米預金保険基金、銀行破綻保護の費用を銀行への特別負担金で回収へ

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米連邦預金保険公社(FDIC)は5月11日、3月に破綻した米地銀Silicon Valley BankSignature Bankの全額預金保護でかかった費用を回収するため、銀行に特別な負担金を課す案を公表した。

地方銀行破綻で目減りした預金保険基金の補充で、113の銀行が計158億ドルを負担する。うち95%以上を資産規模500億ドルを超す大手・中堅銀行が支払う。


本年3月以降、米国の3銀行が相次いで破綻した。

Silicon Valley Bank 2023/3/10 破綻、First Citizens BancSharesが買収

Signature Bank  2023/3/12 破綻 New York Community Bancorpが買収

First Republic Bank 2023/5/1 破綻  JPMorgan Chaseが資産、負債買収 

経営不安が広がったSilicon Valley Bankでは預金保護の対象とならない非付保預金が大量に流出し、経営破綻に追い込まれた。
同行は長期財務証券に巨額の資金を投資していた。(短期の預金を長期の証券で運用するというミスマッチがあったが、金利の急速な引き上げで
債券の価格が下落し、損失が膨らんだことが大きい。一部からはFRBの急速な引き締めが金融危機を誘発していると指摘する声が上がった。)

米国では金融機関が加盟する連邦預金保険公社(FDIC) が1口座あたり25万ドルを上限に保護する仕組みがあるが、Silicon Valley Bankはスタートアップ業界を顧客としており、2022年末の預金残高約1750億ドルのうち89%に当たる約1560億ドル(約21兆円)は預金保護の対象外だった。

First Republic BankはSilicon Valley Bankと同様、非付保預金が全体に占める割合が高かった

Silicon Valley Bank破綻後に米金融当局は預金の全額保護を打ち出したが、顧客から預金保険制度の限界を見抜かれて預金の流出を止めきれなかった。 顧客は数日のうちに約1,000億ドルの預金を引き出した。

JPMorgan ChaseはFDICが実施した緊急入札で落札、First Republicの下記の資産と負債を引き受け、対価として106億ドルをFDICに支払う。

2023/5/3  全米14位のFirst Republic Bankが破綻、3月以降で3行目



Silicon Valley Bank
Signature Bankの破綻処理をめぐり、FDICなどの米当局は金融システムの混乱拡大を防ぐため、2行の預金を全額保護する特例措置を決めた。25万ドルが上限の預金保険の保護対象を広げたことで、2022年末時点で1282億ドルあった預金保険基金に損失が生じることになった。

預金保険基金からは、Silicon Valley BankSignature Bankの破綻に伴って預金全額保護措置を講じた際に158億ドルが引き出された。

さらにFDICが接収したFirst Republic BankJPMorgan Chaseが買収するに当たり、基金は130億ドルの支払いを強いられる。

連邦預金保険法は銀行からの追加の負担金徴収で損失を穴埋めするよう求めており、今回、FDICがその実行に向けた規則案をまとめたもの。

FDICはこの穴埋めとして、資産50億ドルを超える銀行(合計113行)に各保険対象預金の0.125%を「特別賦課金」として徴収する。来年6月から2年間、四半期ごとに8回に分けて徴収される予定。

資産500億ドル超の銀行が特別賦課金の95%余りを支払うことになる。
一方で資産50億ドル未満の銀行は負担の義務はない。

米銀最上位14行の支払額は推定で年間58億ドルに上る。

今後2カ月間の意見公募などを経て最終規則をまとめる。徴収額などは今後修正される可能性もある。

FDICのGruenberg総裁は声明で「今回の提案は保険対象外の預金者の保護で最も恩恵を受けた銀行に特別な負担金を課すものだ」と説明した。
Silicon Valley Bankなどに講じた預金の全額保護が安心感をもたらし、他の銀行の大口預金流出を防ぐ効果があったため、大口預金の多い大手銀行に相応の負担を求める形にした。中小銀行に過度な負担が生じないよう配慮した面もある。

FDICは預金保険の拡充策の検討も進めている。事業会社の決済口座に絞って保険でカバーする金額を大幅に引き上げる案が最有力だとした。制度変更には米議会の承認が必要で、与野党の対立が目立つ現在の政治情勢で議論が難航する可能性もある。

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米銀の破綻を契機とした金融不安がくすぶっているが、新潟で開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議は5月13日の共同声明でこの問題を取り上げた。

世界経済と経済政策:

「監督・規制当局と引き続き緊密に連携して金融セクターの動向を監視する。金融安定及びグローバルな金融システムの強靱性を維持するために適切な行動をとる用意がある。

我々の金融システムが強靱であることを再確認する。我々は銀行部門におけるデータ、監督及び規制のギャップに対処する。」

鈴木財務相コメント

金融システムは強靭であるとの認識を共有した上で、引き続き警戒心を持って動向を注視し、金融安定およびグローバルな金融システムの強靭性を維持するために適切な行動をとる用意があることに合意した。

Social Networking Serviceなどで信用不安が瞬時に広がる。主要国の金融当局でつくる金融安定理事会などで教訓をしっかりと棚卸しして、金融システム強化のために優先的に取り組む事項を検討していきたい。

植田日銀総裁コメント

リーマンショックの金融危機以降に合意された金融規制改革が徹底されていない部分について実行していく。米国の中堅銀行の場合は監督当局と銀行との対話が十分でなかった反省もあり、そういうギャップを埋めていく努力が含まれると思う。

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