原子力規制委員会は6月20日、運転開始から40年以上が経過した関西電力高浜原発 1、2号機について、最長20年にわたって運転期間を延長することを認可した。
福島第1原発事故後の法改正で原発の運転期間は原則40年に限られ、期限(今回の場合、7月7日)までに規制委が認めれば1回だけ最長20年延長できる。
運転延長が認められるのは今回が初めてで、1号機は最長2034年11月まで、2号機は2035年11月まで運転が可能になる。
付記
規制委員会は8月3日、40年間近の美浜3号機について安全審査合格を内定した。
11月末までに、設備の詳細な設計を記した「工事計画」の審査、機器の老朽化の影響を調べる「延長審査」に合格することが必要。
工事完了は2020年3月の予定。使用済み核燃料のラックを初めて可動式とした。
新しい炉内構造物が揺れに耐えられるかの確認は審査期限後に先送りした。
高浜原発 1、2号機の運転延長が認められたが、課題が多い。
当初は「20年の延長は相当困難」との見解を示していた規制委の田中委員長は、他の原発を押しのけてまで2基の対応を急いだ。
7月7日の時間切れを防ぐための強引さが目立つ。
老朽炉の最大の課題は原子炉圧力容器の健全性評価で 、長年にわたり中性子が当たることで劣化し、割れてしまう「脆性破壊」の危険性が指摘されている。「現段階で致命的な欠陥はない」とする規制委の評価は客観性に疑問符が付く。
さらに耐震性も問題で、基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)は3、4号機同様550ガルから700ガルに引き上げて申請したが、実際に設備を揺らす試験は実施せず、規制委は補強工事後の検査で行うことを了承した。一部委員から「認可後の試験で基準を満たせなかった場合、社会的な信頼は得られないのではないか」という意見が出た 。全長約1,300kmに及ぶ電気ケーブルの防火対策が焦点となっていたが、関電は6割については難燃性に交換するが、交換が難しい場所では防火シートで巻くなどの延焼防止対策を示し、認められた。
原子力規制を監視する市民の会は6月20日、運転期間延長認可に抗議する共同声明を発表した。
熊本地震のようなくり返しの揺れを考慮した耐震評価は実施されていません。
老朽化した高浜1・2号の特有の危険性が具体的に明らかになっています。電気ケーブルの劣化により事故時に絶縁性が急低下し、制御ができなくなる恐れがあります。しかし、規制委・規制庁は具体的な判断基準も持たずに、関電のいいなりです。
高浜原発1号機は、全国の原発でもっとも原子炉圧力容器の中性子による脆性破壊が発生し易い原発です。廃炉が決まっている玄海原発1号より脆性遷移温度は高く、事故時にECCSの水を注入すれば、圧力容器が壊れる危険があります。やはり中性子の照射により炉心の金属板を留めるボルトにひび割れが生じている恐れがありますが、まともに検査すら行われていません。
昨日の記事の通り、前委員長代理の島崎邦彦東京大名誉教授(地震学)が基準地震動や津波に関して、疑義を述べている。反対派の証人として出廷する可能性まである。
これまで政府は、「世界一厳しい基準」とし、裁判所も多くがそれをもとに稼動を認めてきたが、規制委員会の中枢(元職)からの批判は大きい。
それに加え、今回の「稼動ありき」の決定は、規制委員会の正当性を疑わせるものになりかねない。
「合格」といっても書類上の計画であり、安全対策の工事が必要で、再稼働は2019年10月以降となる。
大地震や津波の影響を受けない緊急時対策所、事故対応に当たる作業員が待機する免震事務棟の設置工事を開始した。
今後、格納容器の上部に重大事故時に放射線を遮る鉄筋コンクリート製の巨大ドームを設置し、海水を2号機に運ぶ配管を土中でなく岩盤を通すよう変える工事も実施する。航空機突入などのテロ対策として、遠隔で原子炉の冷却や減圧ができる制御室などを設ける工事が必要。
古い原発特有の課題である電気ケーブルの防火対策は全長約1300kmに及ぶ。
原子炉格納容器は放射線を遮断する能力が低いとされ、上部をコンクリートで覆い、外周の壁も分厚くする。
土砂流防止策や事故時対応の拠点となる1〜4号機共通の緊急時対策所、免震事務棟設置なども急ぐ。
関電が高浜1、2号機で見込む安全対策工事費用は、高浜原発全体の共用分を除いても2000億円超に上るが、費用はさらに膨らむ可能性がある。
地元自治体の再稼動の同意も必要である。
福井県や高浜町は、関電が3年程度かける安全対策や住民らの理解の状況を見極める考え。
福井県知事は、「高経年化に関連した安全対策が必要。新規制基準に基づく事業者の対応状況などを厳正に確認し、慎重に対処していくことになる」とのコメントを発表した。
高浜町長は、「安全と認められたことは歓迎する」としながらも、運転開始から40年以上が経過し「住民には不安もある」と指摘した。一方、高浜原発から30キロ圏に一部地域が入る滋賀県の知事は、「40年を超えて運転することは、老朽化による不具合など原発の安全に対するリスクが高まることにつながり、県民には根強い不安がある」とし、運転延長には「大きな疑問を感じる」とのコメントを発表した。
