IAEA調査団の福島第一原発・廃炉作業の調査報告書

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福島第一原発の廃炉作業について、(2013年4月、2013年11月に次いで) 3回目の調査を行っていたIAEA(国際原子力機関)の調査団は一連の視察などを終え、2月17日、調査報告書を発表した。 そのなかで、 汚染水を処理したあとのトリチウムを含んだ水について、国の基準以下まで薄めて海に放出することも含め検討する必要があるという考えを示した。

対策実施が進展していることを高く評価するとしながらも、状況は依然大変複雑であるとし、短期的課題として「増大する汚染水を持続可能な状態に持っていくこと」、長期的課題として「損傷燃料および燃料デブリを含む高い放射線量をメルトダウンした原子炉から取り出すこと」を挙げた。

汚染水については、現在の汚染水の貯蔵は一時的な手段であり、持続的な解決策が必要であるとし、前回のアドバイスを繰り返した。

トリチウムを含む汚染水を地上のタンク(能力80万m3)に貯蔵するのは短期的にはベストな方法であると考えるが、もっと持続可能は解決策が必要である。

このため、前回のアドバイスを繰り返す。

持続可能な解決には、管理された海洋放出の再開も含め、全てのオプションを考える必要がある。
東電は、トリチウムや他の残留核物質を含む汚染水の海洋放出が人や環境に与える放射線学的影響の評価を実施し、意思決定のための科学的ベースを確立すべきである。

最終決定には、全ての関係者(東電、原子力規制委員会、政府、福島県、市町村、その他)が参加する必要がある。

協議プロセスでは社会経済的条件を考慮することや、人間の健康や環境に有害な影響を与えないよう広範囲なモニターを行うことが必要と考える。

IAEAとしてはそのような広範囲な海水モニター計画の実施に際して支援を続ける用意がある。

調査団のJuan Carlos Lentijo団長は記者会見で、汚染水対策が直近の課題だとした上で、以下のとおり述べた。

環境への影響がほぼ無視できることが確認されれば、管理した上で(国の基準以下まで薄めて) 海へ放出することは、福島第一原発の状況を大幅に改善できる有力な選択肢だ 。
海洋放出は(人や環境に)ほとんど影響しない。
濃度が国際的な基準値以下のトリチウム水を海に流すことは世界中の多くの原発で行われている。

実際の海洋放出にあたっては、漁業関係者や地元住民による受け入れや丁寧な放射能モニタリングが欠かせない。

ーーー

福島第一の汚染水の状況は 下記の通りで、ALPS等でトリチウム以外を除去した汚染水が約30万トンある。
更に、ALPS等での処理の前の汚染水が約24万トンあり、これが毎日420トン追加される。


      2015年2月16日  福島第一原発の汚染水、年度内処理断念


河野代議士は以下のように述べている。

ュリオンかサリーでは、セシウム134は3000Bq/L程度に、セシウム137は6300Bq/L程度まで除去されるが、それでも告示濃度限度を上回っている。

今年の1月19日以降、キュリオンとサリーでもストロンチウムもある程度除去できるようになったが、もともと10の7乗ベクレル/Lだったものが10の5乗ベクレル/Lまで低下するだけで、告示濃度限度の30Bq/Lとは文字通りけた違いだ。

これをALPSを通すとセシウム134と137が0.3Bq/L未満に、ストロンチウムが0.12Bq/Lにまで下がってくる。

ALPSを通らずにRO濃縮水処理設備とモバイル型ストロンチウム除去設備だけを通った汚染水はいわば「中ストロンチウム汚染水」とでも呼ぶような程度にしか汚染レベルは下がらない。

