2025年2月アーカイブ

トランプ政権は、カナダ・メキシコに対する25%の関税及び中国に対する10%の関税を2月4日から実施するとした。

不法移民合成麻薬「フェンタニル」などのアメリカへの流入を容認しているのが理由で、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、不法移民と薬物の流入を「緊急事態」と認定し、期間は「危機が終わるまで」とした。(国際緊急経済権限法は、1977年10月28日に施行された米国の法律)

3カ国への追加関税の理由:

  カナダ:不法移民の流入

  メキシコ:不法移民と合成麻薬の流入

  中国:合成麻薬原料のメキシコへの輸出(製品がメキシコから米国に流入)

当初、カナダのトルドー首相は米国からの輸入品に25%の報復関税を上乗せする方針を明らかにし、第1弾として4日から、300億カナダドルに相当する米国からの輸入品が対象とした。

これに対し トランプ大統領は、「カナダからの輸入品は不要:エネルギーは無限にある、自動車は自分で作るべき、木材は使い切れないほどある」と反論した。

カナダ各州は、米国の関税に反対し、米国産ウイスキーの販売を中止した。

メキシコのシェインバウム大統領も報復関税を含む対抗措置をとると表明。 「犯罪組織と同盟関係にあるという誹謗中傷は断固として拒否」と述べた。

しかし、トランプ大統領はカナダ・メキシコの対応を受け、両国への追加関税は直前に1ヶ月猶予した。

カナダの対応:国境警備に13億カナダドル(約1400億円)を支出することを約束、合成麻薬フェンタニルの販売阻止に取り組む責任者を任命し、関連組織をテロリストに指定

メキシコの対応:米国との国境に1万人の兵士を送る。兵士は、合成麻薬フェンタニルが米国側に渡ることなどを阻むために配置される。

しかし、中国については、合成麻薬フェンタニルの米国流入を阻止していないとして、2月4日から全ての輸入品に10%の追加関税を発動した。

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合成オピオイドは、ケシから採取されるアルカロイドを化学的に合成して作られた鎮痛薬でフェンタニルは代表的な合成オピオイドである。鎮痛やがんの痛み緩和などの目的で使用されるが、誤用や乱用により依存症や嗜癖を引き起こす可能性がある。

フェンタニルは、最大でモルヒネの100倍、ヘロインの50倍の効力を有する即効性のある鎮痛剤を目的とした合成オピオイドで、比較的低コストであることから、多くの場合、ヘロインやコカイン、そしてメタンフェタミンなど他の物質と混合される。

フェンタニルは、中国で製造された原料をメキシコの犯罪組織・麻薬カルテルが加工して米国に密輸される。

トランプ大統領は今回の大統領令で次のように述べている。

合衆国大統領トランプは、合成オピオイドの持続的な流入が、1 日あたり約 200 人のアメリカ人の命を奪い、医療制度に深刻な負担をかけ、地域社会を荒廃させ、家族を崩壊させるなど、我が国に深刻な影響を及ぼしていると判断する。

合成オピオイドの過剰摂取は、アメリカ合衆国の 18 歳から 45 歳の人々の死亡原因の第1 位である。

最初の任期中、私はフェンタニルやその他の合成オピオイドが中国から米国に直接流入するのを阻止するための措置を講じた。それ以来、中国の政府と企業を最終的に統制する中国共産党は、米国で違法に販売される合成オピオイドの製造に使用されるフェンタニルや関連前駆化学物質を中国の化学会社が輸出できるよう補助金を支給したり、その他の形で奨励してきた。

さらに、中国は、違法な合成オピオイドの製造、出荷、販売による収益を洗浄する中国発の国際犯罪組織を支援し、安全な避難場所を提供している。

これらの中国発の国際犯罪組織は、業務遂行において中国のソーシャルメディアソフトウェアアプリケーションを使用して調整とコミュニケーションを行っている。

中国を拠点とする多くの化学会社も、法執行機関を逃れ、合法的な商取引の流れの中に違法物質を隠すためにあらゆる手段を講じている。

これらの中国系企業が荷物の本当の内容物と流通業者の身元を隠すために用いる手法には、米国内の再発送業者の利用、偽の請求書、不正な郵便料金、偽装梱包などがある。

過去3 会計年度で毎年 50 万ポンド以上の薬物が南国境で押収されている一方、過去3 年間の平均では北国境で毎年4万2 千ポンド以上の薬物が押収されている。(1ポンドは約 0.45kg)

