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米最高裁は6月14日、中国のビタミンC メーカーによる価格カルテルの裁判で、控訴裁がカルテルは中国政府の指示によるもので無罪とした判決について、満場一致で誤りとし、再審査のため差し戻した。

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事件は、2005年にTexasの動物飼料会社や New JerseyのビタミンのディストリビューターなどのビタミンC 需要家が、中国のビタミンC メーカーが2001年12月以降、米国で価格や供給量についてカルテルを結んでいるとして訴えたもの。

訴えられたのは4つのグループ。
・華北製薬(North China Pharmaceutical Group Corp.:NCPGC) と 河北维尔康製薬(Hebei Welcome Pharmaceutical)
   河北维尔康製薬は華北製薬集団と香港の三威國際企業Triple Well International)のJV

・China Pharmaceutical Group Ltd. (CSPC Pharma group:石薬集団)と100%子会社の維生藥業 (Weisheng Pharmaceutical )

・Aland Jiangsu Nutraceutical Co.(江蘇江山製藥 )

Northeast Pharmaceutical Co. Ltd.(東北製薬)

訴えによると、 中国の医薬・健康製品輸出入協会の2001年12月の会合で、上記4グループを含むビタミンC メーカーがビタミンC の輸出を制限して国際市場で不足状況を生むため、輸出数量を管理し、値上げをすることを決めた。

需要家は集団訴訟を起こした。

NY 連邦地裁の裁判で、メーカー側はカルテルを否定せず、中国政府の命令に従っただけであり、カルテル実行者は米国の独禁法の被告にはならないとした。また価格カルテルは中国政府の行為であるとした。更に、中国政府は米国法で裁かれないともした。

中国商務部はこの主張をすべてバックアップした。
商務部によると、中国では商務部の指導下で医薬・健康製品輸出入協会をつくっており、このビタミンC サブ委員会がビタミンCの輸出価格と数量を決定している。ミニマム価格が決められており、それ以下での輸出は出来ない という。

実際に米国の通商代表部は、中国政府がビタミンCの輸出価格を操作しているとしてWTOに提訴している。


本件の詳細  https://www.davispolk.com/files/msohn.jsolomon.antitrust.article.dec13.PDF


この輸出規制が強制的か、自主的なものかで判断が分かれた。被告側は、政府に強制されたもので、従わなければペナルティを受けると主張した。

判事は2011年9月に、中国政府は優遇政策としてビタミンC カルテルを奨励しているが、メーカーに価格カルテルを強制するほどのレベルでなく、違反しても罰金はないと認定した。



2012年5月に江蘇江山製藥は950百万ドルを支払うことで原告側と和解した。これは中国企業が米国のカルテル訴訟で和解した最初である。

最終論告開始の直前に、China Pharmaceutical Group と 維生藥業は 22.5百万ドルを支払うことで和解した。


2013年2月に始まったNew York Eastern District 地裁の最終審理で、陪審員は、 河北维尔康製薬と東北製薬が価格の固定、供給量の制限で共謀したと判断し、損害額を54.1百万ドルと決めた。

判事は3月14日、153.3百万ドル(損害額の3倍から9百万ドルを調整)の罰金を命じた。

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両社は控訴した。

2015年1月に連邦巡回区控訴裁判所(Second Circuit)がこれを取り上げた。

控訴裁は2016年9月20日、中国法が被告に対し外国で売られるビタミンCの価格を決め、数量を下げるよう要求しているとの正式の陳述書を中国政府が裁判所に提出していること、中国企業は中国法と米国の独禁法に同時に従うことができないということから、地裁は本件の管轄権を実行すべきでなかったと判断した。

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今回、最高裁は、連邦裁判所は外国政府の主張に耳を傾ける必要はあるが、それにそのまま従う必要はないとし、更に審議するよう、下級審に差し戻した。

被告側は失望したとし、下級審で更に戦うとしている。中国大使館はコメントの要望に応じていない。

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ビタミンC 市場を中国企業がほぼ独占しているのは、米国でのビタミンCカルテルで多額の罰金を命じられ、各社が撤退した結果である。

かつてビタミンCの生産は欧米企業6社が生産量の75%を寡占する商品で、カルテルで値段を吊り上げていた。

1995年に米国でリジンのカルテルが摘発された。

2010/1/12 映画 The Informant

クエン酸カルテルに関するHoffman-LaRocheなどの調査でビタミンカルテルの存在が分かった。

1999年に米、スイス、独、日、加の合計11社に総額 9億1050万ドルの罰金が課せられた。アメリカでビタミンの価格カルテルが摘発されたのは、これが二度目である。

