富士通幹部、英郵便局の冤罪事件で議会証言

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英国で多数の郵便局長らが不当に有罪判決を受けた「英国史上最大の冤罪事件」と呼ばれる郵便局スキャンダルで、欠陥のある会計システムを郵便局に納入した富士通に対し、補償金を支払うよう求める声が高まっている。

1999年から2015年までの間に郵便局の窓口の現金と富士通が納入した会計システム上の残高が合わなかったなどとして郵便局長ら700人余りが横領などの罪で訴追された。

2024/1/16 「英史上最大の冤罪事件」で富士通の責任を問う声

英国の郵便局スキャンダルの渦中にある富士通の欧州のトップ、Fujitsu Services のPaul Patterson CEO は1月16日、英下院Business and Trade Committee で証言し、「われわれが目にしてきた証拠に個人的に愕然としている。会社には貢献する道義的義務があると思う」と述べた。

Paul Patterson は10年以上同社で働いており、2019年に現職に就任した。富士通本体の執行役員も務める。

証言では、富士通社内の人間が1990年代から会計システムHorizonソフトウエアの問題を知っていたと語った。「富士通は最初から関与していた。システムにはバグとエラーがあったが、700人以上の郵便支局長の裁判で郵便事業会社側を支援した。本当に申し訳ない。」

裁判では富士通は郵便事業会社に対して、郵便局長以外は誰もHorizonの記録にアクセスしたり、変更したりできないと伝えた。これにより責任は郵便局長だけにあるとされた。しかし、これが事実でないことが分かった。

Paul Patterson はこれが無実の郵便局長を有罪にするのに使われたことを認めた。

何故、富士通がそれを知りながら何もしなかったのかと問われ、「知らない。本当に知らない」と答えた。

「契約により郵便事業会社に渡した情報ではっきりしており、郵便事業会社もバグとエラーがあったことを知っている」と述べた。

被害者への賠償についても「道義的責任がある」としたが、「責任が明確になった場合に判断する。具体的な金額は裁判官による調査の終了後にのみ決定される」と述べた。

郵便事業会社のCEOのNick Read も証言したが、まともに質問に答えず、非難された。

郵便局長以外は誰もHorizonの記録にアクセスしたり、変更したりできないというのが事実でないことを郵便事業会社がいつ知ったのかなどの質問に答えなかった。

委員会にはHollinrake 担当相も出席し、富士通の発言を肯定的に評価した。政府から被害者への補償額は「最終的には10億ポンド(1855億円)以上になるかもしれない」と語った。富士通がこの一部を負担することになれば、補償額は数百億円に上る可能性もある。

被害者団体 Justice for Subpostmasters Alliance を結成、郵便事業会社に対して集団訴訟を起こし、テレビドラマ「Mr Bates vs the Post Office」の主人公であるAlan Batesが証言し、まだ補償を受けていないとし、"it's madness" と述べた。


富士通は契約で24億英ポンドを得ており、契約が終了するまでに四半世紀以上かかる。

スナク首相は先週、冤罪被害者を無罪とし、約980人の郵便局員への補償を早める新たな法律を導入する考えを表明していた。補償は、スキャンダルに巻き込まれながら私財を投じて弁済し、起訴されなかった多くの人にも提供される。
  

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富士通の時田隆仁社長は1月16日にダボスで英BBC放送の取材に答え、「郵便局長らとその家族の人生に壊滅的な影響を与えたことをおわびする」と謝罪した。時田社長が公の場で事件についてコメントするのは初めて。

ダボス会議に参加した同氏は「これは大きな問題であり、富士通として非常に深刻に受け止めている」と語った。欠陥のある会計システムで得た収益を返還するかとの問いには答えなかった。


付記

イギリスのテレビ局 Sky News は1月17日、イギリスの Kemi Badenoch貿易相(Secretary of State for Business and Trade)が富士通の時田社長宛てに被害者らへの補償について協議するため早期の面会を求める書簡を送ったと伝えた。

スカイニュースはレターの一部を見たとし、下記の通り内容を報じている。

she would "value the opportunity to discuss Fujitsu's involvement in the Post Office Horizon scandal".

"As you may know, my department is at the forefront of our government's efforts to right the wrongs of the past.

"I am committed to ensuring that postmasters affected get the justice they deserve.

"This is why the UK government announced new legislation last week, to overturn wrongful convictions and a plan to ensure swifter access to compensation."


付記

1月19日の独立した調査機関の公聴会で、Paul Pattersonは 「早い段階でシステムにバグや欠陥などがあったことを関係者全員が知っていた」と証言した。システムが導入されたあとの1999年11月には欠陥が把握されていたものの、2018年まで20年近く問題が続いていたという認識を示した。そして、「こうした事実を郵便局の運営会社に知らせていた」と述べた。

調査団によれば、富士通がソフトの開発段階で「マイナス」と設定するはずの記号を誤って「プラス」と設定したせいで、数字のデータを削除すると逆に倍増する現象が起きていたことが判明した。

郵便局長らの裁判では富士通が提供したデータが証拠として提出されたが、ソフトの欠陥を示す数字の誤りなどは事前に削除されていたことも、この日の公聴会で明らかになった。


イギリス政府は1月18日、富士通側から「問題の公的な調査が終了するまで、政府案件の新たな入札への参加を一時停止する」とする書簡を受け取ったと明らかにした。

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