中国、「市場経済国」待遇で米欧をWTO提訴

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中国商務部は12月12日、同国の「市場経済国」認定を見送った米国とEUをWTOに提訴したと発表した。日本に対しても近く提訴に踏み切るとみられる。

WTOの紛争処理手続きに基づく個別協議を米国とEUに要請、協議が平行線をたどった場合、WTOの紛争処理小委員会(パネル)を設置して判断を委ねることになる。

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中国は2001年12月にWTOに加盟した。

その際、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてアンチダンピング 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国 (Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国で、すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能な価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める」と規定している。

この結果、「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。

これまでにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国(2016/2時点)が中国の市場経済国家の地位を認めた。

中国はWTO加盟後 15年が過ぎた12月11日付けで市場経済国に認定される取り決めだと主張してきたが、日米欧は受け入れなかった。

中国は過剰生産設備の解消が遅れ、鉄鋼などのダンピングが世界的に問題視されている。

中国が「市場経済国」になれば、ダンピングの判断は中国の輸出価格が中国国内の価格に比べて安い場合となる。
しかし、国内の設備過剰により鉄鋼製品の国内価格が国際価格よりも大幅に安いため、輸出価格が第三国の国内価格より安くてもダンピングとみなされないこととなる。

中国国内価格 中国輸出価格 第三国国内価格
非市場経済国の場合:

ダンピング認定可

市場経済国の場合:

ダンピングでない

米政府は11月23日、中国を「市場経済国」と認定しない方針を明らかにした。

欧州委員会は11月9日、輸入製品が不当にEU域内で安く販売された場合に適用する、反ダンピング課税の算出に関する制度改正案をまとめた。

WTO上の義務に違反して中国から損害賠償を求められるおそれのある事態を回避し、同時に「市場経済国」として認定することによってもたらされると考えられる安値競争に対抗できなくなるという事態をも回避するために、EU域内での新たな通商上の救済措置を策定することを選択したこととな る。

経済産業省は12月8日、中国のWTOでの立場について、引き続き「市場経済国」と認定しないことを決めたと発表した。

2016/12/1  米、中国の「市場経済国」認定見送り

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中国のWTO加盟の際の協定の15条でこれに関して規定している。

Article VI of the GATT 1994, the Agreement on Implementation of Article VI of the General Agreement on Tariffs and Trade 1994 ("Anti-Dumping Agreement") and the SCM Agreement shall apply in proceedings involving imports of Chinese origin into a WTO Member consistent with the following:

(a) In determining price comparability under Article VI of the GATT 1994 and the Anti‑Dumping Agreement, the importing WTO Member shall use either Chinese prices or costs for the industry under investigation or a methodology that is not based on a strict comparison with domestic prices or costs in China based on the following rules:

(i) If the producers under investigation can clearly show that market economy conditions prevail in the industry producing the like product with regard to the manufacture, production and sale of that product, the importing WTO Member shall use Chinese prices or costs for the industry under investigation in determining price comparability;

(ii) The importing WTO Member may use a methodology that is not based on a strict comparison with domestic prices or costs in China if the producers under investigation cannot clearly show that market economy conditions prevail in the industry producing the like product with regard to manufacture, production and sale of that product.

(d) Once China has established, under the national law of the importing WTO Member, that it is a market economy, the provisions of subparagraph (a) shall be terminated provided that the importing Member's national law contains market economy criteria as of the date of accession.

      In any event, the provisions of subparagraph (a)(ii) shall expire 15 years after the date of accession. In addition, should China establish, pursuant to the national law of the importing WTO Member, that market economy conditions prevail in a particular industry or sector, the non‑market economy provisions of subparagraph (a) shall no longer apply to that industry or sector.

まとめると次のとおりとなる。

Case 輸出価格との対比
Article VI of the GATT 1994 等の適用 すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合
(具体的定義なく、各国が判断)
代替国の価格
中国との条約 (a)(i) 明らかに市場経済条件を満たす場合 中国の価格
(a)(ii) 市場経済条件を満たすとは明確にいえない場合 最初の15年間 代替国の価格
15年経過後 ??(規定がexpire)

問題は、 (a)(ii) の条項が expire した場合で、市場経済条件を満たすとは明確にいえない場合にどうするかが明記されていないことである。 (輸入国が、中国の市場経済を認めた場合は、規定(a) は終了するとしている。)

中国の立場は、15年経過で(a)(ii) が規定する「代替国の価格」適用が無くなり、中国の価格との対比とすべきだということになる。

それに対し、日米欧の立場は、原則の代替国価格とすべきだということになる。
(しかし、それなら、
(a)(ii) が15年経過でexpire するという条項を入れる必要はない。)

WTOの紛争処理小委員会の判断がどうなるかで決まる。

なお、米国では、1930年関税法第771条(18)(B)で、ある国が非市場経済国であるかどうかを判断する基準が決められて おり、これに従って判断するとしているが、国内法よりも条約が優先する筈で、WTOの判断が出れば、これに従う必要がある。

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