経緯は次の通り。
富士フィルムHDは1月31日、米国Xerox Corporationとの間で以下の点で合意したと発表した。
①富士フィルムHDがXerox Corporatの50.1%を取得、Xeroxは社名をFuji Xeroxに変更、NYSEの上場を維持
②富士フィルムHDの子会社の富士ゼロックスとXerox Corporationの経営統合
2018/2/1 富士フィルム、米国Xerox Corporationを買収
株主でCarl Icahn と提携するDarwin Deasonは2月13日、富士フィルムによるゼロックス買収は不正だとして、差し止めを求める訴えをニューヨーク州の裁判所に起こした。
ゼロックスと富士フィルムが、株主にとって重要な契約の存在を17年間隠して おり、これは不正行為であり、取締役は受託者としての義務に違反しているとし、この取引を中止し、既存のJV契約を終了することを求めた。
2018/2/15 富士フイルムによる買収、ゼロックス大株主が差し止め提訴
Darwin Deasonは今春の株主総会で全取締役の候補を推挙する権利を求めたが、会社側は候補の推挙の期限の2017年12月11日が既に過ぎているとして、これを拒否した。これを不服とし、会社は期限が過ぎた後に株主にとって重要な一連の決定をしたとして、推挙期限を延ばすことを求め訴訟を起こした。
2018/3/5 米ゼロックス、大株主が再び提訴
Darwin Deasonは4月13日に改定訴状を提出した。
XeroxのCEOが、富士フィルムとの交渉を勝手に行い、株主の利益を犠牲にして自身の地位を守る合意を取り交わしたと非難している。
2018/4/23 Xeroxを巡る戦い 激化、委任状争奪戦に発展か?
判事は、下記のとおり事態を説明したうえで、原告のDarwin Deasonの主張を全て認めた。
既存のXeroxと富士とのJV契約にはいろいろの規定があるが、他の買い手がXerox株主に現金を支払うという他のディールは困難ではあるが、必ずしも不可能ではない。
Xerox株の30%以上を富士の競争相手に売却する場合は、Xeroxに不利になるような規定があるが、これは2018年1月31日に初めて株主に開示された。
富士ゼロックスの経理スキャンダルにからむ問題は、Xerox取締役会が買収を承認した時点では解決しておらず、両社間で買収条件の更なる交渉が行われる可能性がある。
JVの準拠法である日本の法律で、Xeroxがこれを理由にJV解散を要求できるかどうかには議論があるところである。
問題の根幹はXeroxのJacobson CEO の行動である。Jacobsonは2017年11月10日に、取締役会が彼の後任となる新CEOを積極的に探しているということが伝わると、この取引で自身を不可欠な存在にするため富士フィルムと協力した十分な証拠がある。
原告は、Jacobsonが、提案された取引を承認する取締役として受託者の職務を破り、富士がそのような違反を助長したと主張するが、原告の説明はこの主張が通る可能性を示している。
両社間では長期にわたり両社の関係をどうするかについて議論があったが、2017年の初めにXeroxの全株を富士が買収する交渉が始まった。
2017年3月にJacobsonは訪日し、富士からこの提案を受け、取締役会に諮り、富士に対し、ある程度のプレミアムのついた価格で、かつ全額現金払いである場合のみ、交渉に応じると返事した。2017年5月にJacobsonはCarl Icahnと会談したが、IcahnはJacobsonはCEOとして適当でなく、Xerox株を売却したいと述べた。(2017年11月、Icahn は取締役会と争う姿勢を示したが、休戦し、Icahn指名の取締役を追加した。)
2017年5月、富士は富士ゼロックスの経理スキャンダルが終了するまで議論ができないと通知してきた。
その後、Jacobsonは投資銀行と協議し、富士が現金無しで買収する案を作成した。Jacobsonはこれについて、Keegan 会長の承認を得たと述べているが、取締役会は聞かされていない。
2017年6月にJacobsonはこの案を富士に提案した。これにより当初の全額現金払案は消えた。Jacobsonは7月に初めて取締役会にこれを報告した。
Icahnは7月にこの案を知り、Keegan会長に反対を伝えた。またJacobsonの後任を探す委員会の設置を求めた。KeeganはJacobsonに対し、富士がIcahnのXerox 持分を買収するよう提案してはどうかと伝えた。
2017年夏に、Jacbsonは富士との交渉を続けたが、取締役会は彼のCEOとしての働きに疑念を持ち、将来のXeroxを率いるには適していないと判断した。Cheryl Krongard取締役は、これが満場一致の判断であったと証言している。取締役会は後任候補を探す委員会を設立した。10月と11月に複数の候補と面談した。そのなかで、IBMとHPの元取締役のGiovanni Visentin がよいと判断し、条件を交渉し、2017年12月11日を就任日とした。
Jacobsonは11月10日までこれを知らなかったと証言した。(多くの人が動きを知っているため、これには疑念がある。)
11月10日にKeegan会長はJacobsonにこれを伝え、富士との交渉をやめるよう指示した。富士はJacobsonの現金無しでの買収案に傾き、Keegan会長にJacobsonとの交渉継続をもとめ、Keeganは取締役会に伝えずに、これを許した。
11月21日の東京会談で、Jacobsonは古森会長に事情を説明、条件概要書(Term sheet )を提出するよう依頼した。
富士は11月30日に正式買収提案を送った。全額現金払ではなく、富士ゼロックス株を通じて Xeroxの50.1%を取得するものである。
2018年1月24日のKeeganと古森の電話会談以前には、Xerox取締役の誰も富士との交渉に参加せず、Jacobsonだけが交渉した。
裁判所にとって、少なくとも2017年11月10日時点で、JacobsonがXeroxを代表して富士との交渉を行ったのは相反する立場にあると思われる。また、Jacobsonが富士に対し、彼自身の状況を説明し、富士に彼の地位保全のため助力を求めたと思われる。(そうではないということは counter-intuitiveであり、not credible である。)
取締役会の指示に反して、Keegan会長がJacobsonに交渉を続けさせたのも、受託者義務違反(breach of fiduciary) である。
2017年12月4日に取締役会にこの案が説明された。
Cheryl Krongard取締役はKeegan会長に対し、富士との交渉をやめるようとの取締役会の指示に反し、Jacobsonが交渉を続けたのに懸念を示した。
会長宛レターで、Jacobsonを「ならず者経営者"rogue executive"」と呼んでいる。
付記
5月14日付日経によると、裁判でのDiscoveryで富士フィルムとXeroxのメールが開示され、富士フィルムに不利に働いたという。
富士→Jacobson 「我々は共通の敵と戦う同じチームだ」
Jacobson→富士 「友と並んで立つ」
Jacobson→富士 「我々は使命を果たし勝つ」
富士→Jacobson 「我々はあなたを支えるよ、ジェフ!」
Jacobson→富士 「ミスターコモリに、よろしく。彼の助けには感謝している」
富士→Jacobson 「キーガン会長に『ジェフがCEOでいてもらいたい』と伝えるよう、コモリにはっきり進言したよ」
裁判官は、決定理由でこうした複数のメールを引用したうえ、ジェイコブソン氏らについて「自身の地位を守ろうとして富士フイルム側と協力した」などと認定し買収の暫定差し止めを命じた。
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