 


ティラワ経済特別区(Thilawa SEZ

ミャンマー政府はThilawaを環境モデル都市にし、その都市づくりをヤンゴンに生かそうとしている。

日本政府とミャンマー政府は2012年12月、「ティラワ経済特別区開発のための協力覚書」に署名した。
2012年4月の首脳会談の際に閣僚級で署名されたティラワ・マスタープランに関する意図表明文書を受けたもの。

協力覚書の主要な内容は以下の通り。

両政府はヤンゴン市南東のThilawa SEZ(約24平方キロ)の開発を協力して行う。
両国の投資家はThilawa SEZの区域開発者として共同事業体を設立する。
Thilawa SEZの商業的運用を2015年に開始する。


三菱商事、丸紅、住友商事の3社は2013年4月、Thilawa SEZにおける工業団地先行開発エリア(4.2平方キロ)の事業化調査や環境影響調査等を行うため、共同で、エム・エム・エス・ティー有限責任事業組合を設立した。

F/S及び環境影響調査等の完了は今年秋頃を目標とし、周辺環境への影響、ミャンマー政府による住民移転への対応等を慎重に見極め、先行開発エリアへの投資判断を行う。

Thilawa SEZの問題点は住民が立ち退き補償を求めてミャンマー政府と対立している ことである。
立地はティラワ港の後背地の水田地帯で、土地はすべて国有で、農民は使用権を持つ。予定地に隣接して政府分譲の工場用地があり、最近高額で取引されたこともあり、農民は高額の補償金 を求めている。

同地は1997年に工業団地造成で収容されたが、造成計画が宙に浮き、当局は収用した農地について、補償金を受け取った農民や新たに入植した農民に5年期限で貸し出し た経緯がある。

ミャンマー政府は2012年12月の「協力覚書」締結の後、住民を「不法占拠者」扱いし、「2週間以内に退去せよ。従わなければ30日間、刑務所に拘留する」と通告 、住民の移転先も用意していない。(その後、当局は退去命令を「延期」した。)

問題がこじれると、スケデュールが遅れる可能性がある。

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ダウェー経済特区(Dawei SEZ)

Dawei SEZは2008年にミャンマーとタイの両国が開発で合意した。

2010年にタイの大手建設会社Italian-Thai Development Corporation Limited (ITD) が250平方キロの土地について60年間の事業権利と75年間の租借権を得て、開発に着手した。
しかし、実際は1社では開発資金をまかないきれず、地元住民の移転や周辺土地と一部道路の整備程度しか進んでいない。

2012年7月のタイのインラック首相とテイン・セイン大統領との会談で、Dawei 開発の仕切り直しが行われ、両国政府が協力して進めることで合意、Dawai開発の特別目的事業体(SPV)に土地の開発権と租借権がITDから移管される。

Dawei SEZの開発面積はThilawa SEZの10倍あり、港湾や発電所などのインフラ整備だけで1兆円とされる。

このため、タイ政府とミャンマー政府は日本にも参加を要請した。
2012年9月に日タイ・ワーキンググループ調整委員会会合が開催されたが、テーマの一つが
Dawei SEZであった。
但し、
両国はあくまでThilawa SEZ優先ということで合意している。

 1997年の金融危機時のタイの財務大臣のDr. Thanong Bidayaは5月27日の講演で、タイと日本がインドシナ半島のCLMV各国(カンボジャ、ラオス、ミャンマー、ヴェトナム)を共同で開発することを提案、一例としてDawei SEZを挙げた。日本抜きでは無理としている。


タイ側ではPTTが
Dawei SEZをLNGとLPGの貯蔵基地として利用することを検討している。


ミャンマー南部ではTotalがYadanaガス田を、PetronasがYetagunガス田を開発中で、2007年にはタイのPTTEPがZawtikaガス田を発見した。

Yetagunガス田 を含むM-12、M-13、M-14鉱区はPetronasが40.9%、PTTEPが19.3%、Myanma Oil and Gas Enterprise が20.5%、JX日鉱日石開発が19.3%の権益を持つ。
Yetagunガス田は
2000年5月から天然ガスの生産を開始し、タイ石油公社PTTにパイプラインで販売している。

JX日鉱日石はこのほか、M-11鉱区にも権益を持つ。
 (PTTEP 45%、TOTAL 40%、JX日鉱日石 15%)

現在、両ガス田から天然ガスがタイのRatchaburi発電所まで パイプラインで輸送されている。

PTTはZawtika ガス田とYetakun ガス田からDaweiへのパイプラインを建設することを検討しており、長期的には、Daweiに港と年間500万トンのLNG基地、LPG基地を建設、DaweiからMap Ta Phutまで天然ガスパイプラインを建設する計画。

PTTは現在のところはミャンマーの需要を勘案し、Daweiに製油所や石油化学基地をつくる考えはないが、状況が変われば検討するとしている。

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カンボジャ、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムのメコン川流域諸国は大メコン経済圏経済協力開発プログラムを推進している。

その経済活動の動脈となる道路整備については、まず東西経済回廊が2006年に開通、続いて南北経済回廊、南部経済回廊の整備が進められている。Daweiは南部経済回廊の起点で、バンコクを経てベトナムのHo Chi Minh市とQuy Nhon市に通じる。

PTTはベトナムQuy Nhon市のニョンホイ経済特別区に日量66万バーレルの製油所と石油化学コンプレックスを建設する計画を持っている。


 

 

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