SK Innovation と LG Chemは車載電池の特許紛争で争ってきた。
LG Chemは2019年4月30日、SK InnovationがLG技術者を採用することにより、リチウムイオン電池技術を盗用したとし、LGの米国子会社と共同で米国ITCとDelawareの連邦地裁に提訴したと発表した。
SK InnovationがLGのリチウムイオン電池部門の77人の高度の技術と経験を持つ従業員を雇用し、LGの企業秘密を取得したと主張した。
ITCは2月10日、SK InnovationがLG Chemの営業秘密を侵害したと判断し、関税法第337条の違反を適用し、営業秘密を侵害したバッテリーと部品に対する「アメリカ国内への輸入禁止10年」を命じた。
2021/2/12 米ITC、SK Innovationに輸入禁止命令
上記は企業秘密侵害であるが、特許権侵害については、LG Chemは2019年9月にSK Innovation をITCに提訴したが、ITCは3月31日、SK側の主張を認める仮決定を下した。
また、SKがLGをITCに提訴した特許権侵害訴訟に関しては、LGがこの訴訟を却下することを求めていたが、ITCは4月2日、LG側の要請を棄却した。この訴訟は継続する。
ITCは上記の営業秘密侵害については、事実上の猶予期間を設定し、LG Chemとの和解を促した。
しかし、SKは1兆ウォン(約980億円)前後の和解金をLG側に提示しているのに対し、LGは少なくとも3兆ウォンを求めているとされ、SK側は「LGの要求はバッテリー事業をやめろというに等しい」と主張している。
ITCの2月10日の「輸入禁止」の決定は、大統領の60日間のレビュー期間がある。
SKは3月30日、Biden大統領が60日間のレビュー期間内 (4月11日まで)にITCの判断を覆さない場合、米国から撤退し、欧州か中国に移転すると発表した。
SKは最悪のシナリオを想定し、建設中のバッテリー工場を(他社への売却でなく)欧州に移転する作業に着手した。これまでに投入された約1兆5000億ウォンのうち生産設備など1兆ウォン程度は回収が可能だと判断している。
今回両社は、Biden大統領が最終判断を下す期限の数時間前に和解した。
和解条件は次の通り。
SKはLGに対し、18億ドル(両社の主張額のほぼ中間)を支払う。うち9億ドルは現金、残り9億ドルは売上高の数%相当のロイヤリティで支払う。
SKとLGはともに、国内外の全ての訴訟を取り下げ、今後10年間互いを訴訟しない。
この結果、SKはジョージア州Commerceで建設中の自動車用リチウムイオン電池工場を完成し、契約済みのFord とVolkswagenに電池を供給することが可能となった。
バイデン大統領は3月31日、国内のインフラの整備等に8年間で2兆2500億ドルを投入する新たな計画American Jobs Plan を発表したが、そのなかには電気自動車関連として1740億ドルが含まれている。
SKの工場の欧州への移転、それによる雇用の減は大統領にとって避けたいものであるが、営業秘密の侵害を認定したITCの決定を (SKの米国からの移転の脅迫を受け)覆すのも好ましいものではない。
これが避けられたことで、バイデン大統領は和解について、「米国の労働者と米国の自動車産業にとっての勝利である」と呼んだ。
「米国には、強く、多様化した、弾力性のある米国ベースの電気自動車用電池のサプライチェーンが必要である。それにより、需要がグローバルに拡大する電気自動車と電池を供給し、雇用を増やし、将来の雇用への基礎をつくることが出来る」と述べた。
SKとLGに対し、米国政府と韓国政府から和解に向けての強い圧力があったと見られる。
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