米債務上限協議、合意に至らず

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米連邦債務の上限引き上げを巡り、バイデン米大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長が5月22日、会談した。事務レベルでの協議が行き詰まっており、広島市で開かれた先進7か国首脳会議(G7サミット)に出席していたバイデン大統領が、米国に戻る大統領専用機からマッカーシー議長と電話で協議し、再会談で一致したもの。

しかし、マッカーシー氏は会談後、記者団に「生産的な話し合いだったが、まだ合意はしていない。前の年度よりも支出を減らさないといけない」と述べ合意点を見い出すために事務方の交渉が「夜通し」で行われるとの見通しを示した。

議会で関連法案を可決するのに数日を要するとみられるため、デフォルトを回避できるタイミングで法案を成立させるには、週内に合意をまとめる必要があると述べた。

バイデン大統領は声明を発表し「債務不履行を防ぎ、経済の大惨事を避けるための生産的な会談だった」としたうえで「債務不履行はありえない。前に進む唯一の方法は超党派の合意に向けて誠実に取り組むことだ。合意していない分野がいくつかあるが協議を続けていく」としている。

イエレン米財務長官は、5月21日のインタビューで、債務上限の引き上げが行われなければ6月1日にも財政資金が枯渇すると改めて指摘した。「これは厳密な期限だ」と語り、早期の合意を求めた。

6月1日まで残り10日ほどとなった。継続協議で妥協案を探る。

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2023年1月19日に債務は31兆4000億ドルの上限に到達した。

下院議会は4月26日、連邦債務上限を最大1兆5,000億ドル引き上げ、連邦政府の支出を4兆5,000億ドル削減する法案を賛成217、反対215で可決した。

▽バイデン政権の看板政策である再生可能エネルギーやEV=電気自動車などに対する税額控除の廃止または修正
▽低所得者向けの医療保険制度「メディケイド」や食料支援を行う際の条件の厳格化
▽石油・天然ガス・鉱物などエネルギー資源開発プロジェクトに対して政府の許認可プロセスを迅速にすることなども盛り込んでいる。

法案は上院に送られるが、上院民主党トップの"Chuck" Schumer 院内総務は「上院に到着した直後に廃案になる」と述べており、民主党が多数の上院で可決される見込みは低い。

2023/5/2 米債務上限問題で与野党が攻防

バイデン大統領は5月9日、連邦議会下院のマッカーシー議長らと、懸案となっている債務上限問題への対応に関する協議を行った。2月に続いて2回目となる。

会合は1時間程度行われ、会合後に報道陣の取材に応じたマッカーシー議長は「新しい動きはなかった」と述べた。共和党側は4月に下院で可決した独自の歳出削減法案を基に債務上限引き上げの条件として厳しい歳出削減の確約を要求した。他方、バイデン大統領を含む民主党側は予算の修正協議には応じるものの、債務上限については従来どおり無条件での引き上げを主張した。

バイデン大統領は5月16日、ケビン・マッカーシー議長らと3回目の協議を行った。

会合後に報道陣に答えたマッカーシー議長は「両者には依然大きな隔たりはあるが、今週末までに合意に至ることは可能であり、それほど難しくはない」と述べ、 前向きな姿勢を示した。バイデン大統領も「双方が求めるもの全てを得ることが難しいことを認識すれば、超党派の予算合意に至る道は開ける」としており、両者に歩み寄りがみられた。今後、スタッフ間で協議を続け、5月19日に広島で開かれるG7サミットへのバイデン大統領の参加後に再度協議するとし た。

バイデン大統領のG7への参加に関しては、債務上限問題の協議を優先して、オンライン参加となるとの可能性も取り沙汰されていたが、当初の予定どおり対面参加 した。ただし、訪日後に予定していたオーストラリアとパプアニューギニア訪問を中止した。


バイデン大統領が日本を訪問している間も担当者レベルでの交渉は続けられ、マッカーシー下院議長は18日、「何も合意はしていないが、合意できるかもしれない。道筋は見えてきた」と述べて、話し合いが前向きに進んでいることを示唆した。しかし、19日になって事態は一転し た。