武田薬品 72百万ドル 事業をBASFに売却
エーザイ 40百万ドル
第一工業製薬 25百万ドル
Roche  500百万ドル 事業をDSMに売却
BASF 225百万ドル
Merck 14百万ドル
Degussa-Huls 13百万ドル
Lonza 10.5百万ドル

2001年1月には、EUでもスイス・独・蘭・仏・日の計8社に総額8億5522万ユーロの制裁金が課せられている。

そこへまた中国企業ががぜん安値攻勢をかけてきたため、欧米企業は次々にビタミンCの生産から撤退した。

現在欧米で頑張っているのはDSMだけである。

DSMはスコットランドに工場を持つが、2014年にAland Jiangsu Nutraceutical Co.(江蘇江山製藥 ) を買収した。

2014/7/29  DSM、江蘇江山製藥買収で合意、ビタミンC 事業を強化 

中国商務省は8月22日、公告第34号で、日本とEU原産の高性能ステンレス継目無し鋼管* に対するアンチダンピング課税措置を撤廃すると公表した。

* 石炭火力発電所の超々臨界圧ボイラ等に使用される高付加価値特殊鋼

WTO上級委員会が2015年10月14日に、WTOルールに違反しているとして日本とEUの主張を認め、中国に対し是正を勧告する最終判断を示し た。

商務部は2016年6月20日付けで再調査を行う と発表した。

今回、当初の反ダンピング調査申請者が申請を取り消したとの理由で、アンチダンピング課税を撤廃した。

商務部は2011年9月8日、日本とEU原産の本製品について調査を開始し、2012年11月8日にクロの最終決定を行った。

反ダンピング税率は次のとおり。

日本
住友金属工業 9.2%
神鋼特殊鋼管 14.4%
其の他 14.4%
EU
Tubacex Tubos Inoxidbles 9.7%
Salzgitter Mannesmann Stainless Tubes Italia 11.1%
其の他 11.1%

日本政府は、中国では同製品を生産していないとし、中国側の損害認定などの説明が不十分と主張して、中国側に詳しい説明を求めた。

WTOの紛争解決手続きによると、相手国と協議し、解決しない場合は、WTOの「一審」に当たる紛争処理小委員会(パネル)設置を要請する。

日本(およびEU)は2013年4月11日、WTOに対し本件措置についてパネル設置要請を行い、同年5月24日にパネルが設置された。

2015年2月にパネル報告書が、同年10月14日に上級委員会報告書がそれぞれ公表された。

中国の措置はアンチダンピング協定に違反すると判断し、中国に対して措置を協定に適合させるよう勧告した。

  1. 中国によるアンチダンピング課税は、日本から輸出している高性能品と中国製品とのグレードの違いや競争関係がないことを適切に考慮していない等の点で損害及び因果関係の認定に瑕疵があり、アンチダンピング協定3条1項(実証的な証拠) 及び5項(損害立証) に違反するとしたパネル報告書の判断を支持した。

  2. 中国の措置は、アンチダンピング協定3条2項(影響を累積的に評価)及び4項(すべての経済的な要因及び指標の評価)にも整合しない。

これを受け、商務部は2016年6月20日、再調査をすると発表したが、当初の申請者が申請を取り消したという理由で措置を撤廃したもの。

経産省はこれについて、「WTOの紛争解決手続の有効性が改めて確認されるとともに、近年新興国においてアンチダンピング課税措置が増加傾向にある中、WTOルールの明確化を通じて、恣意的又は不透明なアンチダンピング課税措置発動を抑制することについても大きな意義があると考えられます 」としている。

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同様の例として、EU原産のX線セキュリティチェック機がある。

2011年1月23日にクロの最終決定を行った。

これに対し、WTO紛争処理小委員会は2013年2月、WTO反ダンピング規定に違反するとの判断を下した。

反ダンピング関税は「損害的ダンピング」への対処として厳格な条件の下でのみ課すことができるが、今回の事案において、中国はこれらの条件を満たしていないとのEUの訴えに同意した。
また、中国が適正な手続きと透明性の規定用件を尊重することを怠ったとの結論を下し、同国にWTO規定に則るよう要請した。

