2006年2月アーカイブ

Pugang Pharmaceutic Co., Ltd.という会社がインターネットにホームページを開いている。GMP対応の最新鋭の8つの工場を持ち、10カ国以上に支店、営業所をもっており、年間売上高は約25百万米ドル。

実はこれは北朝鮮の朝鮮富強製薬という会社で、漢方薬を製造販売している。

驚いたのは北朝鮮の会社がインターネットにホームページ(http://www.pugangpharma.com/ ハングルと英語、中国語で表示)をもっていることだけではない。

この会社はKorea Pugang Corporation (朝鮮富強会社)というコングロマリットの子会社で、富強貿易、富強オートバイ、富強鋳貨、富強泉水など8つの系列会社の1つである。

朝鮮富強のホームページ(http://www.pugangcorp.com/)では、1979年設立で、資本金は約20百万米ドル、年商は150百万米ドルに達すると記されている。

朝鮮中央日報によると、朝鮮富強の社長のチョン・ジュンフンはチョン・ミョンス前中国駐在大使の息子で、早くから対外貿易にかかわり、数百万ドルの個人資産を蓄積しており、弟のチョン・ヨンフンもディーゼル油輸入を独占しているという。北朝鮮では2002年の「7.1経済管理改善措置」で市場経済原理を部分的に受け入れたが、これ以後、北朝鮮にも大資本家が出現し、それとともに貧富格差が大きくなっているという分析が関係当局と専門家たちの間で出されている。

金総書記は1980年代に広東省を訪問し「社会主義修正主義だ」と批判したのに対し、この1月の訪問時には「広東省で起きた転変を目撃して多くの感動を受けた。広東省がさらに繁栄するよう願う」と述べ、「北朝鮮も中国の改革・開放モデル導入を検討する」とした。

今後、北朝鮮にも朝鮮富強のような会社がドンドン出てくるのであろうか。

参考 7・1経済改善措置の主な内容
①物価および賃金の引き上げ、
②為替レートの現実化および関税の調整、
③企業の自律調整権拡大、
④食糧・生活必需品などの配給制の段階的廃止、個人耕作地の拡大など

EU欧州委員会は中国・ベトナム製の革靴に対し、4月7日から臨時反ダンピング税を課すよう提案した。最初は4%とし、段階的に引き上げて最後は19.4%(ベトナム製は16.8%)に引き上げ、臨時措置の6カ月間にダンピングが解消されなかった場合は、正式な反ダンピング税の課税に踏み切る。

中国商務部は今回の件について、特にEUが中国を非市場経済国待遇をしていることに猛烈に反発している。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国ですべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能の価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める。」と規定している。但し、「非市場経済国」の定義はなされておらず、どのような場合に輸出国を「非市場経済国」として認めるかについては各国の裁量にゆだねられている。

「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。EUは中国に市場経済国待遇を適用せず、しかも中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。

現在、中国を「完全な市場経済国」と認めた国はニュージーランド、オーストラリア、韓国など51カ国に達しているが、米国、EU、日本などはまだ認めていない。

EUでは1998年の改正により、調査対象企業が一定の基準を満たしていると証明した場合には、「市場経済待遇」が認められ、通常のダンピング・マージン算定方法を用い、調査対象企業ごとにダンピング・マージンを算定することとなり、既にこれを認められた多くの実例がある。

しかし、今回EUは、中国とベトナムの革靴業界では低利融資、税免除、安い土地代、不適切な資産評価など、政府の介入が著しいとして応訴した中国企業に市場経済国待遇を適用しなかった。

中国商務部では、製靴業は労働集約型産業で中国が労働コストの低さから同業界では相対的に優位なのは当然であってダンピングではないとし、革靴業界は中国でも市場化が最も進んだ業界の一つで、かつ、メーカーの98%が民営企業または外資系企業であり、応訴した中国企業に市場経済国待遇を適用しなかったことは公平貿易の原則に反するとしている。

中国は化学品を中心に中国への輸入品に対して反ダンピング調査を多数行っているが、逆に中国自身、11年連続で世界で反ダンピング措置を最も多くとられた国となっている。人民日報によると、2005年は中国と各国の貿易摩擦が激化した年で、反ダンピング調査が51件で、調査金額が17億9千万ドルに達した。

国内の過剰設備に加え、人民元の更なる切り上げ要求、貿易摩擦など、中国の抱える問題は多い。

付記 2006/10/5

欧州連合(EU)は4日、加盟国による投票を行い、中国・ベトナム産革靴に対する反ダンピング税徴収法案を僅差で可決した。同法案に基づき、EUは今月7日から、中国製品には16.5%、ベトナム製品には10%の反ダンピング税が課される。期間は2年間。一時的な反ダンピング措置を適用されている児童用靴製品は現在、課税の対象外だが、近く対象となる見込み。新華社のウェブサイト「新華網」が伝えた。

同法案はフランスが提出したもので、僅差で可決された。投票結果は反対12、賛成9、棄権4。EUの規定では、提案を否決するには加盟国の過半数の票が必要で、棄権票は賛成票とみなされることから、同法案はかろうじて可決された。