いずれにしろ汚染水はALPSを通さなければならない。

しかし、ALPSを通しても、トリチウムだけは残る。

トリチウムは、三重水素からなる水と同型の分子構造からなる液体の放射性物質で、半減期は約12年。
水の形態で存在するため、分離は困難である。

東電ではトリチウムの除去方法について調査しているが、現在のところ使える技術はないとしている。

経産省告示でのトリチウムの排出規制値は6万ベクレル/リットルであるのに対し、当初は420万ベクレル、現状でも40万ベクレルもある 。

当初、政府と東電は、ALPS処理水を汚染されていない地下水と混ぜて規制値以下にし、海洋投棄することを考えていたと思われる。
ロンドン条約は、
船舶等から汚染水を海洋へ処分する行為等を禁じているが、原発施設からの放射性排水の海洋への放出は対象にはならない
(海洋に関する国際法において海洋への「投棄」とは、船舶等を用いて陸上で生じた廃棄物を海洋において処分することを意味し、陸上からの放出は「投棄」には含まれない。)

東電は2013年2月28日に「福島第一原発のトリチウムについて」という発表をし、安全だとの主張をしている。

・化学上の形態は、主に水として存在し、私たちの飲む水道水にも含まれています
・ろ過や脱塩、蒸留を行なっても普通の水素と分離することが難しい
・半減期は12.3年、食品用ラップでも防げる極めて弱いエネルギー(0.0186MeV)のベータ線しか出さない
・水として存在するので人体にも魚介類にも殆ど留まらず排出される
・セシウム-134、137に比べ、単位Bqあたりの被ばく線量(mSv)は約1,000分の1

これに対する批判は多い。

例えば、下記の報告がある。

カナダには重水を用いたCANDU 炉があり、重水に中性子があたるとトリチウムが発生するため、トリチウムの生成量が多く、また、環境中への放出量も多い。ピッカリング原発やブルース原発といったCANDU 炉が集中立地する(ともに8 基ある)地域の周辺で、子どもたちに異常が起きていることが1988 年に市民グループによって明らかにされた。
   http://www.cnic.jp/files/20140121_Kagaku_201305_Kamisawa.pdf

 

原子力規制委員会の田中俊一委員長は2013年9月2日、日本外国特派員協会で講演し、汚染水問題への対応で、放射能濃度を許容範囲以下に薄めた水を海に放出する必要性を強調した。

原子力規制委員会は、本年1月21日、福島第一原発の「中期的リスクの低減目標マップ」案を了解したが、「貯蔵液体放射性廃棄物」の削減策として、「多核種除去設備処理水の規制基準を満足する形での海洋放出等」としている。

これに対し、JF全漁連は1月23日、以下の会長声明を出した。

原発事故発生以来、我々漁業者が、汚染水の海への放出・漏出を行わないよう、再三再四強く求めてきたにもかかわらず、海洋放出等を前提とした方針が示されたことは極めて遺憾である。

本格操業の再開を心待ちにしている地元漁業者の不安は大きく、また、国内外での風評被害の広がりなど、我が国の漁業の将来に不安を与える影響は計り知れない。

原子力規制委は、今回、厳しく規制すべきところを緩和するような方針を示した理由、海洋放出による健康・環境への影響が無いとする根拠等を漁業者のみならず国民全体に丁寧に説明すべきであり、漁業者、国民の理解を得られない汚染水の海洋放出は絶対に行われるべきではない。

 

IAEA調査団の団長は会見で、海洋放出には漁業関係者や地元住民による受け入れが必要とし、「地元の人が不安を感じるのであれば、別の方法も検討するべき」という趣旨の発言をし、科学的に良い方法でも地元の理解が重要であるという考えを示している。


付記

東京電力は2月24日、福島第1原発の排水路から汚染水が外洋流出していたことを発表した。

流出を把握しながら約10カ月間公表しなかったことも判明、福島県漁連は2月25日の組合長会議で東電に「情報隠しであり、信頼関係は崩れた」との見解を伝えた。

県漁連はこの日、汚染地下水を浄化後に海洋放出する「サブドレン(井戸)計画」承認に向け意見集約する予定だったが、問題発覚を受け、納得できる説明があるまで計画を容認しない方針も示した。





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