中国商務部はWTOの決定を受け、再調査していたが、2014年2月19日、当初の申請者が申請取り消しを申し出たため、国務院関税委員会がダンピング課税の終了を決めた。

2014/2/26 中国、WTO決定に従い、EU原産のX線セキュリティチェック機の反ダンピング措置を終了


WTOの決定前に中国側が取り消した例もある。

商務部は2005年9月に、米国・韓国・タイ・台湾原産の無漂白クラフト紙をダンピングと認定し、課税を開始した。

米国政府は被害の認定や調査手続きを問題視し、強く反発、WTOの協議を要請すると中国に伝えた。

米国企業が中国の行政再審法(1999/10/1発効)に基づき再審を要請したところ、商務部は再審の結果、この決定がアンチダンピング法に合致しないとして、2006年1月9日付けでこの決定を取り消し、同日付でダンピング課税を終了した。



173人の死者・行方不明者を出した天津市の大規模爆発から8月12日で1年を迎えた。


天津市の工業地帯で2015年8月12日夜、大規模な爆発が発生した。

爆発は、天津東疆保税港区の瑞海公司(RuiHai International Logistics) の危険物倉庫で起こった。

コンテナーヤードには7類の危険品(第一類の火薬と第七類の放射性物質を除く)合計111種 11,384トン、うち硝酸アンモニウム 800トン、シアン化ナトリウム 681トン、ニトロセルロース類229トンを保管していた。
うち運抵庫(受入倉庫)には72種類、合計4,840トンを保管、うち硝酸アンモニウム800トン、シアン化ナトリウム 360トン、ニトロセルロース類48トンを保管していた。

シアン化ナトリウム681トンは、施設の設計上の保管量を40倍以上も上回る。

2015/8/14 天津で大規模爆発
2015/8/21 天津爆発事故のその後(2)
2015/8/27 天津爆発事故のその後(3)
2016/2/10 天津爆発事故の調査報告書

事故の発生から1ヶ月も経たない9月初めに、天津市は浜海新区の爆発現場を「海港生態公園海港エコ公園)」として整備する計画を明らかにした。

公園は24ヘクタールで「エコ、活気、暮らし、記念」を理念とし、事故前に着工していた小学校や幼稚園も敷地内に建てる。11月に着工し、2016年7月の完成を目指すという。

全体は43ヘクタールで、公園部分(下図の赤線内)は約24ヘクタール。公園の池は丁度、爆発の穴の場所。

南側には小学校、幼稚園などが、西側にはグリーンベルトがつくられる。


大惨事の原因究明も済んでいない中での発表に、事故車両を埋めようとした温州の高速鉄道と同じだと、批判が相次いだ。

2015/9/7 天津の爆発事故現場、早くも公園化計画 批判相次ぐ 


天津市は当初、2016年7月の完成としていたが、実際にはほとんど進んでいない。

1年前 (上の写真の逆の北側から見たもの) 現状


現在は爆発によりできた直径約100メートルの穴を重機によって埋める作業が昼夜を問わず続いている。

建設業者によると、爆発による汚染状況は想像していたより遥かに深刻で、1~2年での完成は難しいという。

更に当局は、商業秘密を含むとして汚染データを公開していないという。


地元政府は8月10日、現場周辺の復旧状況を公表し、周辺の大気や水質については問題ないとした。

しかし、爆心地から数百メートルと最も近い距離にあるマンション群「海港城」では、割れた窓や外壁はほぼ完全に改修され、表面上は新築物件のようだが、住み人はほとんどいないという。

イスラエルのIDB Holdingの子会社Discount Investment Corporation は7月18日、ChemChinaとの農薬JVのAdama の持株40%をChemChinaに14億ドルで売却することに合意したと発表した。

これにより、AdamaはChemChinaの100%子会社となる。

Adamaは世界7位、ジェネリック農薬では世界最大の農薬会社で、旧称はMakhteshim Agan、2014年4月に改称した。
Adamaはヘブライ語で「地球」、「土」を意味する。英語圏の人に発音し易い名前にした。

ChemChinaは2月にスイスの農薬・種子メーカー、Syngentaを430億ドル余りで買収することで合意した。
ChemChina は先般、TOB期限を9月13日まで延長したが、年末には買収が完了する見込み。