違法薬物は毎年何万人もの米国人を殺しており、フェンタニルだけでも年間 7 万5 千人の死者が出ている。

これらの薬物が米国に流入すると、社会の構造が脅かされる。中国は、米国で流通する多くの違法薬物の最終的な供給源を阻止できないだけでなく、米国民を中毒させるビジネスを積極的に維持、拡大することで、この課題において中心的な役割を果たしている。

フェンタニルなどの密輸薬物が違法流通ネットワークを通じて米国に流入したことで、2025年1月20日の大統領覚書(米国第一貿易政策)、2025年1月20日の布告10886号(米国南部国境における国家非常事態宣言)、2025年1月20日の大統領令14157号(カルテルおよびその他の組織を外国テロ組織および特別指定国際テロリストに指定)に概説されているように、米国における公衆衛生危機を含む国家非常事態が発生している。

二国間対話を通じてこの危機を根本から解決しようと何度も試みられたにもかかわらず、中国当局は、既知の犯罪カルテルへの前駆化学物質の流入を食い止め、マネーロンダリング犯罪組織を閉鎖するために必要な断固たる措置を講じることができなかった。中国は、世界で最も包括的な国内法執行機関と組み合わせた最も洗練された国内監視ネットワークを実施している。また、中国は日常的に世界中で域外活動を行い、政治的反対意見とみなすものを脅迫、嫌がらせ、抑圧している。

したがって、中国共産党には、世界的な違法オピオイドの蔓延を深刻に抑制する能力が欠けているわけではない。単にそうする気がないだけだ。 私が宣言した国家非常事態に対処し、オピオイドの使用と中毒によって引き起こされる公衆衛生危機を含むこの非常事態を最終的に終わらせるためには、即時の行動が必要である。これは、中国政府の完全な遵守と協力が保証されるまで実現しない。

以上の背景のもとで、大統領令は次の通り述べている。

米国大統領としての最大の義務は、国と国民を守ることである。国民が毒され、法律が踏みにじられ、コミュニティが荒廃し、家族が破壊されるのを黙って見過ごすつもりはない。

私は以前、不法移民と麻薬の流入が米国にもたらす重大な脅威に関して国家非常事態を宣言した。

これに従い、国家非常事態の範囲を、化学原料供給者、マネーロンダリング業者、その他の国際犯罪組織、逃亡中の犯罪者、麻薬を逮捕、押収、拘留、またはその他の方法で阻止できなかった中国政府にまで拡大する。

さらに、この不作為は、米国の国家安全保障、外交政策、経済に対する異常かつ並外れた脅威であり、その源の大部分は米国外にある。

私は、この脅威に対処するため、国家非常事態を宣言し、再度表明する。この国家非常事態には、断固とした即時の措置が必要であり、私は、法律に従い、本命令に規定されているとおり、中国産品に従価関税を課すことを決定した。


中国政府は、米国の追加関税に報復措置を取った。

1) 石炭とLNGに15%、原油・農業機械・大型自動車などに10%の追加関税
2) タングステン、モリブデンなどを輸出規制の対象にする。
3) Google を独禁法違反の疑いで調査
4) 米国の追加関税をWTOに提訴
5) 米アパレル大手 PVHとIllumina, Inc.を「信頼できない企業」リストに追加

米食品医薬品局(FDA)は1月15日、菓子や漬物などに使われる合成着色料「赤色3号」について、ラットでの発がん性の懸念を理由に使用許可を取り消した。

数十年前から科学者や公益団体により人体への影響についての懸念が指摘され続けていたが、ラットの実験(後記)で発がん性リスクが認められた。  

2023年にカリフォルニア州が全米で初めて食品への赤色3号の使用を禁止した。これを受けて、赤色3号の使用禁止の動きが一気に加速した。

FDAの決定を受け、全米の食品メーカーは2027年1月までに赤色3号の使用中止や切り替えが義務づけられる。

伊東消費者担当相は会見で「日本では人の健康を損なう恐れのない添加物として指定され、使用が認められている」と安全性を強調した。

消費者庁は、「米国における決定の内容を精査し、米国以外の諸外国における動向なども踏まえ、科学的な見地から食用赤色3号の食品添加物としての使用を検討していく予定」としている。


