国立がん研究センターと東大医科学研究所は5月21日、大腸がんの全ゲノム分析で、日本人症例の5割に、腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による変異パターンが存在することが分かったと発表した。
- コリバクチン毒素による変異パターンは、高齢者症例(70歳以上)と比べて若年者症例(50歳未満、大腸がん全体の約10%を占める)に3倍多い傾向がみられた。→ 若年者大腸がんの重要な発症要因である可能性
- さらに、大腸がん初期段階に起こるドライバー異常であるAPC変異の15%がコリバクチン毒素による変異であることが分かり、コリバクチン毒素によるDNA変異が大腸がん発症早期から関与していることも示された。
- 大腸がんにおけるコリバクチン毒素による変異パターンは、その時に存在しているコリバクチン毒素産生菌の量とは関連しない。早期から持続的に暴露していることが大腸がん発症に寄与するのではないかと推定される。
世界的にも患者数が急増している日本人症例からコリバクチン毒素による変異シグネチャーが最も高頻度に確認され、この変異シグネチャーの量が国別の発症頻度と相関していることからも、日本における大腸がん増加の重要な要因であることが示唆された。
また、コリバクチン毒素による変異シグネチャーが若年者症例に多いことから、国際的にも問題となっている若年者大腸がんの大きな要因の一つであると考えられる。
一方で、若年者大腸がんにはコリバクチン毒素以外の未知の要因による変異シグネチャーもみられること、今回解析された日本人症例は少ないことなど、新たな課題も見つかっており、その解明に向け、若年者大腸がんを中心とした大規模な多施設共同研究によって国内の各地域からサンプルを集め、全ゲノム解析を行う研究計画を進めている。
今後の研究で、コリバクチン毒素による大腸発がんの国内における広がりや若年者症例の発症要因の全貌、ドライバー異常の全体像が明らかになれば、日本における大腸がんの新たな予防法や治療法の開発につながると期待される。
また、これまで行ってきた国際共同研究の結果から、食道がん・腎臓がん・大腸がんのいずれにおいても、日本人症例には世界の他の地域と比較して特徴的な発がん要因がそれぞれ存在していることが明らかになった。
本件は2025年4月23日にNature に発表された。https://www.nature.com/articles/s41586-025-09025-8
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