2016/2/5 中国化工集団(ChemChina)、スイス農薬のSyngentaを買収 

ChemChinaはまた、中国に農薬子会社の湖北沙隆達(Hubei Sanonda)を持つ。

1958年に国営の農薬工場として設立され、1992年に再編し、上場した。

ChemChinaでは中国の農薬市場を重視しており、今後、これら3社の再編も検討する。

Adamaと湖北沙隆達との統合は既に2015年夏に発表されており、2017年上半期にも実現する見込みで、統合会社は
深圳株式市場に上場される。
本拠はイスラエルに置き、世界に展開する。債券はTel Aviv 株式市場で従来どおり取引される。

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ChemChina は2011年10月、Makhteshim Agan Group の株の60%を約24億ドルで取得した。残り40%はIDB GroupのKoor Industriesが保有する。

IDB Groupは資金繰りに困っており、この時点でChemChinaはIDBに7年の期限で960百万ドルを融資、Makhteshim Aganの株(40%)が担保になった。
現時点では、これは1,172百万ドルに膨れている。

その後、IDBはアルゼンチンの富豪 Eduardo Elsztainなどに買収された。

ChemChinaがスイスのSyngenta(Adamaと競合)を買収した件では、IDB GroupはChemChinaを訴えた。

今回の取引で全てが解消する。ChemChinaのIDBへの融資はゼロとし、ChemChinaは差額の230百万ドルを現金で支払う。



日本とタイ両国政府が開発を主導するミャンマーのDawai経済特区に中国の資源商社、広東振戎能源が製油所を建設することが明らかになった。

ミャンマー投資委員会は 3月末に広東振戎能源 (Guangdong Zhenrong Energy) の30億ドルの精油所建設計画を認可した。 日量10万バレルの精油所と石油ターミナル、LPG関連設備、貯蔵設備、流通設備を含むもので、ミャンマーでの最大の海外投資の一つとなる。


広東振戎能源が70%を出資、残り30%はミャンマーの次の3社が負担する。

・ 軍部と関係のあるMyanmar Economic Holdings Limited
ミャンマーのエネルギー省のMyanmar Petrochemical Corp
・ ミャンマーの私企業 HTOO Group of Companies のYangon Engineering Group

HTOO Group of Companiesには、航空会社のAir Bagan、チーク材などを扱うHtoo Wood Products Company、輸出企業のHtoo Trading Companyなどがある。

2019年以降の稼働を目指す。

ミャンマー国内には近代的な製油設備はなくガソリンなど石油化学製品を輸入に頼っていた。広東振戎は製品の大半をミャンマー国内に供給することになる。

広東振戎能源は2002年設立で、中国の国営の4社の石油トレーダーの1社である珠海振戎公司(Zhuhai Zhenrong Corp)が44.3%所有する。2011年に計画を発表し、2014年末に中国政府の承認を得た。

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ミャンマーには、3つの経済特区、北部で中国が開発するチャウピー、日本が担当するヤンゴン南部のティワラ、タイが担当する南部のダウェーがある。

2013/5/29 ミャンマーの経済特区 

Dawei SEZは2008年にミャンマーとタイの両国が開発で合意した。

2010年にタイの大手建設会社Italian-Thai Development Corporation Limited (ITD) が250平方キロの土地について60年間の事業権利と75年間の租借権を得て、開発に着手したが、実際は1社では開発資金をまかないきれず、地元住民の移転や周辺土地と一部道路の整備程度しか進んでいない。

2012年7月のタイのインラック首相とテイン・セイン大統領との会談で、Dawei 開発の仕切り直しが行われ、両国政府が協力して進めることで合意、土地の開発権と租借権がItalian-Thai Development からDawai 開発の特別目的事業体(SPV)に移管された。

Dawei SEZの開発面積はThilawa SEZの10倍あり、港湾や発電所などのインフラ整備だけで1兆円とされる。

このため、タイ政府とミャンマー政府は日本にも参加を要請した。
但し、
日本はThilawa SEZ 優先ということで合意している。

2013/5/29 ミャンマーの経済特区 

2015年7月4日、東京で第7回日本・メコン地域諸国首脳会議が開催された。
これを機に同日、日本、ミャンマー及びタイの間で、ダウェー開発にあらたに日本が参加することについて覚書が署名された。