抗インフルエンザ薬のタミフルを、原料の植物を使わず石油成分から合成することに、東京大薬学系研究科の柴崎正勝教授(医薬品合成化学)らの研究グループが成功した。新型インフルエンザ対策として需要が高まる一方、原料植物の確保が難しいことから世界的な品不足が続いてきたタミフルの安定供給が期待できそうだという。
(朝日新聞 2006/2/26)

調べた結果は以下の通り。

ロシュ社は現在、タミフルを、多くの天然の植物に含まれるポリフェノールのシキミ酸から製造しているが、ポリフェノールの微妙な相違もあって、中国の広西チワン族自治区、貴州省、雲南省、四川省で生育するトウシキミに限定しており、供給能力に心配がある。

柴崎教授らはこれを1,4-シクロヘキサジエンから不斉触媒を用いて合成に成功した。少し構造が異なる化合物も合成できることから、タミフルが効かなくなった耐性ウイルスに対する新薬開発につながる可能性もあるし、なにより原料の供給不安がなくなるため、実用化が期待される。

不斉触媒では野依良治博士が2001年にノーベル化学賞を受賞しているが、柴崎教授の不斉触媒研究も有名で、研究者の業績評価で世界的に知られるトムソンISI社によれば、不斉触媒研究に関する論文の引用回数で世界第1位となっている。(2006/1/6 東大発表

なお、シキミ酸(Shikimic acid) は仏事に使うため寺院にも植えられる植物シキミからきている。
1885年にヨハン・エイクマンが東京大学医学部で教えていたときにシキミの果実(毒性あり)から発見したので名付けられた。

トウシキミは中国原産のシキミ科の常緑高木で、果実を乾燥させたものはスターアニス、八角などと呼ばれ、香辛料として中華料理に使われている。

シキミ酸 Shikimicacid

前回の「中国のエチレン生産」で「日本のエチレン30万トン基準」に触れた。
この機会にこれについてまとめてみた。

日本のエチレンの生産量の推移とエチレンセンターの推移は別紙の通り。
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/ronbun/ethylene.htm#suii

エチレン1期計画、2期計画までは通産省が認可したが、3期計画で新増設構想が殺到し通産省では調整不能となり、1964/12に官民協調方式の石油化学協調懇談会が設置された。当局と業界が同一の資格で委員を出し、投資調整を行うこととなった。

1965に協調懇談会はエチレンセンター設置基準を決めた。
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(1)エチレン能力は1系列年10万トン以上であることと、

(2)オレフィン留分を総合的に利用すること、
(3)原料ナフサの相当部分を供給する製油所に接続したコンビナートであること
(4)将来センターはエチレン生産能力を20万トン以上に拡大するものとし、用地・用水・輸送などの立地条件がこれに即応する可能性を有していること
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ところが1967/2には協調懇談会は「エチレン製造設備の新設の場合の基準」を決め、基準を一気に30万トンに引き上げた。
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1.大規模な設備であって,当該設備によリ製造されるオレフィン留分等について適正な誘導品計画があること
(1)エチレンの製造能力が年産30万トン以上であること
(2)誘導品の生産,販売計画について確実性があり、かつそれぞれの誘導品の生産分野を混乱させるおそれのないものであること

2.原料ナフサの相当部分についてコンビナートを構成する製油所からパイプによって入手できる見込みがあること
3.当該企業の技術能力,資金調達能力等が国際競争力ある石油化学コンビナートを形成するに適しているものであること
4.コンビナートを構成する製油所および発電所を含めて工場の立地について用地,用水,輸送等の立地条件が備わっており,かつ公害防止のうえで所要の配慮がなされていること

以上の基準の運用にあたっては,企業規模の拡大および石油化学コンビナート各社の連携の強化について配慮するとともに,あわせて地域開発効果についても考慮するものとする。
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これは開放体制下の国際競争に耐え得るため、設備を大型化して、既存の企業を提携または共同投資によって強化し、弱体コンビナートの乱立を防ごうとしたものであった
協調懇談会は、1971年の需要を246万トンと見込み、これに対して操業率を85%で所要生産能力は289万トン、既認可分190万トンを差し引いた99万トンを、新規増設分として認めることとした。

しかし、案に相違して、各社が申請した計画は9計画(当面7計画)に及んだ。

伊丹敬之「日本の化学産業 なぜ世界に立ち遅れたのか」では次のように述べている。
 「エチレン30万トン計画は、明らかに国内自給体制の確立から国際競争力の強化へと、政策目標が移行したことを意味していた。政府は量的拡大を達成するため、容易に認めてきた参入企業数を絞り込み、高いハードルを設定することで、体力のある企業に集約化し、国際競争力をつけさせようとしていたのである。つまり、30万トン体制を採用するためには、資金調達、市場開拓などの諸問題が新規参入を阻止して、これまでの小規模企業乱立という産業構造が統合され、国際競争力のある業界体制への再編が進むであろう、という意図が含まれていた。

 しかし、通産省のその思いもむなしく新増設は続き、完全に読み違えてしまったのである。確かに、通産省の予想どおり30万トン基準は、企業にとってはかなり高いハードルであり、単独で実施したのは2プラントのみで、残りは共同投資4、輸番投資3という具合であった。それでも、参入企業が相ついでしまったのは、つぎのような理由による。
 企業側としては、自分たちも30万トンエチレンセンターを建設すれば、十分に国際競争力をもつことができると思い、参入障壁となるはずだった30万トン基準が、逆に目標となってしまったからである。」

