アスベスト被害救済  大阪高裁の判決を受け、政府が「除斥起算点」を変更

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アスベストを扱う工場で働き、じん肺を患ったとして元労働者の遺族が国に損害賠償を求めた裁判で、大阪高裁は4月17日、1審とは逆に遺族の訴えを認め国に約600万円の賠償を命じた。

賠償を求める権利がなくなる「除斥期間」が争点となり、国は「医師の診断日」としてきたが判決では「行政が被害を認定した時」が起算点になるとして、現在、国が示している救済の運用とは異なる判断を示した。

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アスベストを扱う工場でおよそ8年間働いていた兵庫県尼崎市の男性は、1999年にじん肺と診断され、2000年5月に労働局から健康被害と認定された。

男性側は2020年に、国におよそ600万円の損害賠償を求める訴えを起こしたが、死亡したため遺族が裁判を引き継いでいる。

アスベスト被害の救済をめぐっては、国は一定の要件を満たした当事者と和解し、その際の除斥期間の起算点を2019年に「被害の発症が認められる時」に変更した。

今回の裁判では、除斥期間の起算点となる「被害の発症が認められた時」がいつであるかが争点となった。

遺族は「行政が健康被害を認定した時」と主張したのに対して、国はこれよりも早い「医師の診断日」とし、権利は既に消滅していると主張し、訴えを退けるよう求めた。

1審は国の主張を認め、除斥期間が過ぎているとして訴えを退け、遺族が控訴した。

4月17日の判決で大阪高裁の三木素子裁判長は「じん肺は病状がどの程度進行するのか、固定するのかすらも現在の医学では確定できず、病気にかかった事実は行政の決定がなければ認めがたい」として「行政が被害を認定した時」が起算点になると判断し、遺族の訴えを認めた。

判決のあと、弁護団が会見を開き、奥村昌裕弁護士は「逆転勝訴の判決が出てほっとした。国が起算点の変更を官報にも載せず、勝手に変えたというのが問題で、判決には大きな意義がある」と話した。

「除斥期間」の起算点について、厚生労働省は当初「労働局がアスベストによる健康被害を認める決定をした時」としてしたが、2019年以降は「医師の診断でアスベスト被害の発症が認められた時」と起算点を早める変更をしていた。

変更の理由について厚生労働省は、2019年の福岡高裁判決で、賠償金の支払いが遅れたことに伴って支払う「遅延損害金」を「医師の診断日」から支払うよう命じたため、「除斥期間」もそれにあわせるようにしたと説明している。

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今回の大阪高裁判決に対し、国は5月2日、上告を断念したことを明らかにした。上告期限は5月1日までで国の敗訴が確定した。厚生労働省石綿対策室は「慎重に検討し、関係省庁とも協議した」とコメントした。


厚生労働省は石綿肺についてのみ、起算点を「被害の発症時」から「行政上の決定日」に運用を変更する。

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