初期開発段階で日鉄住金物産のタイ企業とのJVが参加する。

2015/8/18 ミャンマーのDawei 経済特区、ようやく前進

こういう経緯のある「日本・タイ・ミャンマー」主導 Dawei SEZ に中国がくさびを打ち込む形となった。

背景には、3月末に発足したアウン・サン・スー・チー氏主導の新政権の現実路線があ るのではないかと見られている。

同特区の開発事業で商機を探る日本企業は計画練り直しを迫られる可能性がある。



財政再建策の一環として国有資産の売却を進めるギリシャは4月8日、アテネ近郊にある同国最大のピレウス(Piraeus) 港 の売買契約を中国海運大手の中国遠洋運輸集団(
China COSCO Holding)との間で締結した。

国有財産の売却を担当するHellenic Republic Asset Development Fund の会長とCOSCOのCFOがギリシャ首相とCOSCO会長の見守るなか、調印した。

本年1月に、ピレウス港を管理する会社の67%を368.5百万ユーロで買収するとのCOSCOのオファーをギリシャ政府が受け入れたもの。

ピレウス港の入札にはCOSCOのみが応じた。

応札するとみられていたデンマーク海運コングロマリットのA.P.Moller - Maersk見送った。
同社はギリシャ北部に位置するテッサロニキ港への投資を希望しているとされる。

COSCOは先ず、ピレウス港を管理する会社の株式の51%を280.5百万ユーロで取得し、港湾の整備・開発事業への350百万ユーロの投資に着手、5年後に残りの16%を88百万ユーロで取得し、合計で67%の株主となる。

「シルクロード経済ベルト」と「21世紀の海のシルクロード」計画 (一帯一路構想)を進める中国は、ギリシャを「欧州の入り口」として重視しており、ピレウス港を世界規模の海運の要衝にしたい考え。
将来的には軍事的拠点としての活用も視野に開発を進める可能性もあるとみられる。

中国の李克強首相は2015年6月、EU首脳との会談後の記者会見で、「中国はこれまでも、ギリシャが危機を抜け出すための要求に応えてきた。問題解決に建設的な役割を果たしたい」と述べ ている。

今回の調印後、李首相はギリシャ首相を中国に招待した。6月に訪中する予定。

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ギリシャの財政改革案に国営事業の民営化が多数含まれるが、そのなかにはピレウス港とテッサロニキ港がある。

ピレウス港については、当初よりCOSCOが有力候補であった。

ギリシャ政府は2008年にCOSCO との間で、ピレウス港の2号・3号コンテナ埠頭の35年間リース契約を締結し、2010年にCOSCOは正式運営を始めた。
COSCOは2015年に入り、3号埠頭の拡張工事に着手している。

年間の貨物取扱量は、当初の 68万5000 TEU (20フィートコンテナ換算) から2014年には298万7000 TEUに拡大している。3号コンテナ埠頭拡張工事が完工すれば、年間の取扱能力は、現在の370万TEUからさらに620万TEUまで膨らむ。

中国製の製品などをピレウス港に運び、そこから鉄道で中欧や東欧各国に輸送する方針で、2012年11月には、COSCOとHewlett-Packard とギリシャ国営鉄道会社Torainose が製品輸送契約を締結した。

アジア諸国の工場で生産されたHewlett-Packard の製品をピレウス港で陸揚げし、新設の17kmの貨物線で貨物ターミナル駅まで運び、そこからマケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリア、チェコなど東欧や中欧の各地に輸送する。

2015年2月には中国の軍艦が寄港している。

2015/7/15 ギリシャへの中国、ロシアの接近

当初は2015年初めの入札を予定したが、就任したチプラス首相が選挙の公約通り、両港など国有資産売却を見送った。

その後の曲折の結果、ユーロ圏首脳会議は2015年7月13日にギリシャへの金融支援を行うことで大筋合意したが、対応策のなかには、「民営化や資産移管による独立基金で500億ユーロを設定する」が含まれている

2015/7/14 ユーロ圏首脳会議、ギリシャ金融支援で合意 

これを受け、ギリシャ政府は2015年8月、14の地方空港の運営権をドイツの空港運営会社Fraport AGに約1,230百万ユーロで売却することを決めた。

毎年空港の賃貸料として23百万ユーロが支払われる。更に、運営利益の25%が今後40年間ギリシャの民間航空局に支払われる。
Fraportは今後4年間に空港の改善として330百万ユーロの投資を約束しており、最終的に14億ユーロの投資を見込んでいる。

