トランプ米政権は6月15日、中国の知的財産権侵害への制裁措置として、中国による知財侵害の被害額と同規模の500億ドル分の中国製品に25%の追加関税を課すと発表した。
中国が巨額補助金を拠出してハイテク産業を育成する「中国製造2025」計画を名指しで批判し「中国は不公正な手法で米国の知財や技術を得ており、もはや耐えられない」と主張し、「中国が報復措置に動けば米国はさらなる追加関税の発動に踏み切るだろう」と圧力をかけた。
まず7月6日に340億ドル分の制裁関税を発動し、残りの160億ドル分は一般の意見聴取後に発動する。
第1弾の対象は産業ロボットや電子部品などハイテク製品を中心に818品目で、消費者への影響を考慮し、4月時点での約1300品目からテレビなど消費者向け汎用品などを除外した。
第2弾の160億ドル分の対象は、化学品や光ファイバーなど、「中国製造2025」の重点分野に絞った。第1弾と合わせ約1100品目となる。
米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は6月15日、「次の段階は、米国の技術を買おうとする中国の投資を規制することだ」と述べ、中国への制裁関税に次ぐ措置を急ぐ考えを示した。
財務省が6月末までに中国企業の対米投資の規制をとりまとめ、速やかに実施する方針。
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中国商務省は6月16日、報復措置として、659品目、総額500億ドル規模の米国製品や農水産品に25%の追加関税を課すと正式発表した。
7月6日に発動する第1弾の追加関税は下記の545品目、約340億ドル相当。
大豆、牛肉、豚肉、鶏肉、水産物、じゃがいも、たまねぎ、キュウリ、ホウレンソウ、マンゴー、オレンジ、ブドウ、りんご
ウイスキー、たばこ、綿花、乗用車、電気自動車など米国産大豆は中国が輸出先の6割を占めている。
原油、天然ガス、石炭、エチレン、医療器具など資源エネルギー分野を中心とした114品目、約160億ドル 相当は後日、発動日を公表する。 航空機は対象から外れた。
5月17~18日の閣僚級通商協議(下記)で米側に伝えていた米国産のエネルギーや農産物などの輸入拡大策も白紙に戻す。
これらとは別に、中国は6月16日、米国および日本原産のヨウ化水素酸、米国およびサウジ・マレーシア・タイ原産のエタノールアミンの反ダンピング調査でクロの仮決定をし、保証金を取り始めた。
また6月15日には、米国およびEU原産のSeamless Steel Tubesについて、5年経過で、再調査を開始した。
二大経済大国が「貿易戦争」に突入するリスクが高まった。
付記
トランプ米大統領は6月18日、中国の知的財産侵害に対する制裁関税を巡り、新たに2千億ドル相当の輸入品に10%の追加関税を検討するよう米通商代表部(USTR)に指示したと発表した。
米国による500億ドル分への25%の関税に対し、中国が同規模の報復措置を打ち出したのを受けての追加措置。
中国が再び報復関税で対抗してきた場合は、さらに2千億ドル分の措置を実行すると強調した。
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これまでの経緯は次のとおり。
米国
トランプ米大統領は2017年8月14日、不公正貿易での制裁も視野に、中国に対する通商法301条に基づく調査を開始するよう指示した。
2017/8/18 米大統領、通商法301条で対中調査指示
米国
USTRは2018年4月3日、中国の知的財産の侵害に対して発動する制裁関税の原案を公表した。
産業用ロボットなど生産機械を中心とした約1300品目に25%の関税を課す。米国の消費者への悪影響を抑えるためスマホや衣料品など輸入額の大きい消費財は除いた。
対象品目の2018年の想定輸入額は500億ドルで、中国からの輸入額の約1割に相当する。(2017年の輸入額は5065億ドル)
中国
中国商務部は4月4日、公告34号を出し、米国の違法な行動から中国の権利を守るため、中国の対外貿易法や国際法の基本原則に基づき、米国産の大豆やその他の農産物、自動車、化学品、飛行機など計106品目(2017年の輸入額は約500億ドル)に25%の関税をかける方針を発表した。
対象は、大豆、棉花、トウモロコシ、小麦、牛肉、たばこ、乗用車、試薬、ポリアミド、飛行機、その他。
石油化学品では、EDC、アクリロニトリル、LDPE、PVC(310千トン)、アクリル重合体、ポリアセテール以外のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、その他のポリエステル、ポリアミド、シリコーン、酢酸セルロースなどを含む。2018/4/5 USTR、通商法301条に基づく対中制裁関税案を発表、中国も対抗措置を発表
米国
トランプ米大統領は4月5日、中国による知的財産権侵害を問題にした制裁措置を巡り、新たに1000億ドル規模の中国製品を対象にした追加関税を検討する方針を表明
中国
中国商務部はこれに対し、下記の声明
「米国が単独主義と保護貿易主義を堅持するならば、中国は最後まで付き合う。いかなる代償も惜しくないし、必ず反撃する」
米中
貿易摩擦を巡る米国と中国の初の公式交渉が5月3、4日の2日間、北京の釣魚台迎賓館で行われた。
下記の問題が議論されたが、問題は先送りされた。
1)米国の貿易赤字問題
2)投資分野
3)知財保護
4)中国のMade In China 2025計画
2018/5/7 米中貿易協議 問題先送り
米中
米中両国は5月17~18日に閣僚級通商協議を行い、中国が貿易不均衡の是正に向けて、米国からの輸入拡大に同意したことを明らかにした。
共同声明で、中国が国民の消費拡大に対応して質の高い経済発展を実現するため、「米国の製品やサービスの購入を大幅に増やす」としたうえで、これが米国の経済成長や雇用促進の助けになるとの考えを示した。
中国は、米国の農産物やエネルギー資源の輸入を拡大することに同意した。詳細を詰めるため、米国のチームが近く中国を訪問する。
また、「知的財産の保護をきわめて重要な問題ととらえ、協力を強化することで合意した。」
中国
6月2~3日に北京で行われた協議で、中国は、米政権が知的財産権侵害の問題で米通商法301条の制裁関税を発動しない ことを条件として、米国から700億ドル近い農産物やエネルギー製品(米国産の大豆やとうもろこし、天然ガス、原油、石炭など)を輸入することを提案した。
米国
米商務省は6月7日、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対する制裁の見直しで同社と合意したと発表した。
但し、ロス長官は「(ZTEに対する)取り締まり問題は切り離されている。貿易協議とは無関係だ」と強調し、301条による対中制裁措置は変えない構えを示した。
2018/6/8 米政府、中興通訊(ZTE)の事業再開認める
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