海水から真水や金属を効率よく分離する技術を開発

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東京科学大学の近藤正聡准教授などの研究グループは、液体状になった金属を使い、海水から真水や金属を効率よく分離する技術を開発した。

地球には14億km3と非常に多くの水が存在するが、その内の97.5%を海水が占めていて、淡水は2.5%しかない。
その淡水のうち、68%が氷河、31%が地下水として存在していて、川や湖などのアクセスしやすい淡水はほんのわずかしかない。また地下水は汚染されている場合がある。

このように、利用できる淡水が十分に存在しないために、世界では20億人以上の人が水不足に直面している。

足りない淡水を補うために、海水淡水化プラントで大量の淡水が海水から生産されている。

海水を淡水化する原理として、下図に示すように半透膜を利用して水だけを透過させて得る逆浸透膜(Reverse osmosis)法や海水を蒸発させて水を得る多段フラッシュ法がある。

海水淡水化プラントで淡水を生産した際には、海水を濃縮したブラインと呼ばれる排水が淡水の1.5倍程度の量で発生する。
世界では1年間で50兆リットルに及ぶブラインが発生し、現在は、海洋環境に影響がでないように希釈してブラインを放出している。

一方で、海水は様々な金属元素を薄い濃度で含んでおり、海水が濃縮したブラインは 「掘らない資源」と呼ぶことができる。

研究グループは、核融合炉等の冷媒として期待される液体金属錫に関する研究を実施してきた。液体金属錫は、はんだ付けにも使用されるように、他の金属と結合しようとする強い反応性を有している。
そのため高温の状態では、液体金属錫は配管や容器を溶解してしまう課題があるが、この欠点を活かすことで、ブラインに含まれる海水資源を効果的に回収できるのではないかと考えた。

本研究では、淡水化ブラインを液体金属錫に直接接触させて海水資源を回収する研究を実施した。また、世界で課題とされているヒ素で汚染された地下水の浄化にも試みた。

これまでの淡水化で処分が課題だった高濃度の海水にも使える。海水資源の有効活用につながる技術で、5年以内にコンテナサイズの装置の開発を目指す。

チームはセ氏300度に加熱して液体状になったスズを使った。液体のスズは別の金属と反応しやすい性質を持つ。

液体のスズにブラインを約8時間連続して噴霧するとブラインに含まれる水分はすべて蒸発し、発生する水蒸気を蒸留して淡水として回収する。

図1(a):
ブラインを液体金属錫に直接接触させることで、
液体金属錫の表面では 蒸留の原理で淡水の蒸気を生産し、ブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などの金属元素を液体金属錫中に溶解させて濃縮できることが分った。

図1(b):
ブラインに接触させた錫をゆっくりと冷やすことにより、錫の中に溶解した金属元素を析出物として回収できることも分かった。スズを冷まして固めると、 ブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などはスズと反応した物質として析出する。冷却速度をゆっくりにすると金属の種類によって析出するタイミングが違うので、特定の金属のみを回収できる。


金属元素は、海水の直接接触蒸留プロセスにおいて液体スズプールに蓄積される。各金属元素は、液体スズ中での溶解度がそれぞれ異なり、液体温度は505~573 Kの範囲で制御される。

Kは初期段階で沈殿が始まり、すぐに成長が停止した。同時に、Naも沈殿が始まり、徐々に成長した。Caも沈殿が始まり、Kの沈殿後にすぐに成長が停止した。Mgは徐々に成長した。

ヒ素など有毒な物質で汚染された地下水の浄化にも使える可能性がある。

ヒ素で汚染された水を浄化する実験を実施したところ、高温の条件ではヒ素やその酸化物が蒸発してしまうため効率良く回収できないものの、300℃以下の低温の条件において効率的にヒ素を捉えて取り除くことができることが 分かった。


今後、海水に含まれるリチウムなどの有用な金属の回収方法も探す。


今後は金属加工を手掛ける金属技研や、核融合発電スタートアップのエクスフュージョンなどと共同で試験プラントを造り、数リットル単位のブラインで実証する。

液体金属のスズを循環させながら効率的に金属を回収できるようにし、淡水化用のプラントに併設する設備の開発を目指す。


本成果は、世界水協会(The International Water Association)が発刊している「Water Reuse」誌に3月1日付で掲載された。  

Liquid metal technology for collection of metal resources from seawater desalination brine and polluted groundwater

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