しかし、FDAの本件についての発表は奇妙なものである。

「FDAは、連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C法)のデラニー条項(Delaney Clause)により、法の問題としてFD&C Red No.3(赤色3号)の使用許可を取り消す。」

「法の問題」であり、「安全性の問題ではない」としている。安全性には問題ないが、法律に従えば禁止せざるを得ないため、禁止するということ。

FDAは赤色3号には安全性に問題がないため禁止しないでいたが、NGOの弁護士に強く指摘されたので、やむを得ず対応した。


FDAは経緯を説明している。

  • 1960年のFD&C法改正でデラニー条項が制定された。
    この条項は食品添加物あるいは着色料がヒトまたは動物にがんを誘発することがわかった場合、それを認可してはならないと定めている。
  • 赤色3号は1969年に食品と医薬品に使用できる恒久リスト掲載着色料として認可された。
  • 1990年にFDAは化粧品と局所用医薬品への赤色3号の使用を暫定リストから恒久リストにする請願に対応した。その際の承認プロセスの一環として調べた情報の中に赤色3号がラットに発がん性を示すデータがあったためFDAはデラニー条項に基づき、この請願を却下した。
  • 1992年、FDAは上記の雄ラットで観察された影響を理由に、デラニー条項により赤色3号の食品および医薬品への使用に関する恒久リストを取り消す意向を発表した。しかしその時点で安全上の懸念はなく、リソースに限りがあるとして対応はしなかった。
  • 2022年、Center for Science in the Public Interest(CSPI)をはじめとする環境団体等の合同による赤色3号のデラニー条項該当を主張する請願により対応を迫られた。
  • 2025年(今回)、赤色3号をデラニー条項のため食品と医薬品に使用できる恒久リストから外すことを決定した。

赤色3号がラットに発がん性を示すデータがあるため、デラニー条項で認可取り消しが必要だが、実際には安全性の懸念がないため、放置していた。しかし、環境団体がデラニー条項を理由に取り消しを求めたため、安全性には問題ないが、法に基づき恒久リストから外すというもの。

後記のとおり、デラニー条項は、ヒトには当て嵌まらないような実験条件であっても、とにかくがんができたものは全て認可してはならないという もので、食品添加物以外では法律からデラニー条項は廃止されている。この条項をどうするか(廃止するのかどうか)を考える必要がある。

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赤色3号:エリスロシン (erythrosine) は、食用タール色素に分類される赤色の合成着色料の1つである。

米国では100年以上前から使用が認められている。加熱などに対して安定性が高く、食品の色味付けに使われる。

日本では菓子や漬物、かまぼこなどに使われている。

デラニー条項(Delaney Clause)は1950年代にJames Delaney下院議員により導入された一連の食品に添加される化学物質の安全性を強化するための条項で、残留農薬については1954年、食品添加物 は1958年、色素については1960年に関連法律に追加された。

デラニー条項は、 これらの法律で認可をするにあたって、ヒトや動物で発がん性が確認された場合には認可してはならないというもので、ヒトにはあてはまらないような実験条件であっても、とにかくがんができたものは全て認可してはならないという もの。
まず、農薬が残留する加工食品の販売が禁止され、その後、適用範囲が着色料、動物用薬品、飼料に拡大された。

しかし、このゼロリスク思想は現実的には多くの矛盾点があった。主な矛盾点としては、

①分析技術の進歩により、微量な化学物質も検出可能となり、検出限界である安全レベルがどんどん低くなってしまうこと。
②発がん性の有無だけが強調されているため、他の毒性が低くて、安全性の高い化合物ができても、わずかの発がん性のため代替できないこと。
③人工化学物質のみを対象としているため、天然由来の発がん物質は無視されていること。
④動物実験の発がん性試験は、必ずしも人に対する発がん性と一致しないこと、などが挙げられる。

これらのことから、1996年「食品品質保護法」の制定とともにデラニー条項は廃止された。ただし、理由はあきらかでないが、食品添加物 だけは廃止されず、今に至っており、今回「赤色3号」の使用許可が取り消された。