最終的には別紙の通り、10プラント(遅れて建設された出光千葉を入れると11プラントができた。http://kaznak.web.infoseek.co.jp/ronbun/ethylene.htm#30 
弱体コンビナートの乱立を防ごうとしたものが、結果的には、弱体コンビナートの乱立を生んだこととなる。
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/ronbun/ethylene.htm#center


なお、大協和石油化学の増設が10万トン基準により認められず、20万トン計画をたてた直後に30万トン基準ができ、最終的に興銀の全面的支援で東洋曹達が参加して「新大協和石油化学」が設立され、東洋曹達主導で30万トンエチレンプラントを建設した経緯について、高杉良の「小説 日本興業銀行」第30章「新大協和石油化学の創立と東ソーの合併まで」に詳しく書かれている。

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中国のエチレン生産

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中国の2005年のエチレン生産量は756万トンとなった。日本の生産量は762万トンなので、これにほぼ追いついた。

能力は昨年中にシノペックとBPのJVの上海SECCO、シノペックとBASFのJVのYPC-BASFがスタート、また本年1月にシェルと中国海洋石油 のJVの中海シェル石油化学がスタートし、現時点の能力は858万トンで、日本の能力を超えている。(日本の2004年末の定修なしベース能力は796万トン)

問題は建設中及び認可取得済みの計画が、4番目の外資JVの福建計画(80万トン)、SABICが参加を検討中の天津石化(100万トン)や、新疆独山子(100万トン)、鎮海煉油化工(100万トン)、成都石油化学(80万トン)、および既存各メーカーの増設などで700万トン近くあることだ。このほかにも計画は目白押しだ。

中国の工場別エチレン能力・生産量推移は http://kaznak.web.infoseek.co.jp/ichiran/china/contents.html

中国の国家発展改革委員会(NDRC)は2004年4月に中国人民銀行、中国銀行監督管理委員会と共同で通牒を出し、経済の過熱化を押さえることを目的に、一定能力以下のプロジェクトを認めないこととした。(他に環境に悪影響を与えると見られる技術を使用するプロジェクトも)

昨年12月にもNRDCは「産業構造調整指導リスト」を公表、奨励対象、規制対象、淘汰対象を列挙している。
(「規制対象」は2004年とほぼ同じ。アセチレン法PVCが前回は8万トン以下が不承認だが、今回は12万トン以下と規制を強化している)

これによると下記能力以下のプロジェクトは認可を与えられない。
エチレン 60万トン、PE 20万トン、PP 7万トン、SM 20万トン、PS 10万トン、エチレン法PVC 20万トン、ABS 10万トン、PTA 22.5万トン、等々

*東ソーは当初、広州市に年産11万トンのPVC工場を建設することを決めていたが、上記に基づき能力を2倍の22万トンに変更した。
*瀋陽化工は残渣油の熱分解によるエチレン12万トン計画の承認を得たが、「エチレン計画」としてではなく、「残渣油の熱分解とそれによるPVC計画」として承認を得たもの。

昨年12月の指導リストの「奨励対象」には、大規模エチレンとして、中国東部・沿海部では80万トン以上、西部では60万トン以上、及び既存エチレンの増強が含まれている。

これまでの認可の状況をみると、大規模計画がドンドン認可されている。「経済の過熱化を押さえる」という目的だった筈だが、企業が認可を得るために能力を増やした結果、逆に過熱化しているように思える。

日本の「エチレン30万トン基準」(1967年)を思い出す。
ハードルを高くして弱体コンビナートの乱立を防ごうとしたのが、結果的には多数の工場を産むこととなった。これが現在の過剰設備体制の原因の一つである。

国際鉄鋼連盟がまとめた2005年の世界生産速報で、中国の生産量は3億5千万トンと初めて3億トンを超えた。

中国は2005年に鉄鋼の純輸出国となった。2003年には輸入が 4,310万トンに対し、輸出は 845万トンに過ぎなかったが、2005年には輸入が 2,717万トンに減少したのに対し、輸出は 2,775万トンに激増している。
(グラフ参照 クリックしてください

Chinaexport

朝鮮日報によると、中国産鉄鋼製品の韓国への流入が急激に増え、韓国の鉄鋼メーカーを緊張させている。 厚板の品質水準は、ここ3~4年間で韓国産と比べても遜色がないほど向上したといわれており、現代・サムスンなど韓国の造船メーカーも昨年から高付加製品に分類される船舶用厚板を中国から輸入している。

もっと大きな問題は、過剰能力の存在である。国家発展改革委員会の説明では「生産能力は需要規模を1億2千万トン上回っている。加えて建設中の生産増強分が 7千万トン、さらに建設計画分は 8千万トンにのぼる」とし、ミニ高炉の廃止等を打ち出しているが、過剰設備の処理は簡単ではない。既に中国国内で値下げ競争が始まっている。

石油化学製品の新増設ラッシュをみていると、同じことがおこるのではないかと心配になる。

「2004年問題」というのがあった。

日本では、ポリオレフィンの高関税政策が採られてきたが、ウルグアイラウンドでの合意により、石化製品の関税率は1995年から段階的に引下げられ、ポリオレフィンの場合は2004年に最終税率が適用されることとなった。
具体的にはPEでは1993年に22.40円/kgであったものが2004年には従価税6.50%となる。
関税率の推移 
(クリックしてください
Duty  

