光免疫療法による癌治療

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米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆・主任研究員らの研究チームは 8月17日付けの米医学誌 Science Translational Medicineで光免疫療法(PIT)により、癌細胞を免疫の攻撃から守っている仕組みを壊し、癌を治す動物実験に成功したと発表した。

http://stm.sciencemag.org/content/8/352/352ra110

1カ所の癌を治療すれば、遠くに転移した癌も消える効果があることが確認され、チームは「全身の癌を容易に治療できる可能性がある。3年程度で治験(臨床試験)を始めたい」と話す。


現在の癌治療では「手術」「放射線療法」「化学療法」の3つの方法が主流になっているが、これらの治療にはいずれも副作用が付いてくる。
「放射線療法」「化学療法」は癌細胞を殺すが、正常細胞も殺す。

副作用を最小限にするため、「分子標的薬」が開発されてきたが、その数はまだ少ない。

研究グループは、新しいタイプの分子標的癌治療法となる「光免疫療法」(PIT=Photo-Immuno-Therapy) を開発した。

研究チームは2011年11月6日のNature Medicine で初めて「光免疫療法」を報告した。

この報告は注目を集め、オバマ大統領が2012年の一般教書演説で「米政府の研究費によって、癌細胞だけを殺す新しい治療法が実現しそうだ」と紹介し、2014年にNIH長官賞を受賞した。

Innovation also demands basic research. Today, the discoveries taking place in our federally financed labs and universities could lead to new treatments that kill cancer cells but leave healthy ones untouched.

NIHの小林主任研究員は米ベンチャー企業のAspyrian Therapeutics, Inc. と組み、2015年4月30日にFDAの計画承認を受け、治験を開始した。


概要は次のとおり。(
米国国立がん研究所は動画「カメラが見たがん研究:光免疫療法でがんと闘う」で仕組みを説明している。)

1) 癌にくっついて熱で殺す

癌が生体で増殖し続けるのは、癌の周りに「制御性T細胞」が集まり、異物を攻撃する免疫細胞の活動にブレーキをかけて守っているためである。

制御性T細胞に結びつく性質を持つ「抗体」に、波長700nmの近赤外線を受けると光エネルギーを吸収し、化学変化を起こして発熱する「IR700」と呼ばれる色素をつけ、肺癌、大腸癌、甲状腺癌をそれぞれ発症させたマウスに注射した。

体外から近赤外光を当てた結果、約1日で全てのマウスで癌が消えた。
光を当てた約10分後には制御性T細胞が熱で大幅に減り、免疫細胞「リンパ球」のブレーキが外れて、癌への攻撃が始まったためとみられる。

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このための光は、光化学反応を効率よく起こせるだけの波長の短い光で、なおかつDNAに損傷を起こさないために可視光よりも長い波長の光である必要と、体内の光吸収物質に吸収されずに体の深部にまで到達する光である必要があり、その条件に合致するのが700nm あたりの近赤外領域の光である。

2) 光を当てない癌も消える

さらに、1匹のマウスに同じ種類の癌を同時に4カ所で発症させ、そのうち1カ所に光を当てたところ、全ての 癌が消えた。
光を当てた場所で癌への攻撃力を得たリンパ球が血液に乗って全身を巡り、癌を壊したと考えられる。

この治療で壊れなかった局所のがん細胞や近赤外光の到達できなかった場所のがん細胞、ひいては遠隔臓器に転移したがん細胞にも効果を起こせる可能性があり、「転移があっても効果的に治療できる方法になると期待できる」と話す。

3) 癌だけを殺せる!

この薬は癌細胞にくっつかない限り、体に害を与えない。
癌細胞にくっついて初めて、近赤外線を当てるとそのくっついた癌細胞を殺す。

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