ジャパンディスプレイ(JDI)は4月10日、世界第3位の生産出荷規模を誇る広東省深圳市のディスプレイメーカー のHKC:惠科股份有限公司との間で、グローバル戦略パートナーとして次世代OLED ディスプレイ技術の推進と工場建設 などに関する戦略提携覚書を4月7日付で締結したと発表した。
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JDIは2022年5月に、世界で初めてマスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせた方式で画素を形成し、輝度・寿命を大幅に高める次世代OLED「eLEAP」の量産技術を確立した。
また2022年3月には、世界で初めて第6世代量産ラインにおいて、従来の酸化物半導体薄膜トランジスタと比較して電界効果移動度が 2~4 倍以上となるバックプレーン技術「HMO」の開発に成功しており、早期の量産化を目指している。
そのほかを加え、6つの「世界初、世界一」独自技術を持つ。
eLEAP
(次世代OLED)environment positive(環境ポジティブ)
Lithography with maskless deposition(マスクレス蒸着+フォトリソ方式)
Extreme long life, low power, and high luminance(超長寿命・省電力・高輝度)
Any shape Patterning(フリーシェイプ・パターニング)広発光領域でピーク輝度2倍または寿命3倍、フリーシェイプで明るく鮮明な画像を実現
OLED蒸着用マスクを使用せず、洗浄不要HMO
(High Mobility Oxide)電界効果移動度が、従来の OS-TFT 技術と比較して 2倍以上となる高移動度酸化物半導体(HMO、High Mobility Oxide)技術
及び 4倍以上となる超高移動度酸化物半導体(UHMO、Ultra High Mobility Oxide)技術メタバース
(超高精細ディスプレイ)圧倒的なリアリティと没入感
高い歩留りと安定した品質AutoTech EVに対応した統合コックピットの実現
HUDの進化による安全性の向上Rælclear
(透明ディスプレイ)高い技術開発力により実現したバックライト無しで表示が可能な液晶ディスプレイで、電源や駆動回路、HDMIと組み合わせて作られた透過率84%を誇るモニターセット。
映し出された映像は、表と裏の両面からクリアに見ることが可能。新技術・新商品・新事業 独自技術の用途拡大
課題解決型の新規事業
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ジャパンディスプレイは、日立・ソニー・東芝の液晶事業を統合して2012年に発足し、スマホの上位モデルをターゲットに液晶を供給してきた。
しかし、最大顧客の米アップルが iPhone の新モデルで初めて有機ELを採用、有機ELに強い韓国メーカーを前に競争力を失った。
2019年4-6月期の決算で、顧客の在庫調整や米中貿易摩擦の影響を受けた需要減により売上高が減少したほか、白山工場の減損を含む517億円の事業構造改善費用を特別損失として計上し、債務超過となった。
2019/8/14 JDIが債務超過に
経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は2020年1月31日、独立系投資顧問のいちごアセットマネジメントから最大1008億円の出資を受け入れる方向で最終契約を結んだと発表した。
2020/7/24 JDI、いちごアセットと追加出資受け入れの最終契約締結
現在、親会社「いちご」のScott Callon氏がCEOである。
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今回、中国のパネル大手、恵科電子(HKC)と有機ELパネルの量産化での提携を決めた。
有機ELは韓中勢が席巻する。JDIは上記の多くの技術を持つが、赤字経営が続き、資金力で劣る。
他方、HKC は、近年、大型ディスプレイ分野において急速な成長を遂げているエレクトロニクスメーカーで、2017年以降、中国の重慶、滁州、綿陽、長沙にて次々と第8.6世代ディスプレイ工場での量産を開始して売上を急拡大しており、強力なコスト競争力、販売力、機動力、更には資金力も有している。
JDIとHKC は、JDIの「世界初、世界一」独自技術及び生産技術力、HKC のコスト競争力及び販売力、並びに両社の人材力の融合が、両社の企業価値の飛躍的向上に資するとの考えで一致した。
下記で合意した。
1)グローバル戦略パートナーとして、次世代 OLED「eLEAP」、共同開発センター、ハイエンド車載ディスプレイ事業などについて、長期的・全面的・深い協力
2) 世界最先端の eLEAP 工場を共同で計画・建設し、2025 年内の量産開始を目指す。
JDIが虎の子の技術を供与してHKCが2025年の量産を目指す。
新工場の投資額は数千億円規模になる。
JDIの有機EL技術を使い、HKCが中国国内で工場を建設する。JDI側は工場建設への直接的な投資は行わなず、技術者を送るなどして対価を得る。
新工場にはテレビ向けパネルの生産にも対応できる8.6世代と呼ばれる大型設備を導入する。
日本国内には共同の開発センターを新設する。
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そんなに画期的な技術を開発したのであれば、
自社で設備投資してサムスンやLGよりも高性能で低価格な有機ELパネルを量産すれば、
売れまくって、一気に黒字化すると思うのですが、
その辺りが私のような一般ピープルには理解し難いところです。
国策会社よ、
がんばってくれよ!
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ジャパンディスプレイは産業革新機構の下で液晶メーカーとして再出発した。しかし、最大顧客のアップルの有機EL採用があり、アップルの要請で同社向けに建設した白山工場が契約ミス(Take or Pay条項なし)で売却を余儀なくされた。
同社は2016年末に産業革新機構から750億円を調達、調達資金を有機ELに振り向けることで、競争力を強化した。
同社は一時、ソニーとパナソニックの有機EL事業を統合したJOLEDに51%出資する計画であったが、とりやめた。
そのJOLEDは2023年3月27日、東京地方裁判所に民事再生手続き開始の申し立てを行ったと発表した。JOLEDが培った有機発光ダイオード(OLED)ディスプレーの技術や知的財産権を継承することなどで、ジャパンディスプレイと基本合意した。
2023/3/29 有機EL事業のJOLED、民事再生手続き
ジャパンディスプレイ のeLEAPは、JOLEDが開発していた技術ではなく、液晶に頼ってきたJDIが事業建て直しの核として開発してきたもの。
今後、JOLEDの資産と技術者はJDIに移り、両社の技術が統合される。
但し、折角の優れた技術が、資金難のため自ら事業化できず、技術料で稼ぐだけというのは残念である。
いちごアセットは1108億円を投じてJDIを救済したが、採算が取れるのだろうか。
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