ニッセイ基礎研究所 百嶋徹氏は2000年の論文で、2004年には関税引き下げと国産品価格是正によって、LDPEで 15円/kg、HDPEで 5円/kg、PPで 26円/kgの値下がりが予想され、業界全体では860億円の減益になると予想、これに加えて欧米化学大手のアジア進出にともなう競争激化などによって、最悪のケースでは年間 1,700億円の減益になると指摘し、早急に過剰設備対策や、1社当たりの能力や設備規模の拡大に取り組むべきとした。
(「国際化第二波が押し寄せる石油化学産業-早急に求められる抜本的な設備再編ー」)
計算 
LDPE 99年のCIF 723$、
関税 @15.35→@5.29(差 @10.06) 
国産品価格高是正 @5、計 @15


PP(homo) CIF 582$、
関税 @17.90→@4.26(差 @13.64) 
国産品価格高是正 @12、計 @26

当時は業界ではこれを大問題と考え、「選択と集中」政策への転換の理由の一つとなった。例えば三菱化学の四日市エチレン停止発表でも、「本年央からのサウジアラビア、台湾、シンガポール等アジアにおける大型エチレンプラントの新増設によりオレフィン及び誘導品の輸出を行うことが厳しくなること、さらには2004年の主要石化製品における大幅な関税の引き下げ等により、今後より一層内需の伸びが期待できないことから、当社エチレン生産体制の見直しを行い、四日市事業所のエチレンプラントの停止を決断したものであります。」としている。

実際には、その後のナフサ価格の暴騰と中国の需要急増で、国際価格が上昇し、国内での値上げも実現でき、輸入品の圧力による影響は全く出ていない。好業績のもと、「選択と集中」の動きも緩くなった感がある。ある業界関係者は「2004年問題など今や問題でない」と一笑に付した。

しかし、コンピュータが一斉に狂うかも分からないと恐れられた「2000年問題」は2000年1月1日が問題なしに過ぎればそれで終わったが、「2004年問題」はそうではない。関税引き下げは既に実施されている。単に現時点では中国バブルのお陰で輸入圧力がないため実害が出ていないだけである。中国バブルが弾けると百嶋氏のシナリオが生きてくる可能性は強い。

問題は輸入圧力での値下がりだけではない。2005年のエチレン系製品の輸出量はエチレン換算で2,274千トンに及ぶ。エチレン生産量は7,621千トンで、輸出はその30%に及ぶ。
(エチレン換算輸出量:LDPE 222, HDPE 161, SM 421, PVC 370, VCM 405, EG 159. エチレン 274 千トン ほか)
日本の国内需要が今後増大することは余り期待できない。ここで輸出が激減するようなことが起これば、大混乱が起こるのは必至である。

中国が輸入を続けている間に、遅ればせながら、本格的な過剰設備対策に取り組むべきであろう。能力を国内需要対応にまで減らしたPSを例外として他の誘導品は全て問題を抱えるが、エチレンにどのように手をつけるかが最大の問題である。

中国バブル説

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現在の日本の石油化学の好調の理由は中国需要にある。そして多くの人が、これが今後もかなり長期間続くと期待している。
その根拠の一つに経済産業省の発表する「世界の石油化学製品需給動向」の中国の石化製品の需給予想がある。

http://www.meti.go.jp/policy/chemistry/index.html

2005年5月の資料から中国のエチレン関連製品の需給をグラフ化すると以下の通りとなる。(クリックしてください)
C2kanzanchina

これによると2004年以降、能力が急増し生産量も増えるが需要はそれ以上に増えている。需要と生産の差が輸入であり、今後とも輸入は減らない。

このグラフには2つの問題がある。
まず、生産能力については調査時点で明らかになっている計画だけであり、その後も大規模の計画が次々に発表されている。
中国政府は小規模設備新設を禁止しており、新設は全て大規模である。

特に需要面が問題で、グラフから見てもこの数年の需要の急増を延長しているのが分かる。根拠の一つには13億人という膨大な潜在需要の存在と思われる。
しかし実際には三大成長エリア、広東、長江デルタ(上海)、渤海湾(北京、天津、大連)の3億人を現在のマーケットと考えるべきである。これと残りの10億人の所得格差は著しく大きい。

中国では戸籍が農民と都市市民に分かれており、農民は大学を出るなりしないと都市に住むことが出来ない。そのため多数の農民が出稼ぎの形で都市に流入し、低賃金で働いている。いってみれば、農民の犠牲の上で、都市市民の現在の繁栄ができているといえる。
最近は中国政府も西部(農村部)の開発に力を注いでいるが、これも実際には農村部の官吏が安い価格で農地を取り上げ、転売して儲けており、農地を失くした農民は生活が困窮しているといわれている。

将来は別としてこの数年をとってみると、これら10億人の需要を当てにすることはできない。
グラフの元の数字は2005年の中国の需要は18,107千トンとなっている。これに対して日本は5,611千トンで、既に2005年で日本の需要の3.2倍にもなっている。1人当たりで見ると中国は13.9kg、日本は44kgである。(これに対しフィリッピンは6.5kg)