さらに、訴訟による運転差し止めの可能性も高まっている。
大津地方裁判所は6月17日、福井県の高浜原発 3、4号機について、同地裁が 3月に運転停止を命じた仮処分の決定の効力を停止するよう求める関西電力の執行停止の申し立てを退けた。
関西電力はこの決定を受け、停止中の高浜原発3-4号機の核燃料を取り出すと発表した。執行停止の申し立てが地裁に却下されたことで「一定期間、原子炉が動かせないことが確定したため」としている。
高浜原発 1、2号機については、愛知、岐阜、福井など14都府県の住民76人が4月14日、国を相手どり運転延長認可差し止めを求めて名古屋地裁に提訴している。
訴状では「54基の原発が約2年間動いていないときでも電気は足りていた。あえて危険な老朽原発を動かしてほしいという市民はいるだろうか」と指摘。それにもかかわらず、政府、原子力規制委員会、電力会社は福島の事故を忘れたかのごとく再稼働にまい進していると批判した。
弁護団長は「新規制基準と規制委の審査そのものの不合理性を問う裁判」と強調、2月に再稼働したばかりの高浜4号機がわずか3日後に緊急停止したことについて「これが『世界で一番厳しい』といわれる規制委の審査の現実だ」と批判した。
前委員長代理の島崎邦彦東京大名誉教授(地震学)の疑義は、今後の裁判に大きな影響を与えると思われる。
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政府は2030年度の電源構成で、発電量に占める原発の比率を20〜22%と している。
2010年度 2030年度 再生エネルギー(含水力) 9.6% 22~24% 原子力 28.6% 20~22% LNG 29.3% 27% 石炭 25.0% 26% 石油 7.5% 3%
全原発を40年で廃炉にすると、2030年度の段階で、運転期間40年以下の原発は20基程度で、比率は15%程度にとどまり、目標達成には全国43基の原発のうち30基程度の稼働が必要である。
政府が目標を維持するには新増設か運転延長しかないが、新増設は世論の強い反発が予想される。
政府にとっては運転延長が現実的な選択肢となる。
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参考 40年経過の原発はほとんどが廃炉となる。
小規模のものは、稼動しても、安全対策の費用をカバーできないのが理由で、今後も小規模のものは廃炉の可能性がある。
高浜③、④は停止中。福島第二の再稼動には地元の反対が強い。
運転開始 | 万KW |
再稼動 |
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原電 敦賀① | 1970.3 |
40年 |
35.7 | 2015/3/17 廃炉決定 | |
関西電力 美浜① | 1970.11 | 34.0 | 2015/3/17 廃炉決定 | ||
東京電力 福島1① | 1971.3 | 46.0 | 2012/4/19 廃炉 | ||
関西電力 美浜② | 1972.7 | 50.0 | 2015/3/17 廃炉決定 | ||
中国電力 島根① | 1974.3 | 46.0 | 2015/3/18 廃炉決定 | ||
東京電力 福島1② | 1974.7 | 78.4 | 2012/4/19 廃炉 | ||
関西電力 高浜① | 1974.11 | 82.6 | 2015/3/17 | 2015/4/30 運転期間延長申請、2016/4/20 安全審査合格 2016/6/20 運転延長認可 |
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九州電力 玄海① | 1975.1 | 55.9 | 2015/3/18 廃炉決定 | ||
関西電力 高浜② | 1975.11 | 82.6 | 2015/3/17 | 2015/4/30 運転期間延長申請、2016/4/20 安全審査合格 2016/6/20 運転延長認可 |
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東京電力 福島1③ | 1976.3 | 78.4 | 2012/4/19 廃炉 | ||
関西電力 美浜③ | 1976.3 | 82.6 | 2015/3/17 | 2015/11/26 20年延長を申請 | |
四国電力 伊方① | 1977.9 | 56.6 | 2016/5/10 廃炉 | ||
東京電力 福島1④ | 1978.1 | 78.4 | 2012/4/19 廃炉 | ||
東京電力 福島1⑤ | 1978.4 | 78.4 | 2014/1/31 廃炉 | ||
日本原子力 東海 | 1978.11 | 110.0 | 2014/5/20 | (PWR優先で審査停滞) | |
東京電力 福島1⑥ | 1979.1 | 110.0 | 2014/1/31 廃炉 |
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