今回、デラニー条項が適用された理由の「発癌」データは1件だけのデータである。

Food Chem Toxicol. 1987 Oct;25(10):723-33  Lifetime toxicity/carcinogenicity study of FD & C Red No. 3 (erythrosine) in rats - PubMed 末尾にAbstract の邦訳

実験動物として広く使用されるラット:SDラットに赤色3号0, 0.1%, 0.5%, 1%あるいは 4%を含む餌を30ヶ月与えたところ甲状腺濾胞細胞腺腫とがんが雄の4%群で統計的有意に多かったというもの。1%までの濃度での用量相関はなく、4%群のみで影響が観察され た。

餌に、重量比4%もの大量の赤色3号を混ぜたものを30カ月間にわたって毎日食べさせ続けるという絶対に起こりえない状況で癌が発生したというもので、重量比1%(これも起こり得ない状況)では癌は発生していない。

消費者庁の調査によると、一般的な食生活を送る20歳以上の日本人が1日当たり摂取する赤色3号の量はわずかで、体重1キロ当たり0.05マイクログラム。

しかも後になって、発癌は甲状腺ホルモンへの影響の結果の二次的な腫瘍であることが分かった。

赤色3号はラットの甲状腺ホルモンのT4をT3(活性型)に変換する作用を抑制し、甲状腺ホルモンが足りないと感知されて下垂体から甲状腺ホルモン刺激ホルモン(TSH)が多く分泌されるようにな る。甲状腺は長期的にTSHによる刺激を受けるとがんリスクが高くなる。

この甲状腺ホルモンとTSHの動態はヒトとラットでは相当異なることがわかっていて、ラット試験での甲状腺への影響はヒトにはほぼ 当てはまらない。

大量の赤色3号を30ヶ月間、毎日食べさせるという起こり得ない状況で初めて癌が発生し、それもヒトには当てはまらない理由で発生した。

この理由で、FDAはヒトの安全性についての問題ではないとし、法の問題として赤色3号の使用許可を取り消すとした。



「科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体FOOCOM」の畝山 智香子 氏の論文を元にした。

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Food Chem Toxicol. 1987 Oct;25(10):723-33のAbstract の邦訳(ChatGPTによる) :

FD&C Red No. 3(食用赤色3号)は、2つの長期毒性・発がん性試験において、Charles River CDラットに飼料添加物として投与された。本試験は、子宮内曝露(in utero)フェーズとF1世代フェーズで構成されている。前者では、F0世代のラット(各群60匹ずつ、雄雌別)に対し、0.0%、0.0%、0.1%、0.5%、1.0%(「オリジナル試験」)および0.0%、4.0%(「高用量試験」)の濃度で化合物を投与した。同時対照群には基礎飼料のみを与えた。F1世代の動物を無作為に選定した後、長期試験フェーズが開始され、同じ飼料濃度を用い、各群70匹の雄雌ラット(3つの対照群を含む)を対象に試験を実施した。最大30か月間の暴露が行われた。

子宮内曝露フェーズでは、試験物質に関連する影響は認められなかった。F1世代の雌ラットにおいて、4.0% FD&C Red No. 3(3029 mg/kg/体重/日)を摂取した群では、全試験期間を通じて対照群と比較して有意に体重が低下した(P < 0.01)。すべての処理群で、投与量依存的に飼料摂取量の増加が観察された。一方、血液学的検査、血清化学検査、尿検査には有意な影響は認められず、生存率にも試験物質に関連する影響はなかった。

4.0% FD&C Red No. 3(2464 mg/kg/日)を投与された雄ラットでは、甲状腺重量の増加が観察され、対照群の平均44 mgに対し、投与群では92 mgであった。また、甲状腺濾胞細胞の肥大、過形成、腺腫の発生率が統計的に有意に増加していた。一方、雌ラットでは、0.5%、1.0%、4.0% FD&C Red No. 3のいずれの濃度でも、甲状腺濾胞腺腫の発生率の数値上の増加が認められたが、統計的有意性はなかった。

本試験で設定された無毒性量(NOAEL: no-observed-adverse-effect level)は、雄ラットで0.5%(251 mg/kg/日)、雌ラットで1.0%(641 mg/kg/日)であった。

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