仮に三大エリアの3億人が日本並み、残り10億人がフィリッピン並みに消費するとすれば、中国の需要は2000万トンにしかならず、本年にも頭打ちとなることとなる。

これに加えて人民元の切り上げ問題がある。繊維や雑貨など、エチレン系製品の最終製品が多く輸出されているが、元高が進むと輸出に陰りが出てくる。繊維については自主規制もある。

現実にいろいろの面で需要の限界が現れているのがみられる。
「人民網日本語版」(2005年8月2日)は以下の通り伝えている。
ーー消費財600品種のうち、繊維品、家電、靴などは需要が落ち込み、供給過剰がはっきりと現れている。商務部がモニタリングする繊維品衣類84品目のうち、供給過剰の状態にあるものは86.9%を占める。家電73品目のうち87.7%が供給過剰。金属・電気器材商品19品目はすべて供給過剰だ。
商務部国際貿易経済研究院国内貿易市場研究部の李永江主任は、最近において住宅・乗用車などの販売が鈍化し、生産・販売量が大きく落ち込み、家電、繊維品、家具、金属・電気器材商品などの需給に影響を及ぼしているとみる。

家電・金属・繊維の各業界では、生産規模が国内需要を大幅に上回っている。市場の変化が企業に反映されるまでのタイムラグを考えると、これら業界の販売面への影響は今後より鮮明になるとみられる。ーー

中国経済は今やバブルの時代に入っており、いつバブルが弾けてもおかしくないと思われる。石化製品についても、建設中の新増設が完成した時点で需要が失速し、輸入が激減する可能性がある。(PVCでは既に中国の輸入量は2001年の1,916千トンが2005年には1,307千トンに減っている)
その場合、今まで中国に輸出していた韓国・台湾メーカーが日本に輸出先を変える可能性もある。

日本の化学業界は2000年頃から本格的な「選択と集中」政策を始めたが、中国景気による採算向上でその動きが弱まっている。中国バブルが弾けた場合に日本の化学メーカーは対応できるであろうか。

経済産業省は1月30日に競争政策研究会の「企業結合審査における改革の進展状況と今後の課題」を発表した。公取委の企業結合審査の状況を分析している。
http://www.meti.go.jp/press/20060131005/3-kyousouken-hontai-set.pdf

その中で、PSジャパンと大日本インキ化学工業によるポリエスチレン事業の統合を例に、問題点を指摘している。
公取委の「競争を実質的に制限する恐れがある」との指摘により結局統合を諦めたが、その指摘のポイントは「輸入品による競争圧力が認められないこと」である。

競争政策研究会は、
・企業結合審査において循環的な需給要因を考慮すべきかどうか
・需給要因の継続性についてどのように考慮すべきか(今後の需給状況をどう評価するか)
・輸入品の価格競争力をどう評価すべきか
を問題点として挙げている。

A&Mスチレン(旭化成と三菱化学の事業統合会社)と出光石化はPS事業を統合して2003年4月にPSジャパンを設立したが、これは公取委が問題なしとしている。
2004年6月、PSジャパンと大日本インキ化学のPS事業と統合を発表したが、今回は公取委が競争を実質的に制限する恐れがあるとの指摘を行った。
両者の判断は短期間になされたもので国内の状況判断には差はないが、輸入品の見方が全く異なっている。

前者のケースでは以下の通り述べている。http://www.jftc.go.jp/ma/jirei/14nendo.pdf

輸入
 ポリスチレンは,国内品と輸入品との間で品質差はなく,また,ペレット状の固形物であり,輸入に当たっての運搬・取扱いは容易である。また,国内の流通においても,実際に輸入品を取り扱う商社等が存在し,国内品とほぼ同様の販売・配送が可能となっていることから,ユーザーは国内市況と海外市況の状況に応じて国内品から輸入品に切り替えることは容易であるとしている。また,国内への主要な輸入元であるアジア地域のメーカーの供給余力は,国内需要を上回っている状況にある。
 このような状況の下,ユーザーは,国内市況と海外市況の状況に応じて,輸入品の購入割合を増減させたり,今後,国内市況と海外市況との差が縮小した場合には,輸入品の調達を再開するとしている。
 現状では,輸入品の割合は約5%に過ぎないものの,輸入に関する前記の状況を考慮すれば,国内品の価格の状況に応じて,輸入品が増加する蓋然性が高いものと考えられ,輸入圧力が当事会社に対する有効な牽制力となると考えられる。

独占禁止法上の評価
 ポリスチレンは,競争事業者や輸入の供給余力があり,取引先の変更も容易となっている。さらに,輸入が容易であり,国内品の価格の状況に応じて輸入量が増加する蓋然性が高く,輸入圧力が一定程度働いていると認められることから,本件統合により,
ポリスチレンの取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後者では一転して以下の通りとしている。http://www.jftc.go.jp/pressrelease/05.april/05040102.pdf

