英国のジョンソン首相は6月3日付の英紙タイムズに寄稿し、 中国が反体制活動を禁じる「香港国家安全法」を施行した場合、イギリスは移民規則を変更し、香港人数百万人に対して「英市民権を獲得する道」を開く方針だと述べた。イギリスは香港との関係を維持せざるを得ないとしている。
中国の国家安全法制は司法および政治の独立性を謳歌してきた香港の自治を「大幅に損なう」だろう。
その場合、何百万という香港市民にイギリスのビザを提供するほか「選択肢はない。」
中国が同法を施行した場合、英国海外市民旅券(BNO)を保有する香港人に認めているビザなしの英国滞在期間を、現行の6カ月から12カ月に延長する。
現在、約35万人の香港人がBNOを保有している。ほかに約260万人に取得資格がある。
BNO保有者には今後、就労を含め、これまで以上の権利が与えられることとなる。
これにより、「BNO保有者には英市民権を獲得する道が開かれる可能性がある」。
中国全人代は5月28日、香港での反政府的な動きが「国家安全」に直接的に関わるとし 、「国家安全法」を香港に導入する方針を採択した。今夏にも具体的な法整備を行う。
トランプ大統領は5月29日、中国が香港への統制を強化する「香港国家安全法」の導入を決めたことへの対抗措置として、米国が香港に認めている優遇措置の廃止に向けた手続きに入ると発表した。
「国家安全法制」の導入を決めたことについて、大統領は「香港にはもはや自治はない。中国は一国二制度を一国一制度に置き換えた」と述べ、「香港に対する特別な扱いを撤廃する手続きに着手するよう指示した」と明らかにした。
2020/6/1 トランプ大統領、香港への優遇措置撤廃へ
ジョンソン首相は香港の自治の崩壊に備えて住民を広く受け入れる姿勢を強調し、国家安全法に抗議する姿勢を明確にした。
ラーブ外相は6月2日、安全保障上の機密情報を共有する"Five Eyes" ---- イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド ---- に、香港市民にビザを発給するよう頼んだと議会に伝えた。
これに対し、中国は6月3日、英国に対し、中国の問題に「干渉するのを止める」よう求めた。
中国外務省の報道官は「我々は英国に対し、一歩退き、冷戦時代のメンタリティーと植民地時代のマインドセットを捨てて、香港は中国に返還されたという事実を認識し、尊重するよう忠告する」と語った。
「香港の問題と中国の内政問題に干渉するのを今すぐ止めないと、英国はしっぺ返しを食らうことになる」と加えた。
ジョンソン首相の報道官は次のように反論した。
「首相が述べた通り、英国は香港の『一国二制度』の下での成功を願っているだけだ」
「中国がこの国家安全法を推し進めれば、それは国連に登録されている法的拘束力のある共同声明に基づく義務に直接抵触することになる」
共同声明は1984年12月19日に中国の趙紫陽総理とイギリスのサッチャー首相が北京で署名した。両国は1985年5月27日に批准公文を交換し、国際連合事務局で登録したことで声明は発効した。
中国の香港政策の方針について、中国は一国二制度をもとに、中国の社会主義を香港で実施せず、香港の資本主義の制度は50年間維持されるとした。
ーーー
香港が英領であった時代には、香港人にはBDTC旅券(British Dependent Territories Citizen)が発行されていた。
1997年の香港返還により、BDTCは無効となった。
現在、2種類の旅券がある。
1) 中華人民共和国香港特別行政区が発行するHKSAR(Hong Kong Special Administrative Region)旅券(青色)
2) 英国が発行する英国海外市民(BNO=British National Overseas)旅券=赤色
なお、他に香港から中国に入るための中国公安局が発行するIDカード「回郷証」(Home Return Permit)がある。香港の居住権があれば基本的に取得でき、有効期間は10年(18才以下の場合は3年)。
香港住民が中国本土へ行く場合は国内移動とみなされ、HKSARパスポートでは入境できない。 中国はBNO旅券を認めていない。
中国への入境は自由ではなく、「回郷証」が必要である。
1997年の香港返還に際して、「一国二制度」の下で、香港市民は英国海外領国民ではなくなり、中国国民となった。
しかし英国は、1997年返還までの間にBNO旅券を300万人以上の香港市民に発給した。1997年の返還前の香港に居住、申請した人は、現在でもBNO旅券を保有・更新することができる。
但し、BNO旅券を持つ香港人から生まれた子供は1997年6月30日以降に生まれた場合は取得できない。
BNO旅券は実際には英国の旅券でなく、英国政府が発行する渡航文書(Travel document)である。英国入国の際に外国人同様の入国審査を受けなければならない。
なお、日本政府は、HKSAR旅券とBNO旅券保有者にビザ免除を認めている。
コメントする