キヤノン、東芝メディカル買収を発表、独禁法対策で奇手

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キヤノンは3月17日、東芝の医療機器子会社、東芝メディカルシステムズを買収する契約を結んだと発表した。

3月9日に東芝から独占交渉権を得て協議を続け、合意したもの。買収額は6655億円で3月17日に決済した。
これとは別に、東芝アメリカが保有する東芝アメリカメディカルシステムズ等の株式を東芝メディカルシステムズに約225億円で譲渡した。


東芝は2015年12月21日、画像診断装置などを手掛ける全額出資子会社の東芝メディカルシステムズを売却する方針を明らかにした。「少なくとも50%以上、場合によっては100%の株式売却も考える」としている。

2016/1/5 東芝メディカルシステムズの争奪戦?

3月4日に実施した第2次入札にはキヤノン、富士フイルム、コニカミノルタと英投資会社Permiraの企業連合の3陣営が応札していた。

東芝は3月9日の取締役会で東芝メディカルシステムズの売却先としてキヤノンを選び、独占交渉権を付与した。
キヤノン側が示した7000億円規模の買収額や、事業の重複が少なく、独占禁止法の審査が容易で売却手続きが円滑に進むとみられる点を重視した。

一方、富士フイルムホールディングスは3月16日、東芝メディカルシステムズの売却に関し、東芝宛に質問状を送付した。
売却手続きに疑問があると訴え、キヤノンと最終合意を結ぶ前に回答するよう求めた。

東芝が2月4日に発表した2016年3月期の損益予想は、売却益を含まない前提で、7100億円の赤字となっている。東芝が3月末までに東芝メディカルの売却益を計上できれば、債務超過に陥るリスクが遠のくが、質問状では、「キヤノンによる東芝メディカルの株式取得手続きが本年3月までに完了し、2016年3月期決算で売却益計上が可能とは考え難い」と指摘している。

独禁法第10条では、(株式取得で)一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、取得してはならないとしている。

独禁法第10条2項で、会社が他の会社の株式取得する際、一定の基準に当たる場合には、公正取引委員会に事前に届出しなければならないとされている。

これによれば、独禁法による承認を得るまでは株式を取得できないこととなる。

3月中に承認を得るのは極めて難しい。日本以外でも、米国や中国の承認を得る必要がある。

この問題に対処するため、キヤノンは異例な手法をとった。

東芝は発表で次のとおり述べている。

当社は、本日東芝メディカルシステムズの売却を決定し、キヤノンと株式等譲渡契約書を締結いたしました。決済は本日完了しており、東芝メディカルは確定的に当社の子会社ではなくなりますが、キヤノンが主要各国の競争法規制当局からのクリアランスを得られた時点で子会社とするために、それまでの間は独立した第三者であるMSホールディングが東芝メディカルの議決権を保有することになります。

株式の譲渡先は明確にキヤノンであるが、当面の東芝メディカルの議決権は購入したキヤノンではなく、MSホールディングが保有する。

MSホールディングは株式の保有及び運用を目的として設立された特別目的会社で、株主は東芝とキヤノンのいずれからも独立した第三者の3人。

宮原賢次(住友商事名誉顧問) 33.3%
吉戒修一(弁護士・元東京高裁長官) 33.3%
横瀬元治(公認会計士・元あずさ監査法人専務理事) 33.3%

独禁法第10条2項の規定は、具体的には、取得後の議決権の数の割合が新たに20%又は50%を超えることとなる場合となっている。キヤノンが株式を取得するが、議決権は第三者のMSホールディングが保有するため、条文の上からは公取委の承認前の株式取得は認められることになる 。

キヤノンは公取委と海外の当局の承認を得た時点で、議決権を取得し、正式に子会社とすることになる。

東芝は、この会計処理が認められた場合、2016年3月期に売却益 5900億円を計上する考えで、「慎重に検討している」としている。

しかし、独禁法の条文は、普通株式の取得=議決権の取得を前提にしており、これが認められるかどうか、疑問である。
公取委の承認を得るまでの間の東芝メディカルの運営にキヤノンの意向が反映されないとの担保が取れるだろうか。

富士フィルムは3月17日、「これが認められるなら、独禁法が形骸化するのではないか」と批判した。

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東芝は3月18日、家庭電器事業の売却も発表した。

テレビ、生活家電などの開発、製造、販売を行う東芝ライフスタイルについて、映像事業を東芝グループに移管したうえで、株式の大半を美的集団に売却する基本合意書を締結した。
売上規模は2014年度連結で2,254億円となる。

今後、2016年3月末までの最終合意に向け協議する。

対象事業は売却完了後も、「東芝ブランド」の冷蔵庫、洗濯機、掃除機やその他の小型家電などの白物家電をグローバルに開発・製造・販売を継続する。

東芝と美的集団は、コンプレッサー、小型家電およびインバーター等の分野で20年以上にわたり強固な協力関係を構築している。

映像事業(パソコン・タブレット:Dynabook、液晶テレビ:REGZA、その他)は東芝グループ内で事業を継続する。

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東芝メディカルと家電事業売却の発表と同時に、東芝は半導体製造棟の建設について発表した。

3次元フラッシュメモリの生産拡大を目的に、四日市工場に隣接する土地に新製造棟を建設し生産設備に投資する計画を取締役会で承認した。

この計画に3年間をめどに約3600億円を投資する。

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