輸入の状況
 PSの輸入は,内外価格差の大小にかかわらず大きな変動はなく,輸入比率はおおむね3~6%程度で推移しており,主として,韓国,台湾から輸入されている。

 関税率は,過去,段階的に引き下げられており,GPPSでは平成7年には11.2%であったが,現在は6.5%と約半分に,HIPSは,同4.6%から3.1%へ引き下げられている。ただし,関税率の引下げが輸入量の増加をもたらしていない状況が見られる。
 現在,中国におけるPSの需要増加による供給不足を背景として,日本への主な輸出国である韓国,台湾等のアジア各国で生産されたPSの多くが中国向けに輸出され,日本向けの輸出が増えない状況である。今後,中国国内においてPSプラントを増設する計画があるが,PSの原料であるSMについてもアジア全体で供給不足が継続する見込みであるため,この傾向は当面継続される見込みである。

考慮事項   詳細略
1  供給余力がない中で一層高度な寡占市場となること
2  輸入品による競争圧力が認められないこと
 (1) 品質等の面における問題があること
 (2) 供給面の問題があること
 (3) 輸入品・国内品の価格差が輸入量の増減に影響を与えていないこと
 (4) 輸出国から日本向けに供給される蓋然性が低いこと
3  新規参入の蓋然性が認められないこと

4  隣接市場からの競争圧力が認められないこと

本件行為による競争の実質的制限の評価
1)単独行動による競争の実質的制限の評価

 現在の国内の製造業者は4社であり,これら国内の競争業者に供給余力がほとんどないこと,輸入品については,品質や供給面の問題があって一部代替できないユーザーがいることに加え,アジア市場の需給が逼迫していることにより輸出国に供給余力がない状態が当分継続すること,新規参入及び隣接市場からの十分な競争圧力がないこと,これらにより,ユーザーにおいて取引先を自由に変更することは極めて困難であり,ユーザー側に十分な価格交渉力がない状態にあることが認められる。
 このような国内市場の状況の下,本件行為により,当事会社の国内販売数量シェアが約50%となって下位メーカー2社との格差が拡大し,当事会社の価格引上げに対する他の事業者の牽制力は弱くなると考えられるため,単独でPSの価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出することとなると考えられる。

   
2)協調的行動による競争の実質的制限の評価
 輸入品,新規参入及び隣接市場からの十分な競争圧力があるとは認められない。また,高度に寡占的な市場であるところ,各社は相互に生産能力を容易に知り得る状況にあると同時に,生産費用に占める共通の原材料の割合が大きく,費用構造が類似しているため,競争業者が互いの行動を高い確度で予測することが可能な状況にある。
 このような国内市場の状況の下,本件行為により,原材料の調達状況が異なる競争業者が1社減少し,一層高度に寡占的な市場となるため,当事会社とその競争業者が協調的行動をとることによりPSの価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出することとなると考えられる。

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前者の判断時には輸入の供給余力があったので国内品の価格の状況に応じて輸入量が増加する蓋然性が高く,輸入圧力が一定程度働いていると認められたが、後者の判断時には中国向け輸出が好調で日本向けの輸入増加の可能性が少ないので輸入圧力はないということである。
申請時期には2年しか差がなく、この短期間の状況変化で全く異なる結果となってしまっている。
「今後,中国国内においてPSプラントを増設する計画があるが,PSの原料であるSMについてもアジア全体で供給不足が継続する見込みであるため,この傾向は当面継続される見込みである」とあるが、これは一つの見方に過ぎず、筆者等の中国バブル説では間もなくバブルは弾けるとみている。現にPVCの場合には中国の輸入はこの2年減少を続けており、逆に中国からの輸出が昨年11月から急増している。

中国バブルが弾ければ、行き場をなくした韓国や台湾メーカーは日本に輸出先を変える可能性は十分にある。公取委も認めるとおり関税は既に下がっており防御策にはならない。

このような将来の可能性に備えて事業統合をしようというのを、今現在の需給状態だけで判断するのは、競争政策研究会の指摘の通り、非常に問題である。

前回に続いて、中国の反ダンピング法の具体的な事例をあげる。

1.調査の打ち切り
中国の反ダンピング法第27条では以下の5ケースで調査を打ち切ることとなっている。
(1).調査の申請者が申請を取り消した場合
(2).ダンピングや被害及び両社の関係について十分な証拠がない場合
(3).ダンピング巾が2%より小さい場合
(4).実際の輸入量が少ない場合又は被害が少ない場合

(5).商務部が調査の継続が適当でないと考えた場合

(1).の申請取り消しは3ケースある。
・MDI (日本、韓国)
・ビスフェノールA (日本、ロシア、シンガポール、韓国及び台湾)
・EPDM (米・韓・オランダ)


このうち、MDIについては、中国側は用途先も価格も異なるポリメリックMDIとモノメリックMDIをごちゃまぜにして調査していたといわれている。これが分かって申請を取り消したと思われる。

(2).の十分な証拠がない場合は2ケース
・ポリスチレン(日本、韓国、タ イ)
・リジン(韓国、米国、インドネシア)


いずれも調査の結果、ダンピングの事実はあるが、国内企業に実質的損害が及んでいないとしている。

(3).のダンピング巾が2%より小さい場合はナイロンフィラメントヤーン(台湾 )。

このほか、エピクロルヒドリン(日本・韓国・ロシア・米国)の仮決定(本決定はまだ)ではダイソーがダンピング巾 0.9%で微小なため、保証金はゼロとなっている。

(4).の実際の輸入量が少ない場合
他はダンピング税が課せられているが、輸入量の3%未満の国及び企業が除外されている。
・塩化メチレン(韓、米、英、独、仏、蘭)のうちフランス  
・塗工印刷用紙(日、韓、米、フィンランド)のうち 米、フィンランド 
・エタノールアミン(日、米、独、ほか)のうち ドイツ
・光ファイバー(日本、米国、韓国)のうち 米のCorning

