鉄鋼やアルミニウムの輸入制限は米東部時間3月23日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)に発動された。同時刻以降に米国に輸入された製品から追加関税を徴収する。
ホワイトハウスはカナダ、ブラジル、メキシコ、EU、オーストラリア、アルゼンチン、韓国への関税を5月1日まで猶予する方針を示した。完全に除外するかどうかは各国と貿易問題などを交渉して決める。
日本は除外対象にならなかった。
付記
トランプ大統領は、猶予期限切れ直前の4月30日、カナダ、メキシコ、EUへの関税の猶予を更に1カ月延長すると発表した。その間に譲歩を迫る。
カナダ・メキシコとはNAFTAの再交渉中。EUは「断固とした対応をとる」としており、難航する見通し。ホワイトハウスによると、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアについてはほぼ合意に達しており、30日以内に詳細を詰める。 3か国は米国にとって貿易黒字国で、米国への鉄鋼・アルミ流入抑制対策で協力する。
韓国については、3月に米韓FTAの改正・延長交渉で合意した。鉄鋼に関しては25%の追加関税を免除する代わりに、韓国は米国向け輸出数量を減らす。
2018/3/26 韓米FTA改正交渉妥結、鉄鋼の追加関税免除
なお、ある国を輸入制限の対象外とするかどうかについては大統領が最終決定するが、米国内で調達しにくい特定製品について関税の適用除外するかどうかは商務省が決定する。
商務省は米国企業からの申請に基づき、製品ごとに、①満足できる水準の品質と②十分な利用可能の量で、米国内で製造されているかどうかを審査する。
3月19日から受け付け、最長90日で判断する。
日本政府は適用除外を求めて再交渉するとともに、日本企業には品目別の除外を働きかけるよう促す。
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トランプ米大統領は3月1日、鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障上の脅威になっているとして輸入制限を発動する方針を表明した。
2018/3/9 トランプ大統領、鉄鋼・アルミの輸入制限発動を命令
しかし、実際は米国の貿易赤字解消のための交渉手段であることが明白である。
トランプ大統領は3月8日午後、鉄鋼とアルミニウムに輸入制限の発動を命じる文書に署名した。
今回の命令は、いくつかの国を除外するようになっており、国ごとに税率を変えたり、適切と思う国をリストに加えたり、リストから除外する権限を大統領に与えていると述べた。
署名前の閣議で、「我々は非常にフレキシブルだ。我々には友人もおれば、長年にわたり我々を利用し続けてきた敵もいる」と述べた。
また、署名前に「真の友人で、貿易と軍事で米をフェアに扱う国は弾力的に扱う」と呟いた。
We have to protect & build our Steel and Aluminum Industries while at the same time showing great flexibility and cooperation toward those that are real friends and treat us fairly on both trade and the military.
その後の呟きでも貿易赤字解消のための交渉手段であることが分かる。
2018/3/12 鉄鋼とアルミニウムの輸入制限問題、大統領のつぶやき
米国は「世界貿易機関(WTO)でも認められた措置だ」とする。
WTO協定第21条 「安全保障のための例外」では、加盟国が安保を理由に輸入制限を取ることを例外として認めている。しかし、定義が曖昧で、これ自体、問題とされる。
それが、貿易赤字の解消のためなら、WTO協定違反である。
今回、5月1日まで猶予された国のうち、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンは米国が貿易黒字である数少ない国である。
カナダとメキシコはNAFTA再交渉中であり、韓国もFTA再交渉中である。今後、米国の要求を受け入れるよう要求するとみられる。
大統領は3月23日の会見で、「韓国との合意は非常に間近だ」と述べた。取引内容については触れなかったが、「米国の雇用などに非常に大きな問題を引き起こしてきた協定だ」と指摘した。米韓FTAのことと思われる。
EUについては、EUは輸入制限の場合、対抗策を発動することを公表している。これに対し、トランプはEUからの自動車に関税をかけると発言、米国とEUの貿易戦争になる恐れもある。
また米国はEUに対し、対中国で共同歩調をとるよう求めるとの観測もある。
とりあえず、輸入制限を猶予して、交渉することとしたとみられる。
2018/3/20 EU、米の鉄鋼・アルミ輸入制限への報復関税案を発表
米国は、鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障上の脅威になっているとして輸入制限をしたが、輸入の半分を占める国を猶予した。
