昨年末にアベノミクスの評価を行い、アベノミクスは失敗であるとした。
「デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる」というのは誤りであり、規制緩和による成長戦略がなければ、デフレは解消しない。
白川前総裁の言うように、「潜在需要を顕在化させるための供給構造の作り変え」が必要であり、そのためには、首相が前面にたって、利益団体と官僚組織に立ち向かい、規制緩和をすることが必要である。
安倍首相にその認識と対応する決意がないことがアベノミクスが失敗するとみる理由であるとした。
2013/12/25 回顧と展望の前に アベノミクスの評価
1年経過し、予想通りの結果となっている。
円は大幅安となった。
しかし、円安になっても輸出は増えない。貿易赤字の解消は見えてこない。
最も競争力がある筈の自動車は、円安になっても、建設済みの海外プラントに生産を移し、逆に輸出数量は減っている。
ホンダは乗用車輸出が2012年上期の147千台が2014年上期には17千台と激減した。
国内の新車販売台数も前年比割れが続き、トヨタやホンダは2015年1-3月期に減産する。
国際競争力のない石油化学のような製品は、過去の赤字輸出損を回収するだけで、ドル建て価格を下げて輸出を増やすなどは考えられない。
消費者物価指数は春以降、下げ続けている。生鮮食料を除く コアCPIは10月には前年比で0.9%にまで下がった。日銀の目標とする2%は、このままでは不可能である。
付記 12月26日発表の11月実績は0.7%となった。
原油価格は7月頃から急落した。コアCPIの下落はこれが大きな理由である。
エネルギー価格は下がったが、最近、身近な製品の値上げが続く。これは円安による輸入原料の値上がりを受けたものが多い。
やっていけないために、やむを得ず輸入原料値上がり分を転嫁するもので、値上げにより業者の手取りが増える訳ではない。
逆に値上げによる需要家の購入減で、値引きを余儀なくされる可能性もある。2013年1月の日経の景気討論会で東芝の岡村正相談役は、1ドル85~90円が望ましく、それ以上になると原料や電力料がアップし、大変であると述べたが、その通りになっている。
今後は米国の利上げで更に円安になる恐れがある。
日銀総裁は仮に円安による輸入インフレでコアCPIが2%上がった場合でも、デフレが解消したとして満足するのだろうか?
大企業の収益は大きく増えたが、自動車業界に見られるように、海外事業の収益の円換算での増の貢献が大きい。
株価は急上昇したが、円安で安くなった日本株を外資が買っているに過ぎない。他に儲かるところが見つかり、日本から引き上げると、日本株はまた暴落する。
円安で輸出が増え、国内の生産が増え、給与が上がり、消費が増え、更に生産が上がるという循環は起こっていない。
そもそも、少子高齢化が進み、消費構造が変わっている。
資産を持つ一部の層と資産を持たない大多数の層の格差が広がった。
12月14日付けの日本経済新聞のコラム「地球回覧」は、金融緩和と財政出動で景気を上向かせるアベノミクスとそっくりのやり方を「魔法」と描写したゲーテと、ゲーテの遺言を軽んじて借金を重ね、悪魔に魂を売り渡したドイツ国民の現在の姿勢について述べている。
ばらまきで景気を支えた国家がどんな結末を迎えるのか。ドイツでは文豪ゲーテが約200年前に代表作の「ファウスト」で予言した。
節約嫌いの皇帝が借金の返済に苦しんでいると、悪魔メフィストフェレスが現れて知恵を出す。お札をたくさん刷ればいいんですよーーー。やってみると、人々が浮かれ、モノが飛ぶように売れる。あっという間に帝国は好景気に沸き、皇帝は大喜び。すると悪魔がささやく。「魔法の紙幣で酒と女に浮かれたいだけ浮かれられる。便利です」
第一次大戦で負けたドイツは多額の債務を抱え、通貨が紙くずになった。猛威を振るう超インフレに乗じて権力を握ったのはナチス。その反省はいまだに重い。
1989年、ベルリンの壁の崩襲。熱狂のなかで当時の西独政府は東独市民に無条件で現金100西独マルクをプレゼントした。ーーー新しい駅と空港、それに市街地の修復。青天井で注ぎ込まれた旧東独の復興費は2兆マルク(300兆円)に達したとされる。いつのまにか財政赤字は国内総生産(GDP)の3%を上回り、域内の基準に違反するようになっていた。
尻に火が付いたドイツ政府が社会保障の縮小や増税に取り組む。「政府がカネを出せば将来にツケが回る」。そんな常識が浸透し、財政出動や減税といった「官需」にすがるという発想が消えた。
ドイツでは有権者や経済界のあいだにも倹約精神が通奏低音のように流れ、成長が沈んでも景気対策を求める声が漏れてこない。
昨年述べたとおり、「潜在需要を顕在化させるための供給構造の作り変え」が必要であり、そのためには、首相が前面にたって、利益団体と官僚組織に立ち向かい、規制緩和をすることが必要である。
12月21日付けの日本経済新聞は、三菱ケミカルホールディングスの小林社長のコメントを載せている。