交渉を担当する共和党の議員が「交渉が生産的ではない」と述べて協議が一時、中断した。これについてホワイトハウスの報道官は、広島で行った記者会見で「双方のあいだに深刻な開きがあることは間違いない」と認め「共和党側はアメリカ経済を人質にしてはならない。経済不況を引き起こし、何百万人もの雇用が失われるおそれがある」と述べてけん制した。

マッカーシー下院議長は20日、「不幸なことだがホワイトハウスは交渉をひっくり返している。共和党はG7広島サミットからバイデン大統領が戻ってからでないと交渉には応じられない」と述べた 。

バイデン大統領はG7広島サミットが閉幕したあとの記者会見で、 野党・共和党の提案は「率直に言って受け入れがたい」と述べ、意見の食い違いが依然として大きいことを明らかにした。これまでの歳出削減と新たな歳入の組み合わせによる3兆ドル近い財政赤字の削減に加えて 、新たに1兆ドル以上の支出削減案を提案 したにもかかわらず、共和党側は富裕層などを守りながら、100万人近い人たちへの食料支援を危険にさらすような提案をしていると述べ、「共和党がその極端な立ち位置から動く番だ」と訴えた。

「例えば、昨年2000億ドルを稼いだ石油産業に対する300億ドルの減税を可能にするような内容には同意しない 。低所得層向け公的医療保険のメディケアを巡って2100万人の米国人の医療を危険にさらす一方で、(石油産業に)さらに300億ドルもの優遇措置は必要ない」と述べた。

アメリカのメディアは共和党が低所得者向けの医療保険制度や食料支援の条件を厳格にすべきだと提案していると伝えてい る。

これに対し、マッカーシー 議長は「私の立場は変わらない。子供や孫を犠牲にして、持ってもいない金を使い続けるわけにはいかない」とツイッターに投稿し、さらなる支出の削減を求めた。

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民主党上院議員団はバイデン大統領に対し、共和党との債務上限交渉が不調に終わった場合のデフォルト(債務不履行)回避に向け、合衆国憲法修正第14条の発動に備えるよう求めた。

5月18日に公表された書簡によると、民主党と会派を組む無所属の"Bernie" Sanders議員が率いる11人の議員は、上限引き上げへ超党派合意を目指すバイデン氏の努力を評価しつつ、議会共和党は「誠実に行動していない」と指摘した。

その上で、「合衆国の公的債務の効力が問われてはならない」と規定している修正第14条に言及 し、「この権限を用いれば米国は滞りなく支払いを続けることができ、世界的な大惨事を防ぐことができる」とした。

バイデン大統領は今回、議会抜きで債務上限を引き上げるために合衆国憲法修正第14条を発動する権限が自身にあるとの考えを示したが、その法的理論を検証する時間はほとんどないと述べた。「問題は、それが可能かどうか、また異議申し立てが行われず、結果的に問題の日付を過ぎても米国債がデフォルトにならないような時期に、条項を発動することができるかどうかということだ。これは未解決の問題だ」とした。

2023/5/9 米国の債務上限問題と米憲法修正第14条



米財務次官は5月15日、デフォルト回避に向けた方法として提案された「1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を鋳造する」 という考えを否定した上で、実行可能な解決策は議会が連邦債務上限を引き上げることだけだと述べた。

米国の主要メディアに「米国財務省が額面1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を発行することで公的債務上限を実質的に1兆ドル引き上げることが可能 」との話が流れている。

1996年に米議会で「財務省は任意の額面、大きさのプラチナコインを法定通貨として鋳造することができる」という法律が可決された。記念貨幣発行を意識した動きであった。

しかし、財務省が例えば1兆ドルの額面のプラチナ貨幣を発行して、米連邦準備理事会(FRB)に持ち込み、財務省口座に入金すれば、米国債を発行せずに、1兆ドルが調達できることになる。このプラチナ法定通貨が市中に流通すること はなく、鋳造にあたり議会の承認も必要ない。




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