Steel 輸入 2017年 アルミ輸入2017/1-10 千トン % 千トン % 5/1まで猶予 カナダ NAFTA再交渉中 5,800 16.1 2,478 43.0 メキシコ 3,249 9.0 57 1.0 EU 対中国協調? 3,233 9.0 49 0.9 韓国 FTA再交渉中 3,654 10.2 オーストラリア 米国が貿易黒字 ブラジル 4,679 13.0 33 0.6 アルゼンチン 182 3.2 (小計) (20,615) (57.4) (2,799) (48.6) 対象 日本 1,781 5.0 中国 784 2.2 547 9.5 ロシア 3,124 8.7 626 10.9 総合計 35,927 100 5,764 100 EUについて:
Steelは米商務省発表の統計のトップ20のうち、独、蘭,伊、西、英の合計、アルミは同トップ15のうち、独のみを取った。EU全体ではもっと多い。
安倍首相は、トランプとの親密な関係を謳ってきた。しかし、トランプ政権は対日貿易赤字を問題にしてきた。
Trump大統領は2017年3月31日、中国や日本などとの貿易赤字削減を目指す大統領令(Executive Order)に署名した。
商務長官と米通商代表部(USTR)代表に貿易赤字の要因を分析させ、相手国の不公正な関税や輸出補助金などを徹底的に調査する内容。
米通商代表部(USTR)は同日、2017年版の貿易障壁報告書を公表した。
日本に関しては農産物市場に「重大な障壁」が存在すると批判し、牛肉や豚肉などで一層の市場開放を要求した。
日本側の食品添加物や農薬規制、自動車流通市場に非関税障壁があるとの見解も示した。
2017/4/3 貿易赤字削減を目指す大統領令
安倍首相とトランプ大統領は2017年2月の首脳会談で、日米間の通商問題を麻生副総理兼財務相とペンス副大統領がそれぞれトップを務める「日米経済対話」で協議することとした。
2017年4月の東京での初会合では、「貿易・投資ルール」「経済・構造政策」「分野別協力」の3分野で協議を進めることを確認した。
日本の政府関係者によると、これは「結論を先送りする仕組み」だった。
しかし、大統領は騙されていなかった。
3月22日に日本に関して次のように述べた。「こんな長期間、米国をだませたとは信じられない 」と喜んでいるようだが、もうこれまでだと。
I'll talk to Prime Minister Abe of Japan and others --- great guy, friend of mine --- and there will be a little smile on their face.
And the smile is, "I can't believe we've been able to take advantage of the United States for so long" So those days are over.
Spoke to Prime Minister Abe of Japan, who is very enthusiastic about talks with North Korea.
Also discussing opening up Japan to much better trade with the U.S.
Currently have a massive $100 Billion Trade Deficit. Not fair or sustainable. It will all work out!
河野外相は3月15日にUSTRのライトハイザー代表と会談し、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限について、日本を適用除外とするよう求めた。
これに対し、ライトハイザー代表からは直接の返事はなかったが、米国の対日貿易赤字に言及した。
今回、主要な米国の友好国のうち、日本だけが猶予されなかった。
今後、日米FTAを強硬に求めてくると思われる。
問題の一つは自動車分野の日本の非関税障壁(関税はゼロなのに輸入されない)である。
また、米国には、TPP-11の調印で、農産物、畜産物などで豪州、カナダ、ニュージーランドなどに市場を奪われる懸念が強く、これも問題にすると思われる。
さらに円安問題が取り上げられる可能性もある。
現在の対日貿易赤字が実際に減少するような方法を求めてくると思われる。
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中国は報復策を発表した。
商務部は3月23日、米国から輸入するワインやドライフルーツ、豚肉などを対象に最高25%の関税を上乗せする準備をしていると発表した。対象は米国の2017年の輸出額で約30億ドル分。
鉄鋼・アルミの輸入制限の撤回や中国側が受けた損失の補償を求めて交渉し、まとまらなければ先ず、ワイン、果物、ナッツ、継目なし鋼管など120品目(輸入額10億ドル)を対象に15%を上乗せする。
その後もさらに交渉を続け、決裂すれば、豚肉、アルミニウムのスクラップなど8品目(輸入額20億ドル)を対象に25%を上乗せする。交渉期限は明らかにしていない。
この措置は、緊急輸入制限(セーフガード)への対抗措置として、WTO協定でも認められている。
ロシア高官は3月23日、米国からの輸入品に対する報復措置の準備を検討する考えを表明した。
ロシア側は輸入制限により鉄鋼だけで少なくとも20億ドルの損失があると試算しており、それに応じた対抗措置を取る可能性がある。
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