トランプ大統領の強硬策に米国内でも反対が広がっている。
鉄鋼商社や自動車など鉄鋼ユーザー企業で組織する米輸入鉄鋼協会(American Institute for International Steel :AIIS)は6月27日、トランプ米大統領が鉄鋼に課した輸入関税が違憲だとして、ニューヨーク市の米国際貿易裁判所(U.S. Court of International Trade)に提訴した。
AIISでは、追加関税により値上げせざるを得なくなり、商売を失い、従業員をレイオフせざるをえなくなると懸念している。
今回の追加関税は議会の権限を大統領に不当に移したもので、権限の分離、チェック&バランスの原則に違反し、違憲であるとし、政権が追加関税を課することを止めさせるよう求めている。
国際貿易裁判所は、国際貿易及び関税問題に関する事件を取り扱う特別の一審裁判所である。
1926年に設立された合衆国関税裁判所 (United States Custome Court) が1980年に関税裁判所法によって改組されたもので、9人の裁判官で構成され、裁判官は上院の助言と同意の下、大統領から任命される。
国際貿易に関する法律の下で発生した合衆国又はその職員・機関に対する訴訟は同裁判所が専属的に管轄する 。
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2018/6/7 EU、米国の鉄鋼・アルミニウム輸入制限への報復関税、7月発動へ
欧州委員会は6月20日、報復措置の第1段階を発動すると発表した。EUが農産物やオートバイを含む米製品に25%の関税措置を発動した。
トランプ大統領は6月22日、「EUが関税や障壁をすぐに取り除かないなら、輸入自動車全てに20%の関税をかける。米国で生産せよ!」と呟いた。
トランプ大統領は本年5月、自動車、トラック、部品の輸入を巡り通商拡大法232条に基づく調査開始を検討するよう商務省に指示した。
「自動車や自動車部品など中核的な産業は国力の重要な要素だ」と主張し、これらの輸入が米国の安全保障を脅かすかどうかを判断するとした。
米商務省は5月23日、乗用車やトラックなどの車両や関連部品の輸入が国内の自動車産業を侵害し、安全保障を脅かしたかどうか通商拡大法232条に基づき調査を開始すると発表した。
鉄鋼・アルミニウム輸入制限と同様の手段を自動車にも用いる。
ロス商務長官は声明で「外国からの輸入によって、数十年にわたり米国内の自動車産業が侵害されていることを示唆する証拠がある」と指摘、「商務省は、自動車や部品の輸入が米国の経済を弱体化させているかどうか、安全保障を脅かす可能性があるかどうかについて、本格的で公正な調査を行う」と述べた。
国内の自動車生産の減少が経済を弱くし、コネクテッドカーや自動運転車、燃料電池、電気モーター・バッテリーなどを開発する能力が低下したかを調査する。
米紙は最大25%の関税を課す可能性があると報道した。
これについて、米国の自動車業界から反対の声が相次いだ。
GM、Ford、Daimler、トヨタ などが加盟し、米国の自動車と軽トラックの70%を占める米自動車工業会(Alliance of Automobile Manufacturers :AAM) は6月27日、輸入自動車及び部品に関する232条調査について声明を発表した。
自動車と部品の関税は全ての需要家にとって値上げとなり、消費者の選択を制限し、貿易相手の報復を招く。我々は貿易の制限ではなく、貿易障壁を取り除き、フェアネスを達成することを望む。
国内及び海外の自動車メーカーは、14の州で45プラントを持ち、米国で700万人以上を雇用する。NAFTAの近代化で米国の製造業と雇用を伸ばし、EUとの貿易協定を結んで双方の障壁を取り除き、その他の方策で米製自動車の市場を拡大するのが、米国の自動車業界と国の経済的セキュリティが強化されると信じる。
AAMのメンバー:
BMW、Fiat Chrysler、Ford、GM、Jaguar、Mazda、Mercedes-Benz、Mitsubishi Motors、Porche、Toyota、Volkswagen、Volvo
AAMは、米国が25%の自動車関税を導入すれば、米消費者が負担するコストは車両1台当たり5800ドル、年間で450億ドル増加するとの見通しを示した。
付記 トランプ大統領はこれを聞き、「実際には20%だ。正しい数値を使うよう言ってくれ」と語った。
自動車の輸入が national securityへの脅威になるというのは根拠がなく、米国の輸入車の98%は同盟国からであるとしている。
電気自動車や自動運転で熾烈な国際競争のなかにおり、関税で部品コストが上がれば、これらの先進技術の開発での競争力を失うとする。
また、トヨタ自動車やVolkswagen、BMW、現代自動車などの海外 の自動車及び部品メーカーでつくる世界自動車メーカー協会(Association of Global Automakers:AGA)は、関税がメーカーや米消費者に打撃となると指摘 した。
世界自動車メーカー協会は"national security"の名目で輸入自動車・部品に高関税を課すという政府の提案に反対する。
これらの関税は、メンバーの14の自動車メーカーを害するものだ。各社とも米国での自動車生産に米国人を雇用している。
輸入車や部品に関税をかけ、米国に本社を置くか同盟国に本社を置くかで差別するのは、"national security"では正当化できない。全ての米国工場はnational emergency 時には利用できる。これらの企業で直接働く13万人の米国人は他の米国人と同じく愛国的で、危機の際には国に奉仕する。
関税を課すことになれば、米国の輸出品への報復は避けられない。既に米国からの自動車に高関税をかけると発表されており、米国の自動車の労働者を貿易紛争の最前線に置くこととなる。
欧州の報復関税で、米オートバイ製造大手Harley-Davidsonは6月25日、欧州向けオートバイの生産を米国から海外に移す方針を明らかにした。
2018/6/27 Harley-Davidson、一部生産を米国外に移転
我々は、直接・間接に129万の米国人を雇用し、米国での自動車生産、設計、研究開発に750億ドルを投資し、2017年に500万台の自動車とトラック(米国の生産の47%)を生産し、毎年約100万台を輸出している。
AGAのメンバー:
Aptiv(旧 Delphi Automotive )、Aston Martin、Byton(中国の電気自動車メーカー)、Ferrari、Honda、Hyndai、Isuzu、KIA (起亜自動車)、Maserati (イタリアのスポーツカー)、McLaren (英)、Nissan、Subaru、Suzuki、ToyotaBosch (独自動車部品)、Denso、NXP(車載半導体)、SiriusXm (自動車向け衛星放送ラジオ)
トヨタ自動車は声明を発表し、追加関税に改めて反対する考えを示した。
同社の製造拠点が米国内に10カ所ある。
自動車輸入への25%関税は消費者への課税となる。米国内で販売される全ての車のコストを押し上げる。
ケンタッキー州ジョージタウンで製造され、米国で最も売れている車である『トヨタ・カムリ』でさえも、部品への課税が響き、 1800ドルのコスト増となる 。
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