英国とEUの通商・協力協定の問題点

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英国は2020年12月31日深夜、EUから離脱したが、その後、いろいろの問題が出ている。


(批准)

2020年1224日、欧州委員会と英国政府の間で通商・協力協定に合意した。

EUのMichel大統領とvon der Leyen欧州委員長は12月30日、英国との間で合意したFTAなど将来関係についての文書にブリュッセルで署名した。

EUは12月28日の加盟国大使級会合で、EU欧州議会の批准を待たず、31日深夜に暫定適用することを全会一致で承認している。

英国下院は12月30日、521対73の大差で離脱関連法案を承認した。これを受け、Johnson英首相は郵送された文書にロンドンで署名した。
同日夜、英国上院がこれを承認、エリザベス女王の裁可も得て法律となった。

これで12月31日深夜の英国のEU正式離脱が確定した。

2020/12/25 英EU、通商協定で合意

欧州議会本会議での批准決議までには、合意文書の精査、EU加盟各国の言語への翻訳、そして貿易・外務関連の委員会審議が必要であり、これには相応の日数がかかる。そこで、今回の英EU間FTAは、これらのプロセスを年明けに先送りし、EU加盟各国政府の合意の下で、2021年初めから暫定的に発効する形をとった。

EUは2021年2月に、批准期限を1カ月遅らせ、4月末とすることを求め、英国は了承した。
北アイルランドとの通商などで早くも対立が見られており、批准の遅れは不確実性をいっそう高めかねない。

ゴーブ英内閣府担当相は欧州委員会に宛てた2月23日付の書簡で、EUが4月末までに「域内の必要条件を満たす」ことを期待していると表明。英国は「離脱協定の暫定適用期間の延長をこれ以上要請されることはないと考える」と、くぎを刺した。


(北アイルランド問題)

北アイルランド問題では、英EU合同委員会が2020年12月17日に「アイルランド・北アイルランド議定書」で合意し、英国とEUは、北アイルランドを実質的に「EU圏内」としてステータスを維持することが決まった。

これにより、EUと北アイルランド間の貿易関係については、英EU貿易協力協定の適用除外とし、英本土と北アイルランドの間の通商関係は、EUとしては「対外貿易関係」として扱うこととなった。英本土から北アイルランドに持ち込む財については、EUの規制が適用される。

英国は一旦、これを骨抜きにする Internal Market Bill をつくったが、EUとの合意に違反する部分を削除することに合意した。

しかし、北アイルランド問題について、トラブルが続出した。

1月以降の規制が不透明なことを背景に、英国の大手小売店などが北アイルランド向けの宅配貨物発送を停止したり、同地域からの注文を取り消したりするなどして、混乱が広がった。


英政府とEUは一時的な対応策をとった。

(宅配貨物)

英歳入関税庁は2020年12月31日、宅配事業者や郵便事業会社ロイヤル・メールなどが本土から北アイルランドに移送する宅配貨物について、1月1日~3月31日の間、北アイルランドの事業者の搬入時の税関申告を最大3カ月間繰り延べ可能とする措置を発表した。

(鶏肉以外の冷蔵ひき肉・ソーセージなど)

英環境・食糧・農村地域省は2020年12月14日、特定の肉製品の英本土からEUおよび北アイルランドへの輸出・移送が制限されたり、許可されていないことに対する救済措置として、6カ月間は北アイルランドへの移送を可能とする特例措置を発表した。

その後の恒久的な措置はまだ決まっていない。

(一部の食品)

英本土から北アイルランドへの移送について、スーパーマーケットやそのサプライヤーなど一部事業者を対象に、一定の条件の下で輸出衛生証明書、植物検疫証明書などの添付を3カ月間免除する措置も公表。

動物由来加工製品に植物性製品が使用されている「混合食品」、植物及び植物製品、非動物性由来の高リスク食品及び飼料

これらは臨時の措置で救済したが、期限終了後に混乱が予想される。

英本土と北アイルランド間の食品流通については、効率的に行われるよう、新たな電子システムを整備することとされている。

食品輸送に関しては、2月2日に英国から欧州委員会向けに、手続きの緩和措置を少なくとも2023年1月まで延長するよう要請したが、合意には至らなかった。

英国の北アイルランド相は3月5日、スーパーマーケットとそのサプライヤーに対して、英本土から北アイルランドへの食品移送において求められる証明書の提出免除など、現在の緩和された措置を2021年10月1日まで延長するなどとした声明を一方的に発表した。

欧州委員会は、「英国政府による Internal Market Bill に次ぐ2度目の国際法違反だ」と強く批判する声明を発表した。

「英国が離脱協定に違反する、もしくは違反をする意図がある場合は、欧州議会はEU英国間の協定を批准することは難しい」と述べ、欧州議会による批准にも影響を与える可能性を示唆した。

付記 

欧州委員会は3月15日、英国がEU離脱協定および議定書に違反しているとして、英国に対する義務不履行手続きに着手したと発表した。
手続きの第1段階として欧州委は英国に「公式通知状」を送付し、1カ月以内に「見解」の表明を求めた。
行政的な手続きで問題が解決しない場合、欧州委は、EU司法裁判所に提訴し、英国に対し制裁金を求めていく可能性も辞さないと警告した。


(新型コロナワクチン)

欧州委員会は1月29日、新型コロナウイルス対策ワクチンのEU域外への輸出に対し、許可制度を導入すると発表した。

2021/3/5 イタリア政府、新型コロナワクチンの輸出を差し止め  

これが発表されると、英国ではこれが北アイルランド議定書に抵触するのではないかと批判の声が巻き起こった。

北アイルランド自治政府首相は、北アイルランドとアイルランドの間に「厳しい国境管理」を要することになる「信じられないほど敵対的な行為」だと批判した。

こうした批判を受けて欧州委員会は、規制は「北アイルランド議定書には影響しない」と声明を発表した。

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