2.価格協定
Section 2 (第31~36条)に: Price Undertakings の規定がある。
当該企業と商務部が価格協定を締結するもので、今後ダンピング価格とならない価格で輸出する場合にはダンピング税を課さないというもの。
価格協定の例には以下がある。
・PVC(日本、韓国、米国、ロシア、台湾)でロシアのJoint Stock Company (SAYANSKCHIMPLAST)
・クロロホルム(EU、韓国、米国、インド)で

 LII Europe GmbH、The Dow Chemical Company、Vulcan Materials Company、ARKEMA、Samsung Fine Chemicals 5社
・Benzofuranol(日本・EU・米国)で日本農薬㈱と米国のFMC

参考 日本農薬の価格協定(中国語) http://gpj.mofcom.gov.cn/table/0602133.doc

3.ダンピング税率の再審査
第49条に関係者の要請による再審査の規定がある。
再審査によりダンピング税率が変更されたケースは多い。


・アクリル酸エステル(韓国、インドネシア、マレーシア、シンガポール)
 BASFペトロナス(4%)、日触インドネシア(11%)が再審査を要請
 BASFはそのまま、日触は3%に引き下げ


・TDI(日本、米国、韓国)で中国企業の要請で再審査
 三井武田ケミカル 4%→12.45%
 日本ポリウレタン 5%→60.02%
 その他  49%→60.02%

中国はこれまで43件の反ダンピング調査を行った。
そのうち、
クロの最終決定でダンピング防止税を徴収したのが27件、
損害なしとして調査をとりやめたのが2件(PS、リジン)、
提訴取り下げで調査をとりやめたのが3件(ビスフェノールA、EPDM、MDI)、
ダンピング率が微小なため調査をとりやめたのが1件(ナイロンフィラメント)、
クロの仮決定が3件、

調査中が7件となっている。
(一覧表 
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/japan/china.htm#ichiran

クロの最終決定のなかに、米国・韓国・タイ・台湾原産の無漂白クラフト紙がある。2005/9/30にクロの最終決定が出た。米国の有力製紙メーカーが軒並み10~20%程度のダンピング税を課せられている。
ところが2月13日に中国商務部はこの決定を2006/1/9付けで取り消すとの簡単な発表を行った。理由はあげられていない。

(中国の反ダンピング法の50条には商務部が決定の変更や取り消しを提案し関税委員会がこれを決定できるとの規定はある。)
台湾紙の報道では米国企業が中国の
行政再審法に基づき再審を要請した結果とされている。
長期間の調査の結果、クロと決定した直後に、決定を取り消し、かつ理由を明らかにしていないのは異例である。米国の大手企業が当事者であり、裏に政府間の交渉があったのかも知れない。

参考 中国の反ダンピング法 

独禁法改正

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(本件関連のデータは
 
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/japan/ftc.htm

改正独占禁止法が1月4日施行された。

独禁法の抜本改正は1977年以来であるが、今回の改正のポイントは以下の通り。
1)課徴金の引き上げ
製造業で大企業の場合、製品売上高の10%(従来は6%)

なお、再犯企業(過去10年以内に違反があった企業)は5割増 

2)減免制度
公取委が立ち入り検査をする前に、
最初に申し出た企業は課徴金を全額免除、
2番目は課徴金額の50%割引(製造業大企業の場合5%に)、
3番目は30%割引(同上 7%)

なお、立ち入り検査前に最初に申告した業者・個人に限って、刑事告発しない。

3)刑事告発のために、公取委が裁判所の令状を持って強制的に立ち入り検査することが可能に。

減免制度の導入により、米国やEUとベースが揃うこととなった。但し、米国やEUには司法取引の制度があり、柔軟に運用されているが、日本の場合はルールがきっちり決められており、透明性が高いという特徴がある。
また欧米では「omnibus question」という制度があり、当該案件とは別の違反事案を明らかにすれば司法取引で恩典を与えられるが、日本にはこの制度はない。

カルテルに加担した仲間を裏切って自社が助かるという「減免制度」 が日本で機能すれであろうか?

日本ではこれまでは調査に協力しても課徴金は同じであったが、減免制度の導入により、変わってくる可能性は高い。
実際には既に欧米で日本の企業がこの適用を受けている。
多くの企業が摘発されているが、ほとんど全ての企業が調査に協力し、司法取引で罰金の減免を受けている。

藤沢薬品はグルコン酸ナトリウムで米国及びEUで摘発されたが、EUでは最初にカルテルの決定的証拠を提出したとして80%という最高の減免を受けている。

武田薬品はビタミン剤カルテルで摘発を受けたが、omnibus question で調味料のカルテルについて供述した結果、調味料カルテルでは免責、ビタミン剤カルテルでも法人としての罰金のみで、社員・役員については免責された。