ピレウス港についても入札を実施したもの。

 

香港の華潤ビール(China Resources Beer)は3月2日、SABMiller とのJVの華潤雪花ビール(China Resources Snow Breweriesを100%子会社化すると発表した。
SABMillerの持分49%を総額16億ドルで買収する。

SABMillerの買収を決めたAnheuser-Busch InBev (AB InBev) との間で合意したもので、中国当局の認可と、AB InBevによるSABMiller買収の完了が条件となる。

華潤雪花ビールは、遼寧省瀋陽市の国有ビール工場が生産していた「雪花ビール」のブランドが前身で、1994年に華潤創業が51%、SABMillerが49%の合弁会社となった。

華潤創業は中国中央政府系コングロマリット華潤集団の子会社で、スーパーやコンビニエンスストアなど中国全土に約4800店の小売店を展開してきた。
しかし、英小売大手のTescoから引き継いだ店舗の採算が改善せず、2014年 12月期には上場以来初の赤字に転落した。

このため、2015年9月1日付けでビール以外の事業を親会社の華潤集団に譲渡し、華潤ビールに改称した。

中国では、華潤雪花、青島ビール、AB InBevが3強で、AB InBevSABMillerを傘下に収めると中国でのシェアは40%近くになる。

中国のビール市場の2014年のシェア(華潤ビール発表)は、華潤雪花が23.2%、青島ビールが 18.4%、AB InBev(バドワイザーHarbinビールなど) が14.0%、燕京ビールが10.7%、Carlsbergが4.6%となっている。

華潤雪花ビールは中国国内で90カ所を超える醸造所を運営している。

これだけでもAB InBevによるSABMiller買収承認の障害となるが、2008年11月の InBev によるAnheuser Busch 買収の際に、中国商務部は、「華潤雪花ビールの株式保有を求めてはならない」との条件を付けて承認している。

このため、AB InBev はSABMiller買収の承認を得るため、華潤雪花ビールを手放すこととしたもの。

InBev によるAnheuser Busch 買収の際に中国商務部が付けた条件は下記の通り。

(1)青島ビールに対するAnheuserの株式保有率27%を増加してはならない。
(2)
InBev の主要株主もしくは主要株主の株主に変化が発生した場合には、ただちに商務部に通告すること。
(3)珠江ビールに対する
InBevの株式保有率28.56%を増加してはならない。
(4)華潤雪花ビールと北京燕京ビールの株式保有を求めてはならない。

上記のうち、青島ビールについては、AB InBevは2009年4月に、所有する株式27%のうち、19.99%を6億6700億ドルでアサヒビールに売却した。
アサヒビールは2009年8月に青島ビールとの間で「戦略的協力合意」を締結した。

別途、サントリーが2012年6月に、 青島ビールとの間で、上海および江蘇省におけるビールの事業会社と販売会社を50/50の合弁で上海に設立した。

2008/12/1 中国の独禁法、初の海外での合併ケース

華潤ビールは「中国のトップメーカーの一つである華潤雪花ビールを完全に所有し、世界最大のビール市場である中国での発展戦略を有効に実施できるようになる」と述べた。

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ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev (AB InBev)は2015年11月11日、英のSAB Miller を697億8000万英ポンド(約13兆円)で買収することに正式合意したと発表した。

両社の合併については、各国の独禁法当局が問題視するのは必至だが、AB InBev は対策に "best efforts" を約束、承認を得られない場合には30億米ドルのReverse Break-Up Fee(買主からの解約金)を支払うことも約束した。

AB InBevは、米当局からSABMiller 買収の承認を得るため、SAB Miller所有のMillerCoorsの持株 58%を合弁相手の米 Molson Coors Brewing に120億ドルで売却した。

2015/10/14 ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev、2位のSAB Millerを買収へ

更に欧州での承認を得るため、SABMillerの欧州事業の一部をアサヒビールに売却する。

2016/2/16 アサヒビール、英SABMillerの欧州事業の一部を買収 



EUは2月2日、中国をWTO協定上の「市場経済国(Market Economy」と認めるかどうかの協議を始めた。

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中国は2001年12月にWTOに加盟した。

中国は、WTO加盟に伴い、 アンチダンピング(AD)措置及び相殺措置に係る規則・手続をAD協定及び補助金・相殺措置協定に整合化させることを約束している。

他方、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてAD 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国(Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国で、すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能な価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める」と規定している。

