ジャパンディスプレイ(JDI)、 台湾・中国のグループから金融支援800億円受け入れ

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赤字が続き経営再建中のJDIは4月1日、筆頭株主であるINCJ(旧産業革新機構)とも連携しながら外部との提携交渉を行っていると発表した。総額1,100億円超の資本増強としていた。

2019/4/4 ジャパンディスプレイの動き   


JDIは4月12日、台湾の電子部品メーカーなど3つのグループで構成する台中連合から800億円の金融支援を受けると発表した。
メンバー企業1社とは液晶ディスプレイに関する業務提携を、他の1社とは蒸着方式 有機ELディスプレイの量産計画に関する業務提携を行う。

現在の筆頭株主のINCJ(旧 産業革新機構 )は、750億円の優先株の引き受けで Debt-to-equity を行うとともに、770億円の長期貸付で既存の債務(INCJが債務保証)を返済する。

合計で資本増強は1,170億円となる。(他に新株予約権付社債が180億円+200億円あり、全て転換すると1,550億円になる。)

当面の資金繰り不安は解消する。同社では「国内拠点の統廃合を視野に入れている」としており、リストラも示唆した。

日本の官民ファンド、INCJ(旧産業革新機構)に代わり、台中連合が議決権の49.82%(転換社債の転換後は65.41%)を握る筆頭株主になり、日本の電機大手の事業を統合して誕生した「日の丸液晶連合」は外資の傘下で再建を急ぐことになる。

台中連合のSuwa Investment Holdings, LLCと 、800億円の出資契約を締結する。 

 

1) Suwa Investment Holdings, LLC  (出資比率は台湾紙の情報 6/18 新聞報道)

出資比率
台湾 TPK Holding 宸鴻集団 41.8% 251億円 31.375% タッチパネル大手
Cosgrove Global 23.6% 142億円 17.75% 一族富邦金控が運用・管理する投資会社
中国 Harvest Tech Investment Management
嘉実基金管理)
34.5% 407億円 50.875% 中国最大の資産運用会社 Harvestグループ のプライベートエクイティ投資を行う運用会社

これまでは、下記4社とされていた。

台湾 TPK Holding 宸鴻集団 〔今回出資〕
中国 Harvest Tech Investment Management
嘉実基金管理)
〔今回出資〕
China Silkroad Investmet
(中投絲路資本
敏実集団(Minth Group)

自動車部品メーカー

後の2社はApple問題(文末)の懸念で離脱したとされる。代わりに蔡一族 が加わった。

なお、Harvest Tech が中国政府の意向を受け、支援額引き下げを提案し、TPKが一部を肩代わりし、Appleが原資の一部を支援したと報道されている。
中国政府は過剰投資のリスクを嫌ったとみられている。

付記 4/23日経によると、台湾の部品メーカーの淳安電子(SOE)もメンバーであったが、Apple問題で撤退した。
  JDIはAppleとの「密約」を隠していたが、2018/11にAppleが注文を半分に減らすと通達、
  JDIは隠しきれずに交渉終盤に明らかにし、SOEは離脱した。

 2) 出資

普通株式:420億円
新株予約権付社債:180億円+200億円 合計 380億円(うち最後の200億円は資金需要により判断)
総計:800億円

用途は次の通り。
 運転資金:380億円
 R&D:92億円
 設備投資:320億円(蒸着OLED量産 100億円、車載量産化 120億円、新事業投資 100億円)


② 台中連合の2社と事業提携契約を締結する。

TPK :液晶ディスプレイに関する業務提携  (LCD Business Alliance Basic Agreement)

Harvest Tech Investment Management:蒸着方式 有機ELディスプレイの量産計画に関する業務提携

これまで、中台連合は、JDIの技術を活用して浙江省に有機ELパネル工場を建設することを計画しているとされていた。

計画は、第6世代の基盤を3万枚/月、6型パネル 400万台/月の工場の建設で、投資額が約5000億円で、資金は中国政府の補助金を活用する。
早ければ2019年中に建設を開始し、2021年の量産開始を見込む。

③ INCJ (旧 産業革新機構)による750億円のDebt-to-equityと長期貸付金770億円による負債借り換え

優先株 引受 750億円  Debt-to-equity
長期貸付金  770億円
合計    1,520億円

 これにより、下記を返済

INCJの短期貸付金 200億円
劣後CB未償還残高 250億円
INCJの連帯保証債務 1,070億円

なお、劣後特約付貸付 300億円は継続する。

以上により、同社の資本・負債は次のようになる。(単位:億円)

現状         今後       
劣後特約付貸付金 300 劣後特約付貸付金 300
INCJ 短期貸付金 200 1,520 INCJ 長期貸付金 770 1,520
劣後CB 250
NCJ連帯保証債務 1,070 ④INCJ優先株 750 資本増強
 当面 ①+④ 1,170
     +② 1,350
     +③  1,550
③Suwa CB-2 200
②Suwa CB-1 180
①Suwa出資 420
既存資本金 既存資本金


付記

Suwaからの出資は早くても6月になる見込みのため、JDIは4月18日、当面の運転資金として、INCJから200億円のつなぎ融資を受けると発表した。


同社の株主の変遷は次の通り。

当初 その後 2018/3 2019/3/1

今回

増資 全社債転換
Suwa Investment 49.82% 65.41%
産業革新機構→ INCJ 70% 35.58% 26.81% 25.29% 12.69% 8.75%
ソニー 10% 1.78% 1.34% 1.26% 0.63% 0.44%
東芝 10%
日立 10%
日亜化学 3.52% 4.13% 2.07% 1.43%
海外機関投資家計 21.12% 69.32% 34.79% 23.97%
その他現行株主 62.64% 47.21%
合計 100% 100% 100% 100% 100% 100%


今回の決定には、次の問題がある。

1) 「日の丸液晶連合」は台中連合の傘下で再建を急ぐことになるが、米中の貿易摩擦が長引くなか、対米外国投資委員会(CFIUS)などが待ったをかける可能性がある 。

   また、JDIが有機ELパネルの量産技術でApplied Materialsと協業しており、Harvest Tech との蒸着方式 有機ELディスプレイの量産計画に関する業務提携 を提案を米国が問題とする可能性がある。

2) Appleとの契約

JDIはAppleからの増産依頼により、白山工場を建設したが、資金の大半はAppleからの前受け金1700億円で賄った。

問題は、JDIと Apple の契約である。この前受金の契約には下記の条項がある。

・JDIは年間2億ドルまたは売上高の4%のいずれか高い金額を四半期ごとに返済する。

・JDIの現預金残高は300億円以上を維持する。

・上記2つの条項を守れなければ、Appleは、前受け金の即時全額返済、または白山工場の差し押さえを要求できる権利を持つ。

返済原資は貸し手であるAppleからの注文次第であることが問題で、Apple側の理由で注文が減ると、 たちまち返済原資に行き詰まる。

今回の中台連合の出資800億円も、Appleが注文を減らせば、返済不能となり、Appleに流れることとなる。

中台連合の要求に基づいて、2019年以降の返済減額を訴えるため、INCJの志賀会長と経済産業省幹部の2人がApple本社へ乗り込んだが、3月23日に事実上のゼロ回答があった とされる。

今回、出資が決まったのは、Appleとの間で返済繰り延べの合意があったとされるが、報道では、債務残高約 1,000億円について2019年度返済分の一部を2020年度に繰り延べるというだけで、「トリガー条項」はそのまま残るという。JDIの今後はApple からの注文次第で、Appleが「生殺与奪」の権利を握ったままである。


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