トランプ大統領の大統領令 最初の訴訟

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トランプ大統領は就任直後に多数の大統領令を出した。そのなかに「アメリカ市民権の意味と価値を守る大統領令」がある。

憲法修正14条第1節は以下のとおり規定する。

第1節 合衆国において出生し、又はこれに帰化し、その管轄権に服するすべての者は、合衆国及びその居住する州の市民である。

いかなる州も、合衆国市民の特権又は免除を制限する法律を制定又は施行してはならない。またいかなる州も、正当な法の手続によらないで、何人からも生命、自由又は財産を奪ってはならない。またその管轄内にある何人に対しても法律の平等な保護を拒んではならない。

今回の大統領令は、これについて以下のように述べている。

改正第14条はアメリカ国内で生まれたすべての者に普遍的に市民権を付与するものとして解釈されたものではなく、「その管轄権の対象となる」条件を満たさない者を市民権付与の対象外としてきた。

アメリカ国内で生まれても、その管轄権の対象とならない者のカテゴリーには以下が含まれる。

母親 父親
アメリカに不法滞在中 アメリカ市民または合法的永住者でない
アメリカに合法的だが、一時的に滞在中
(例えばビザ免除プログラム、学生ビザ、就労ビザ、観光ビザ等)


このため、上記に該当する場合は市民権を付与しない。本命令発効後30日以降にアメリカ国内で生まれる者にのみ適用される。

これは、不法移民や、米国籍獲得を目的としたBirth Tourism (出産旅行)の規制が目的である。不法滞在の母親を持つ子供で2022年に全米で生まれた子供は約25万5千人とされる。

これに対し、ワシントン、アリゾナ、イリノイ、オレゴンの4州が差し止めを求めて訴訟を提起。訴えを検討する間、大統領令を一時差し止めるよう求めた。

4州は、大統領に憲法を修正する権限はないと主張。大統領令が執行されれば、「米市民権を奪われた人々は不法滞在となり、強制退去や拘束の対象とされ、その多くは無国籍になる」とし、州民らが「回復不可能な損害を直ちに被る」と訴えた。

ワシントン州の連邦地裁のジョン・クーナー判事はは1月23日、25分間の審理を経て、今回の大統領令を「あからさまに違憲」と判断、差し止め命令を出した。大統領は控訴するとしており、最終的に最高裁に持ち込まれるとみられている。

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本件については既に1898年に最高裁の判断が出ている。

最高裁は1898年の United States v. Wong Kim Ark 事件で、「敵対的な職業に就いている敵性外国人の子供、外国の外交代表の子供を除き、米国内で生まれた全ての居住者の子供を明白に対象にしている。米国内に居住する外国人は全て米国の司法権に属する」とした。

背景

  • 修正第14条は、奴隷制度廃止後に、元奴隷やその子孫の市民権を保障するために制定された。
  • 19世紀後半、中国人労働者はアメリカ西部に多く移住したが、1882年の「中国人排斥法」により新たな中国人移民が禁止されるなど、移民政策が厳しく制限された。中国系アメリカ人の市民権の問題もこの差別的な背景の中で浮上した。
  • 原告 Wong Kim Ark (黄金德)は1873年にサンフランシスコで中国系移民の両親のもとに生まれた。彼自身はアメリカ生まれであり、修正第14条に基づき市民権を主張していた。彼が中国への旅行から戻る際にアメリカ入国を拒否され、市民権の有無をめぐる法的争いが生じた。

判決の内容

 最高裁は1898年に6対2の判断で以下の結論を下した:

  1. アメリカで出生したすべての人は、両親の国籍や移民ステータスにかかわらず、アメリカ市民であると確認した。
  2. 修正第14条の「アメリカで出生し、かつ合衆国の管轄下にある」という文言は、両親が外国人であっても、その子供がアメリカ国内で生まれた場合には市民権を認めると判断した。
  3. この原則には例外があり、外国政府の外交官の子供や占領軍の子供など、特定のケースには適用されない。

当時、中国系移民に対する差別が強まっていた中で、この判決は憲法の平等原則を支持するものであり、中国系アメリカ人にとって大きな勝利となった。

これによると、今回の大統領令が「管轄権の対象とならない」とする者は、不法滞在中であれ、一時的滞在であれ、「管轄権の対象」になる。

今回の大統領令を実行するためには、憲法改正か、長年認められてきた最高裁判断を覆す必要があることになる。

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強硬派の間には、1898年の最高裁判断は合法移民の子供に限定した判決だとの解釈がある。

不法入国者の流入は「侵略」で、不法移民は「敵性外国人」との主張もある。

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