この結果、「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。EUは中国に市場経済国待遇を適用せず、しかも中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。

EUは2006年10月に中国・ベトナム産革靴に対する反ダンピング税徴収法案を僅差で可決し、中国製品には16.5%、ベトナム製品には10%の反ダンピング税が課されたが、中国商務部はこれについて、特にEUが中国を非市場経済国待遇をしていることに猛烈に反発した。

中国政府側は、大々的に中国が不公平は待遇を受けていると宣伝を繰り広げた。

2007年には中国は連続12年、反ダンピング調査を一番多く受けた国家であるとし、2014年には中国は18年間、世界で最も反ダンピング調査を受けた国だとしている。

これまでにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国が中国の市場経済国家の地位を認めた。しかし、米、EU、日本、カナダなどの多くの国々や地域は未だに承認していない。

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WTOは中国を「非市場経済国」と認定しているが、その根拠となっている条項は15年が経過する2016年12月に失効する。
中国は自動的に「市場経済国」へ移行すると主張しているが、日米欧などは12月までに個別に判断する方針である。

EUは2月2日、加盟28カ国の通商担当相らが参加する非公式理事会を開催し、この問題を初めて取り上げた。

「市場経済国」となった場合、EUは中国からの輸入に対し反ダンピング措置を取りにくくなる。欧州委員会は、何の対応策もとらずに認めれば、安い中国製品が欧州市場に大量流入し、域内で最大21万人強の雇用を失うとの試算を示した。

米シンクタンク EPI は2015年9月に公表した報告書で、中国に「市場経済国」の地位を認めれば、EUは最大350万人の雇用が失われる恐れがあると指摘した。

英国やオランダや北欧諸国などが「市場経済国」認定に理解を示す一方、製造業に占める鉄鋼業の比重が大きいイタリアなどは反対姿勢を示している。
過剰生産の結果、中国からEUへの鉄鋼輸出は過去1年半で2倍に急拡大している。
中国のダンピングに対して反ダンピング税を課すことができにくくなるために、鉄鋼、窯業、紡績などの産業は壊滅的な打撃を受けるだろうとしている。

欧州委は当初、2月にも中国を「市場経済国」として認定するよう加盟国に提案する方針だったが、産業界の猛反発を受けて撤回した。
欧州域内の産業や雇用への本格的な影響を調査し、7月にも欧州委としての方針を再検討する。

マルムストローム欧州委員は、「問題は中国が実際に市場経済国なのかではなく、中国との貿易問題への対応をどう見直すかだ」と強調、市場経済国の認定に理解をみせた一方、ダンピングや政府補助金の乱用などへの対抗措置の強化が欠かせないとの考えをにじませた。

2015年末までのWTOのメンバーは161か国で、もしEU(28カ国)が認めた場合、WTO内部で中国の市場経済国家の地位を認める国が109か国、全体の2/3になる。
このため、
中国はEUの承認を特に重視している。

中国を市場経済国に認定するかどうかの判断は欧州だけでなく、日米も同様に迫られる。

EUは日本に対し、中国の市場経済国の認定問題や過剰生産への対応策を伊勢志摩サミットで主要議題に取り上げるよう求める方針とされる。




中国国務院の事故調査チームは2月5日、天津市で2015年8月に起きた瑞海公司(RuiHai International Logistics) の化学物質倉庫の爆発に関する調査報告書を発表した。

8月12日の爆発での死者は165名、不明8名、負傷者798名(うち重症 58名)で、死者の内訳は、公安の消防隊員24名、天津港の消防隊員75名、公安警察11名、事故企業および周辺企業と周辺住民55名。不明者は、天津港の消防隊員が5名、その他が3名。

被害を受けた建物は304棟、破損した自動車(販売用)は12,428台、破損コンテナー 7,533個で、直接の経済損失を68億6600万元(約1230億円) としている。
事故で漏れた化学物質が健康に及ぼすリスクは「極めて低い」と結論づけた。
天津港の水質や大気に大きな影響が残っていないとしている。

爆発の原因については、不適切に保管された可燃性の強いニトロセルロースが
保湿剤がなくなったため乾燥し、気温の上昇で自然発火し、近くのコンテナーの硝酸アンモニウムなど 他の物質の爆発を引き起こしたとしている。

