2025年5月アーカイブ

ドイツ連邦議会(下院=定数630)は5月6日、首相指名選挙の投票を行った。

しかし、キリスト教民主同盟(CDU)党首のFriedrich Merz氏(69)が獲得した票は310票にとどまり、指名に必要な過半数316票に足りなかった。

今回、キリスト教民主・社会同盟とドイツ社会民主党は連立を組んでおり、合計328議員を有する。このうち少なくとも(他党がすべて反対したとしても)18人が支持しなかったことになる。

1回目の投票で首相を選出できなかったのは戦後のドイツで初めてである。

メディアはMerz氏が本年1月に移民政策の厳格化のため極右団体「ドイツのための選択肢」と議会で協力したことに反発した与党議員が造反した可能性があるという見方を伝えている。

同日に2回目の投票をおこない、Merz氏は2回目では325票を獲得し、首相に選出された。

政治アナリストらは、首相選出投票で造反者が出たことにより連立与党の間で不信感が高まる可能性が高く、欧州でドイツの強力なリーダーシップが必要とされている時に、連立政権が不安定になるとの見方を示している。

ーーー

ドイツの総選挙は2月23日に行われ、最大野党会派の中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が第1党となった。CDUのFriedrich Merz 党首(69)が次期首相になる見通し。

Friedrich Merz 氏は、メルケル元首相との「政争」に敗れ、政界を一時引退したが、2021年に連邦議会議員に復帰した。

Merz氏が、「防衛においてアメリカから独立できるよう、できるだけ早くヨーロッパを強化することが最優先事項だ」と述べたことが注目された。

ドイツでは下図のとおり、メルケル首相の時代でも連立政権が続く。

Merkel 首相 (CDU)

2021/12 Scholz 首相(SPD)

2025/5 Merz首相(CDU)
1 2 3 4
2005/11 2009/10 2013/12

2017/9

2018/3 2021/9 2025/2
キリスト教民主同盟 キリスト教
民主・社会同盟
(CDU/CSU)
連立 連立 連立 245 連立
協議
連立 196   208 連立
キリスト教社会同盟
ドイツ社会民主党(SPD)   152 離脱  

206  連立 120
緑の党       67   協議   118 85
自由民主党(FDP)   連立   80   協議 離脱   92 0
ドイツのための選択肢(AfD極右)       87     83 152
左派党   旧東独共産党系       69     39 64
無所属       9     1  
合計      

709 (過半数は355) 

 735( 368 )

630( 316)

 * キリスト教社会同盟はバイエルン州のみを地盤とする政党

 * Scholz内閣で連立を組んでいた自由民主党(FDP) は議席数がゼロとなった。

2025年の予算案を巡ってリントナー財務大臣(FDP) とショルツ首相が対立,、2024年11月6日にショルツ首相ががリントナー財務大臣を解任する方針を表明したことで、FDPは連立政権から離脱した。
その後の総選挙で、FDPは得票率が4.33%に減り、少数政党が乱立するのを避けるためにつくられた阻止条項(足切り条項:5%未満は無効)により議席数ゼロとなった。

以前は、第1投票(選挙区候補者への投票)で3議席以上を確保した政党、および民族的少数者を代表する政党に対し5%条項は適用されないとされていたが、2023年6月の選挙法改正でこの条項が廃止された。


キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は4月9日、連立交渉合意を発表した。

連立交渉は2月23日の総選挙で第1党となったCDU/CSUと、現政権与党で第3党のSPDの間で行われていた。

両党は連立交渉と並行して、財政規律緩和を可能とする基本法の改正案も上下両院で可決させ、新政権始動後の財政出動の枠組みを整備していた。

  1. GDP比で1%を超える防衛費を債務ブレーキの適用対象外とし、GDP比1%を超える防衛費については、借り入れにより賄えるようになる。
  2. インフラ投資のため、5,000億ユーロの特別基金創設
    インフラへの追加投資のために12年間にわたって運用し、うち1,000億ユーロは気候変動対策に充てる。
    さらに、1,000億ユーロは州にも配分し、各州が12年間にわたってこの基金からインフラへの投資ができるようになる。
  3. 各連邦州政府予算の財政規律緩和:これまで債務が許されていなかった州予算で、GDPの0.35%までの債務を可能とする。

...

東京科学大学の近藤正聡准教授などの研究グループは、液体状になった金属を使い、海水から真水や金属を効率よく分離する技術を開発した。

地球には14億km3と非常に多くの水が存在するが、その内の97.5%を海水が占めていて、淡水は2.5%しかない。
その淡水のうち、68%が氷河、31%が地下水として存在していて、川や湖などのアクセスしやすい淡水はほんのわずかしかない。また地下水は汚染されている場合がある。

このように、利用できる淡水が十分に存在しないために、世界では20億人以上の人が水不足に直面している。

足りない淡水を補うために、海水淡水化プラントで大量の淡水が海水から生産されている。

海水を淡水化する原理として、下図に示すように半透膜を利用して水だけを透過させて得る逆浸透膜(Reverse osmosis)法や海水を蒸発させて水を得る多段フラッシュ法がある。

海水淡水化プラントで淡水を生産した際には、海水を濃縮したブラインと呼ばれる排水が淡水の1.5倍程度の量で発生する。
世界では1年間で50兆リットルに及ぶブラインが発生し、現在は、海洋環境に影響がでないように希釈してブラインを放出している。

一方で、海水は様々な金属元素を薄い濃度で含んでおり、海水が濃縮したブラインは 「掘らない資源」と呼ぶことができる。

研究グループは、核融合炉等の冷媒として期待される液体金属錫に関する研究を実施してきた。液体金属錫は、はんだ付けにも使用されるように、他の金属と結合しようとする強い反応性を有している。
そのため高温の状態では、液体金属錫は配管や容器を溶解してしまう課題があるが、この欠点を活かすことで、ブラインに含まれる海水資源を効果的に回収できるのではないかと考えた。

