Theresa May英首相は11月14日夜、13日に英国と欧州連合(EU)が合意したBrexitをめぐる合意案を、内閣が承認したと発表した。
首相は、「この合意か、合意なしでの離脱か、Brexitをやめるかだった」と述べた。
11月25日前後には欧州理事会緊急会合が招集され、離脱協定への署名と政治宣言の採択が行われる見込み。その後、英国議会での審議を行う。
後述の通り、交渉で最後まで残ったのが北アイルランド問題である。
北アイルランドはEUに残るアイルランド共和国と陸地でつながっている。英国にとってEUメンバーと陸地でつながる唯一の地域である。
北アイルランド紛争の再燃を避けるために、北アイルランドとアイルランドの間に国境(パスポート審査、税関)をつくるべきでないという点では早期に双方で合意した。
しかし、そのままなら、北アイルランドを通じて英本土がEUとつながってしまう。
このためEUは北アイルランドだけをEU関税同盟に残す案を提案したが、英国側は、北アイルランドと本土の間に税関を置くこととなり、国が分断されるとして拒否した。
解決策が見当たらないため、2020年12月までの移行期間を置くことにした。
しかし、移行期間中にも北アイルランド問題が解決しない場合にどうするかが問題となり、今回ギリギリのタイミングで合意した。
その場合、移行期間を延長するか、英国全土をEU関税同盟に残すという最後の策(Backstop)をとるかという案である。
北アイルランド問題は今後もよい解決策が見つかるとは思えない。この案では、「関税同盟への残留が固定化し、EUのルールに縛られ続ける」、「離脱するにもかかわらずEUへの従属感が強い」などと協定案に反発する声が強い。
英メディアによると、実際に閣議では約3分の1が反対を表明した。Dominic Raab EU離脱担当相が合意案に「致命的な欠点」があるとして辞任した。Esther McVey 雇用・年金相と閣外相2人も辞任した。
Michael Gove環境相は、May首相からEU離脱担当相への就任を打診されたものの、首相が合意案の再交渉を許さない構えだったため、辞退した。
May首相は11月16日、EU離脱担当相にSteve Barclay 保健担当閣外相を任命した。
さらに、離脱派の一部の保守党議員が、党の1922年委員会の委員長にMay党首に対する不信任を示す書簡を提出した。書簡が48通に達すると、不信任案の決議が行われる。
付記
英国を除くEU加盟27カ国は11月19日、EU担当閣僚による臨時会合を開き、英国との離脱協定案を巡り本格的な再交渉に応じない構えで一致した。
2020年末までの離脱移行期間の延長期限も近く結論を出す。
合意案を下院で可決するには、下院の過半数に当たる320票を集めなくてはならないが、与党・保守党の議席は316議席と過半数に足りない。May首相が確保できるのは約250票とみられている。労働党から造反者が出たとしても、320票に達するのは難しいとの見方が大半という。
英国では、『Brexitなし』か『合意なきBrexit』の可能性が強いと見られている。
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経緯は次の通り。
2016/6/25 英国、EU離脱
欧州理事会(EU首脳会議)のDonald Tusk常任議長は2017年3月31日、今後のEUとしての交渉ガイドラインの原案を公表した。
課題として、次の4つを挙げている。
1. 英国で生活・就労・就学するEU市民、EUで生活・就労・就学する英国市民の互恵・無差別の権利保全
2. 英国でのEUの企業、EUでの英国企業に影響を与えるが、法的空白を避ける必要がある。
3. EUも英国も、離脱前に決めた義務を守る必要がある。全ての法的、予算上の約束、偶発債務を含めた債務についてである。
4. 英国(北アイルランド)とアイルランドの国境問題について、国境復活などの厳格な対応ではなく、柔軟で建設的な解決を模索すべきである。
2017/4/6 EUのBrexit 交渉ガイドライン
EUは2017年12月15日の首脳会議で、英が払う「清算金」などの離脱条件を協議してきた「第1段階」に「十分な進展」があったと判断。「第2段階」となる通商協議に入るための交渉指針を採択した。
2017/12/20 英のEU離脱交渉、第2段階へ
翌7月9日、ジョンソン外相が辞任した。
上の4つの課題のうち、英国とアイルランドの国境管理が解決不能の問題として残った。
EUとの合意のないまま「無秩序離脱」を迎えるリスクが高まった。
2018/7/18 EU離脱を巡る英国の混乱
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