爆発当時には消防隊が放水したことが化学物質の大爆発を招いたとの声が相次いだが、放水と爆発の因果関係には直接触れていない。

瑞海公司は、違法に貨物置場をつくったり、違法に危険物を保管したり、不適切な安全管理を行うなど、多くの安全管理違反を行っていた。
「危険物の保管方法など安全管理が極めてずさんだった」と指摘している。

コンテナーヤードには7類の危険品(第一類の火薬と第七類の放射性物質を除く)合計111種 11,384トン、うち硝酸アンモニウム 800トン、シアン化ナトリウム 681トン、ニトロセルロース類229トンを保管していた。
うち運抵庫(受入倉庫)には72種類、合計4,840トンを保管、うち硝酸アンモニウム800トン、シアン化ナトリウム 360トン、ニトロセルロース類48トンを保管していた。

シアン化ナトリウム681トンは、施設の設計上の保管量を40倍以上も上回る。

下図は当初の報道による。

同社幹部が当時の市幹部に現金や商品券を贈ったり、ゴルフや飲食の接待をしたりして営業に関する許可を得ていた 。

報告書は、施設への監督を怠ったなどとして、副市長2人を含む123人を免職や降格などの処分にするよう求めた 。
このうち74人は共産党の規律などに基づき処分するよう勧告した。


事故について:

2015/8/14 天津で大規模爆発 
2015/8/17 天津大爆発のその後
2015/8/21 天津爆発事故のその後(2)
2015/8/27 天津爆発事故のその後(3)
2015/9/7 天津の爆発事故現場、早くも公園化計画 批判相次ぐ 
2015/9/21 天津爆発現場の現状



アジアインフラ投資銀行(AIIB)は2月5日、5人の副総裁を指名した。

AIIBの設立協定では、総裁(元中国財政次官の金立群)が副総裁を選ぶとなっているが、(域内)インド、韓国、インドネシア、(域外)ドイツ、英国から選出された。

そのうち一人はドイツのJoachim von Amsbergで、世界銀行に約25年間勤務し、現在は開発金融担当の副総裁を務めており、世銀から横滑りで就任する。

出資比率3位のロシアからは選ばれなかった。

韓国産業銀行の洪会長は副総裁でChief Risk Officerに選ばれた。投資と財務危険に対する評価・分析の総括役として副総裁5人の中では序列3位に該当する。

韓国人が国際金融機関の副総裁を務めるのは、申明浩氏がアジア開発銀行(ADB)副総裁を務めて以来13年ぶりとなる。

洪会長は投資委員会にも参加する。 投資委員会は総裁とCIO、CRO、中長期政策・戦略担当副総裁の4人で構成する投資決定機構。

副総裁に選ばれたのは次の5人。 

担当 出身国 氏名 経歴
Corporate Secretary 理事会、取締役会、経営陣の調整 英国 Sir Danny Alexander 元 英国予算担当大臣
Chief Risk Officer 投資危険管理 韓国 洪起沢 現 韓国産業銀行会長、CEO
Chief Investment Officer 投資運営管理 インド D.J. Pandian 元 Indian Administrative Services
Policy and Strategy 中長期政策・戦略 ドイツ Joachim von Amsberg 現 世銀開発金融担当の副総裁
Chief Administration Officer 一般行政 インドネシア Luky Eko Wuryanto 元 政府高官



   

出資(億ドル)

出資比率
(%)
議決権
(%)
域内 域外
1 中国 297.804   30.34 26.06 総裁
2 インド 83.673   8.52 7.50 副総裁
3 ロシア 65.362   6.66 5.93
4 ドイツ   44.842 4.57 4.15 副総裁
5 韓国 37.388   3.81 3.50 副総裁
6 オーストラリア 36.912   3.76 3.46
7 フランス   33.756 3.44 3.19
8 インドネシア 33.607   3.42 3.17 副総裁
9 ブラジル   31.810 3.24 3.02
10 英国   30.547 3.11 2.91 副総裁


AIIBは理事会(Board of governors)と取締役会(Board of directors)と経営陣の三重の構造を持つ。

構成国から1名ずつ派遣される理事で構成される理事会がAIIBを司り、理事会は必要に応じて取締役会に権限を移譲することができる。

取締役は地域内構成国から9名、地域外構成国から3名が選出される。

中国の財務相Lou Jiwei(楼继伟)が理事会(Board of Governors)の理事長に選任された。

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