米上院は12月2日早朝、難航の末、税制改革法案を可決した。
議会予算局の分析で、税制改革案により、経済成長を考えない場合で、2018~2027年累計で赤字が1兆4142億ドル増えるということが判明し、共和党のなかでも反対派が続出し、当初予定された11月30日の議決は出来なかった。
反対派をなだめるため、多数の修正案を折り込んだ。法案の調整では法人税率を22%とする案も浮上したが、共和党の議会指導部は個人所得税の控除見直しなどで財源を捻出し、当初通り20%とした。
1日の深夜を過ぎてから、ほぼ500ページの、多数の修正を折り込んだ予算案が配られ、野党からは短時間で投票するのは不可能で、無責任だとの批判が飛んだ。
結果は次の通り。
共和党 民主党 無所属 合計 賛成 51 0 0 51 反対 1 46 2 49 棄権 0 0 0 0 合計 52 46 2 100
野党は全員が反対した。共和党では、これまで反対してきた議員は修正を受けて賛成に回ったが、財政赤字反対タカ派(deficit hawk)と呼ばれるテネシー州のCorker議員がただ一人反対を続けた。
次の上院選挙に出ないことを決めているCocker 議員は、「今後の世代への債務の重荷を増やす議案に賛成できない」と述べた。
民主党のminority leaderのChuck Schumer院内総務は議決後、共和党のやり方を「誰も誇りに思わず、全員が恥ずべきものだ」とし、「闇に紛れて、金持ちと大企業のポケットに金を押し込み、数百万の中間クラスの税金を上げるものだ」と批判した。
現在 35%の連邦法人税率は、上院案では2019年から、下院案では2018年から、20%に引き下げられる。
個人税制を巡っても違いが残る。上院案は個人減税を2025年までの時限措置にとどめ、医療保険制度改革法(オバマケア)の一部廃止も盛り込むなど複雑で、調整過程で下院側が紛糾するリスクもある。
主な違い:
下院 | 上院 | |
Obamacare 個人加入義務 | 維持 | 廃止 2027年までに13百万人が非加入に 非加入率 11%→16% |
個人所得税率引き下げ | 期限なし | 2025年末まで |
個人所得税率 | 4 区分 最高は現状通り39.6% | 7 区分のまま 最高 38.5%に引き下げ |
遺産税(estate tax) | 2024年廃止 それまでに控除が2倍に (550万ドルまで無税が11百万ドルまで無税) |
廃止せず、縮小 550万ドルまで無税が11百万ドルまで無税 |
child tax credit (1人当たり) | 1000$→1600$ |
1000$→2000$ |
住宅ローン金利の控除限度 | ローン100万ドル→50万ドル | 不変(100万ドル) |
法人税率引き下げ 20%へ | 2018年以降 | 2019年以降 |
いずれにせよ、連邦法人税率は20%に引き下げられ 、実効税率は日本やフランス、ドイツを下回ることとなる。
米国はカリフォルニア州のケース
なお、現在の予算は暫定予算で、12月8日までである。それまでに本予算が決まらないと政府機関の閉鎖も起こりうるが、時間切れの可能性が強い。
2017/9/9 米国、12月中旬までの債務上限棚上げと暫定予算法案成立、デフォルト回避
このため、米下院の共和党指導部は12月22日までのつなぎ予算案を提案する見通し。
また、債務上限についても9月に棚上げを決め、政府は12月8日まで新たな借り入れができるようになったが、その後は、上限を上げない限り、借り入れができない。
米議会予算局は11月30日、連邦債務上限が引き上げられなければ、財務省の資金は来年3月末もしくは4月初旬までに底を尽くとの試算を示した。
付記
米連邦予算の期限切れを12月8日の前日の12月7日、上院と下院は12月22日までのつなぎ予算を賛成多数で可決した。
上院
共和党 民主党 無所属 合計 賛成 42 38 1 81 反対 6 7 1 14 棄権 4 1 5 合計 52 46 2 100 下院
共和党 民主党 合計 賛成 221 14 235 反対 18 175 193 棄権 1 4 5 合計 240 193 433 大統領と与野党の議会指導部は7日、ホワイトハウスで会談し、予算の上限額に関する交渉に入ることで合意した。
民主党の上下院トップは会談後の声明で、幼少期に親と一緒に米国へ不法入国した若者の在留を認める制度の存続を要求すると強調した。
大統領と共和党指導部は会談で、予算と移民政策を切り離して議論するよう求めた。
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これまでの経緯は下記の通り。
2018会計年度(2017年10月~2018年9月)予算の大枠となる 「予算決議」が10月に成立し、上院では過半数の51票の賛成で税制改革法案が可決できるようになった。
2017/10/24 米上院、下院に続き新年度の予算決議を可決
米与党・共和党の議会指導部は11月2日、30年ぶりの税制改革に向けた詳細な法案を公表した。
2017/11/6 米共和党の税制改革案
米下院歳入委員会は11月9日、共和党がまとめた税制改革法案について、予算決議で定められた1.5兆ドル以内に抑える内容の修正案 (Tax Cuts and Jobs Act) を可決した。
米下院は11月16日、連邦法人税率を2018年に35%から20%に引き下げる税制改革法案を賛成多数で可決した。
共和党 民主党 合計 賛成 227 0 227 反対 13 192 205 棄権 2 2 合計 240 194 434
米上院共和党は11月9日、法人税の税率を現行の最高35%から20%に引き下げ、2019年に実施することを盛り込んだ減税計画を公表した。上院財政委員会が11月13日の週に同案の審議を始める。
下院が先に発表した税制改革法案では、法人税減税の実施時期は2018年となっていたが、実施を1年遅らせる。
これが上院で通っても、下院と内容が異なるため、双方の最終案を両院で調整し、調整後の法案を再度議決する必要がある。
米上院の予算委員会は11月28日、共和党の税制改革法案を12対11で承認した。
委員会で全く議論することなく、採決にかけたもので、共和党議員12名全体が賛成、民主党議員11名全体が反対した。民主党は議論なしの採決に怒りをあらわにしている。
共和党は予算委員会の承認を受け、11月30日に本会議で可決しようとした。
しかし、11月26日に議会予算局の出した報告が、これに待ったをかけた。
議会予算局の分析では、税制改革案により、経済成長を考えない場合で、2018~2027年累計で赤字が1兆4142億ドル増えるという。1.9%の経済成長を考慮しても、赤字は1兆ドル増える。
Wall Street Journal は、「成長率1.9%が低すぎる。現在は年率3%であり、これが続けば問題はない」としている。
これにより、共和党上院議員のなかで財政赤字を懸念する議員が騒ぎ出し、大問題となった。特に財政赤字タカ派(deficit hawk)と呼ばれるテネシー州のCorker議員が強硬である。
財政赤字懸念派 を法案に賛成させるため、共和党主流は fiscal trigger (赤字が一定額になれば対応策を起動)を検討したが、この法案では無理だということが判明した。
このため、法人税率を一旦は20%に下げるが、数年後に再度上げる案などが議論された。
この結果、11月30日の採決は諦め、徹夜で作業して、12月1日に採決することとした。
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