政策的に、どうにもならないものが日本には2つある。エネルギーコストの高さと資源の外部依存だ。だが、それでさえもイコールに近づける道はある。電気料金や石油価格の影響を受けにくい産業領域に、国家を挙げてトランスフォーム(産業構造転換)することだ。そういう方向性というか、覚悟が政府から出てこないと本格的にはなかなか投資が日本に向かわない。
為替は見事に円高修正してくれたが、全体としてはまだ『六重苦』問題をクライテリア(起点)に考えざるを得ないのが経営者心理だ。それにこたえるには大胆な制度設計が要る。
* 円高、高い法人税率、自由貿易協定への対応の遅れ、労働規制、環境規制、電力不足例えば健康・医療だ。日本が高齢化し、人口も減っていくなかで、毎年1兆円ずつ社会保障費の支出が増えていく。そういうなかで、健康や予防医療産業のイノベーション(技術革新)は国内でやるしかない。軽量化部材、有機太陽電池、発光ダイオード(LED)など省資源、省エネ的な分野もそうだ。この2つは確実に日本で投資できる。規制を緩和してくれさえすれば、海外企業とのハンディキャップは小さい。
中小企業や地方が疲弊したのは、大企業が海外に生産を移転し、空洞化が進んだ影響もある。そういう意味では大企業と課題は同じだ。国内にどんな新産業をつくり、事業をどうシフトしていくかが問われている。やはりトランスフォームだ。
受け皿は医療、介護、観光、6次化された農業などが考えられる。雇用維持のためのばらまきをやっても一時しのぎだ。大企業にも言えることだが、弱っている企業があっても、補助金を出すより法人税など税負担を減らして、公平公正な競争を可能にする土俵づくりをめざすべきだ。
岩盤規制の撤廃には、自民党の支援団体と官僚組織の反対を押し切る首相の強い意思が必要であり、それがない限り、日本経済の復興は難しい。
また、産業間の労働力の移動を進めるための労働法の改正も必要である。
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原油価格の下落が続いている。
OPECは11月27日の総会で原油の減産見送りを決定した。
5カ月連続の原油価格下落を受け、最も打撃を受けているベネズエラ、アンゴラ、ナイジェリアなど8カ国が減産を提案した。
これに対し、サウジなどが異議を唱えたため、全会一致の賛成が必要な減産の提案は退けられ、日量3000万バレルの生産目標を据え置いた。サウジアラビアなどは財政的にも余裕があるほか、サウジには、過去に減産を決めても、イランやベネズエラが原油収入を確保するため「ヤミ生産」を繰り返してきたことへの不信感も強かった。
また、OPEC減産で原油価格を回復させても、米国のシェールオイルなど非OPECの原油生産が増加すればシェアを奪われるという危機感がある。
サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相は、米国のシェールオイルブームに対抗する必要があるとし、減産を見送ることで原油価格を抑制し、米国のシェールオイル生産業者の収益を圧迫すべきと強調したという。
サウジは更に、米国とアジア向けの2015年1月積みの原油価格を大幅に引き下げると発表した。
2014/12/8 サウジアラビア、米・アジア向け原油値下げ
原油価格の下落は消費者にとっては好ましい。
しかし、急激かつ大幅な下落は混乱を生じる。
ロシアのルーブルは欧米による制裁と原油安がダブルに響き、大幅安となり、ロシア経済を揺るがしている。
ベネズエラなどではデフォルトの恐れもある。サウジの狙い通り、米国のシェールオイル・ガスの生産も減少する可能性が出てきた。
2014/12/15 原油価格下落でシェールオイルの生産は減少へJAPEXが参加するPetronas のカナダのLNGターミナル建設計画も、LNGプロジェクトの収益見通しの悪化から、予定通り進めるかどうかの決定を先送りした。
日本の石油化学にとっては、原料価格の大幅な変動は(値上がりの場合も値下がりの場合も)常に悪影響を与える。
アジアの石油化学製品価格が軒並み下落している。
国内でも、需要が低迷するなか、先安観による買い控えが目立ち、値下がりが広がっている。過剰能力のもと、原料安以上の値下げを強いられる可能性が強い。
12月決算の昭和電工は12月12日、営業損益予想を7月末時点の320億円から250億円に下方修正したが、石油化学セグメントは25億円の黒字が35億円の赤字になるとしている。(2013年通年は44億円の利益)
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経済産業省は11月7日、産業競争力強化法第50条に基づく「石油化学産業の市場構造に関する調査報告」を公表した。
「産業競争力強化法」 は2014年1月20日に施行された。
アベノミクスの第三の矢である「日本再興戦略」に盛り込まれた施策を確実に実行し、日本経済を再生し、産業競争力を強化することを目的とし、「創業期」、「成長期」及び「成熟期」の発展段階に合わせたいろいろな支援策により産業競争力を強化しようというもの。産業競争力強化のためには、日本経済の3つの歪み、すなわち「過剰規制」、「過小投資」、「過当競争」を是正していくことが重要で、この法律は、そのキードライバーとしての役割を果たすものであるとしている。