本研究では、淡水化ブラインを液体金属錫に直接接触させて海水資源を回収する研究を実施した。また、世界で課題とされているヒ素で汚染された地下水の浄化にも試みた。

これまでの淡水化で処分が課題だった高濃度の海水にも使える。海水資源の有効活用につながる技術で、5年以内にコンテナサイズの装置の開発を目指す。

チームはセ氏300度に加熱して液体状になったスズを使った。液体のスズは別の金属と反応しやすい性質を持つ。

液体のスズにブラインを約8時間連続して噴霧するとブラインに含まれる水分はすべて蒸発し、発生する水蒸気を蒸留して淡水として回収する。

図1(a):
ブラインを液体金属錫に直接接触させることで、
液体金属錫の表面では 蒸留の原理で淡水の蒸気を生産し、ブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などの金属元素を液体金属錫中に溶解させて濃縮できることが分った。

図1(b):
ブラインに接触させた錫をゆっくりと冷やすことにより、錫の中に溶解した金属元素を析出物として回収できることも分かった。スズを冷まして固めると、 ブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などはスズと反応した物質として析出する。冷却速度をゆっくりにすると金属の種類によって析出するタイミングが違うので、特定の金属のみを回収できる。


金属元素は、海水の直接接触蒸留プロセスにおいて液体スズプールに蓄積される。各金属元素は、液体スズ中での溶解度がそれぞれ異なり、液体温度は505~573 Kの範囲で制御される。

Kは初期段階で沈殿が始まり、すぐに成長が停止した。同時に、Naも沈殿が始まり、徐々に成長した。Caも沈殿が始まり、Kの沈殿後にすぐに成長が停止した。Mgは徐々に成長した。

ヒ素など有毒な物質で汚染された地下水の浄化にも使える可能性がある。

ヒ素で汚染された水を浄化する実験を実施したところ、高温の条件ではヒ素やその酸化物が蒸発してしまうため効率良く回収できないものの、300℃以下の低温の条件において効率的にヒ素を捉えて取り除くことができることが 分かった。


今後、海水に含まれるリチウムなどの有用な金属の回収方法も探す。


今後は金属加工を手掛ける金属技研や、核融合発電スタートアップのエクスフュージョンなどと共同で試験プラントを造り、数リットル単位のブラインで実証する。

液体金属のスズを循環させながら効率的に金属を回収できるようにし、淡水化用のプラントに併設する設備の開発を目指す。


本成果は、世界水協会(The International Water Association)が発刊している「Water Reuse」誌に3月1日付で掲載された。  

Liquid metal technology for collection of metal resources from seawater desalination brine and polluted groundwater

アスベストを扱う工場で働き、じん肺を患ったとして元労働者の遺族が国に損害賠償を求めた裁判で、大阪高裁は4月17日、1審とは逆に遺族の訴えを認め国に約600万円の賠償を命じた。

賠償を求める権利がなくなる「除斥期間」が争点となり、国は「医師の診断日」としてきたが判決では「行政が被害を認定した時」が起算点になるとして、現在、国が示している救済の運用とは異なる判断を示した。

ーーー

アスベストを扱う工場でおよそ8年間働いていた兵庫県尼崎市の男性は、1999年にじん肺と診断され、2000年5月に労働局から健康被害と認定された。

男性側は2020年に、国におよそ600万円の損害賠償を求める訴えを起こしたが、死亡したため遺族が裁判を引き継いでいる。

アスベスト被害の救済をめぐっては、国は一定の要件を満たした当事者と和解し、その際の除斥期間の起算点を2019年に「被害の発症が認められる時」に変更した。

今回の裁判では、除斥期間の起算点となる「被害の発症が認められた時」がいつであるかが争点となった。

遺族は「行政が健康被害を認定した時」と主張したのに対して、国はこれよりも早い「医師の診断日」とし、権利は既に消滅していると主張し、訴えを退けるよう求めた。

1審は国の主張を認め、除斥期間が過ぎているとして訴えを退け、遺族が控訴した。

4月17日の判決で大阪高裁の三木素子裁判長は「じん肺は病状がどの程度進行するのか、固定するのかすらも現在の医学では確定できず、病気にかかった事実は行政の決定がなければ認めがたい」として「行政が被害を認定した時」が起算点になると判断し、遺族の訴えを認めた。

判決のあと、弁護団が会見を開き、奥村昌裕弁護士は「逆転勝訴の判決が出てほっとした。国が起算点の変更を官報にも載せず、勝手に変えたというのが問題で、判決には大きな意義がある」と話した。

「除斥期間」の起算点について、厚生労働省は当初「労働局がアスベストによる健康被害を認める決定をした時」としてしたが、2019年以降は「医師の診断でアスベスト被害の発症が認められた時」と起算点を早める変更をしていた。

変更の理由について厚生労働省は、2019年の福岡高裁判決で、賠償金の支払いが遅れたことに伴って支払う「遅延損害金」を「医師の診断日」から支払うよう命じたため、「除斥期間」もそれにあわせるようにしたと説明している。

ーーー

今回の大阪高裁判決に対し、国は5月2日、上告を断念したことを明らかにした。上告期限は5月1日までで国の敗訴が確定した。厚生労働省石綿対策室は「慎重に検討し、関係省庁とも協議した」とコメントした。


厚生労働省は石綿肺についてのみ、起算点を「被害の発症時」から「行政上の決定日」に運用を変更する。

最近のコメント

月別 アーカイブ