防カビ剤のソルビン酸価格カルテルではダイセル、上野製薬、日本合成の3社が米国及びEUで罰金を支払い、米国では各社の役員が起訴され、ダイセルの担当者が実際に服役するという事態になったが、詳細情報を当局に提出したチッソは全て免責されている。
なお、調査開始の発端は、本件に関係していた商社の米国人社員が欧州の会社に移り、他の事件にかかわって、omnibus questionで本件の存在を明らかにしたことといわれている。

因みに米国で個人が起訴された場合、日本在住であれば米国から見ると国外逃亡で時効中断となる。米国はもちろん、旧英連邦に入国しても、犯罪人引渡し条約で米国に引き渡される。
但し日本の場合は1980年の条約で、両国でいずれも処罰の対象となり両国の法律で死刑、無期懲役、1年以上の拘禁刑に当たる罪の場合は引渡しが可能となっているが、独禁法違反の場合には日本政府は該当せずとし、引渡しは行われない。
これまで日本人で起訴されたのは役員クラスだけで、すべて時効中断となっている。ダイセルの場合、チッソの提出した詳細情報のために若い担当者が起訴されることとなったが、海外に行けないのでは仕事にならないため、服役を選んだとみられる。
米国司法省は、独禁法を有効に施行するという司法省の能力を示すものとして、「日本人で最初に服役」と誇らしげにこれを発表している。
http://www.usdoj.gov/opa/pr/2004/August/04_at_543.htm

3ヶ月の服役の後、最近欧州子会社の代表となった。米国にも子会社があり、今や堂々と米国にも行けるようになった模様だ。

なお、チッソ(と日本合成)は事件後、本事業から撤退している。

来年2007年はプラスチックが初めて誕生してから100周年に当たる。
1907年、ベルギー系アメリカ人のベークランド博士がフェノール樹脂(商品名:ベークライト)を開発した。
(1909年という説もあるが、これはAmerican Chemical Societyで発表した年)

Dr. Leo Hendrik Baekeland (1863-1944) はベルギーのGhentで生まれ、1889年に米国籍を取った。

1893年、ニューヨークに Nepera Chemical Companyを設立、最初に画期的な印画紙 Veloxを開発し、1898年にEastman Kodak Companyに技術を売却した。
次いで、新しい電解槽の開発者のClinton P. Townsend に協力してパイロットプラントを建設、これがHooker Electrochemical Company(現在のオキシケムの一部)の元となった。

その後、セラックニス(shellac :ラックカイガラムシが分泌する樹脂をアルコールに溶かしたもので古くからインドや中国で木材の塗装に利用されてきた)の代替品つくりを目指し、その延長でフェノールとホルムアルデヒドからプラスチックの製造に成功、ベークライトと名付けた。

ベークラント博士は欧州と米国にベークライト製造の会社を設立している。
まず、1910年5月にドイツに Rutgers AG と合弁で Bakelite GmbH を設立した。
次いで同年10月に自ら米国New Jersey州に General Bakelite Company を設立した。

前者はその後、Rutgers AG の子会社となったが、2004年にBorden Chemical, Inc.が買収した。
そのBorden Chemical はApollo Management LP の子会社となっているが、2005年にResolution Performance Products LLC と合併し、Hexion Specialty Chemicals となっている。

後者のGeneral Bakelite Company はその後、Bakelite Company と改称したが、1939年にUnion Carbide and Carbon Corporation (後のUnion Carbide で、2001年にダウに吸収された)に売却された。

日本では早くも1911年にベークライトが試作されている。(日本初のプラスチック)
ベークランド博士の親友であった高峰譲吉博士が、特許権実施の承諾を受けたもので、三共商店(今の三共)の品川工場で製造された。
(そもそも、三共商店は高峰博士のタカヂアスターゼを技術導入して1899年に設立されたもので、1913年に三共株式会社となったが、初代社長に高峰博士が就任している)

1932年にベークライト部門が三共株式会社から独立し、日本ベークライト株式会社が設立された。その後1955年に住友化工材工業(1938年 ㈱合成樹脂工業所として設立)と合併、住友ベークライト株式会社になった。

因みに、日本で最初に社名に「プラスチック」という言葉を使ったのは「昭和プラスチック」といわれる。 (現在 インターネット検索で出てくる千葉の昭和プラスチックとは別)

1937(昭和12年)に筒中セルロイド(現在の筒中プラスチック)の加工部門が独立してできた。筒中プラスチックは現在、住友ベークライトの連結子会社となっている。

昭和プラスチックは世界各国に手を広げたが、1998年にアジアでの金融不安をきっかけに財務が悪化、1998年に会社更生法を申請した。
その後、キョウデンが事業を引き継いだが、2003年にユニゾン・キャピタル
がそのグループ会社であるタクミック・エスピーを通じて事業を買収している。

Dr.Baekeland 関連情報
http://inventors.about.com/library/inventors/blbakerlite.htm

http://www.chemheritage.org/classroom/chemach/plastics/baekeland.html

http://www.yonkershistory.org/bake.html

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筆者は日本やアジアその他の石油化学を中心に、周辺分野も含めたデータベースを製作しており、それを下記ホームページに掲載している。
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/new.htm

これらのデータベースをもとに、化学業界のトピックスや問題点、裏話などを随時、まとめてみたい。

コメントやご意見をよろしく。

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