同法第50条(調査等)は以下の通り。
政府は、事業者による事業再編の実施の円滑化のために必要があると認めるときは、商品若しくは役務の需給の動向又は各事業分野が過剰供給構造にあるか否かその他の市場構造に関する調査を行い、その結果を公表するものとする。
結論は下記の通り。
住友化学(千葉 38万トン)、旭化成(水島 44万トン)の停止で、日本のエチレン能力は640万トンに減少するが、国際的な需給構造の変化で日本からの輸出減のリスクがあり、その影響でエチレン生産量は、
2020年までで 470万トンまで減少
2030年までで 310万トンまで減少対応策は
① 生産設備集約、再編による生産効率の向上
② 石油精製との連携による生産体制の最適
③ 隣接企業とのエネルギー相互融通、発電設備等の共有化、共通部門の集約統合によるコスト削減
④ 海外展開の促進
本ブログは、次のように述べた。
上記の報告は正しく、誰もが分かっていることである。
エチレン停止はその工場全体を止めてしまうことにもなりかねない。これは従業員の雇用をどうするかという大きな問題を生む。
統廃合が進むかが焦点となるとしている千葉地区では既に統廃合が実施済みでこれ以上はない。
エチレン能力削減は必須だが、実現が難しいというのが実態である。2014/11/10 石油化学産業の市場構造に関する調査報告
エチレン停止はその工場全体を止めてしまうことにもなりかねないが、新しい事業に転換できれば、従業員の雇用を心配することはない。
しかし、転換できる事業がないのが問題である。
石油化学製品では、ほとんどの製品を産油国や中国が生産することとなり、日本で生産しても競争力はなくなった。
太陽電池やリチウムイオン電池の材料についても、中国勢が進出している。
中国が真似できないものでない限り、儲かる事業であれば、数年後には過当競争に陥り、採算が取れなくなる。
10月23日の「化学の日」に化学工業日報がシンポジウムを開催した。
東京理科大学の伊丹敬之教授が基調講演を行い、持論を述べた。
日本の産業はエレクトロニクスから化学に、産業科学は物理学から化学に転換する。
化学反応(例えば燃料電池)や化学素材(デジタル電子機器のフィルター、導光板、偏向膜など)が必須の部分として使われるようになる。
ただし、そのイノベーションを担うのが化学企業となるかどうかは別の問題で、産業間の競争が起こる。
特に、過去の遺産の基礎化学・石油化学をどうするかが問題の一つ。論文 日本産業の化学化 参照
その後の各社社長による討論会や講演でも、「では何をやるべきか」が取り上げられたが、「機能の追及」、「需要家のニーズへの摺り合わせ」が必要との点で一致した。
しかし、石化に取って代わるような事業は見当たらないのが実情であろう。
そのなかで、リチウムイオン電池材料など、儲かりそうな分野には各社が殺到する。
本ブログは2006年3月に「ハイテク材料バブル説」を取り上げ、以下の問題を内包しているとした。
・化学以外の他の業界からも殺到するため、過当競争となる。
・需要分野の進展が急で、新製品・新製法の開発により折角投資した材料の需要が急になくなる可能性がある。
・供給先が競争に敗れ撤退する可能性(他社に供給できればよいが・・・)
・新製法等での競合材料の出現
・需要家自体が材料分野に進出する可能性
・需要自体がバブルである可能性 (光ファイバーの例)
2006/3/4 ハイテク材料バブル説
これらの点は現在もそのまま当て嵌まる。
進出する市場の分析、生き残りうる提携相手の選択、技術とノウハウを組み合わせたシステム化などが重要となろう。
LG Chemのバッテリーのように、素材の生産から素材のシステム化に転換することも一つのやり方であろう。
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韓国の三星グループは2010年5月に新事業戦略を発表した。
経営の第一線に復帰した李健煕会長主宰で新事業関連社長会議を開き、確定したもので、未来の新事業は、太陽電池、自動車用電池、発光ダイオード(LED)、バイオ製薬、医療機器の5つ、2020年まで23兆3000億円(約1兆9000億円)を投資するというもの。
李健煕会長は、 世界シェア首位のメモリーや液晶パネルで中国などの追撃を受け、「今後10年以内にサムスンを代表する製品は大部分無くなる」と危機感を示し、新規事業育成に注力するとした。
2010/5/12 三星グループの新事業戦略
Samsung Groupは本年11月、石油化学のSamsung General Chemical や、防衛産業を手掛ける Samsung Techwin などを売却すると発表した。
2014/12/1 Samsung Group、防衛、石化事業をHanwhaに売却
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