米製薬大手Merck (米国とカナダ以外では MSD )は、インフルエンザ治療薬を開発中のバイオ企業 Cidara Therapeuticsを買収することで合意した。これは2028年に主力のがん免疫療法薬「キイトルーダ」が特許切れするのに備える動き。
買収額は1株当たり現金221.50ドルで、13日終値の2倍超に相当。総額は約92億ドル(約1兆4200億円)に上る。
Cidara Therapeuticsが開発中の インフルエンザ治療薬「CD388」はワクチンではなく、免疫反応を引き起こすタイプの薬ではない。これは合併症のリスクが高い人を対象に、インフルエンザを予防するための長期持続型治療薬で、現在は後期段階の臨床試験が進められている。
Cidara によれば、ワクチンや抗ウイルス薬に加わる新たな選択肢として、インフルエンザ予防に貢献する可能性があるという。
CD388は、長い半減期を持つ独自のヒト免疫グロブリンG1 Fcに安定的に結合した多価ザナミビル結合体である。
ザナミビル水和物(リレンザ)はインフルエンザウイルスの感染を抑制する効果を持つ抗ウイルス薬で、吸入剤として設計されており、直接呼吸器系に作用することでウイルスの増殖を阻害して症状の軽減や罹患期間の短縮に寄与する。
その特徴的な投与方法により全身への影響を最小限に抑えつつ局所での高い薬物濃度を維持することが可能となっている。
1989年にオーストラリアのBiota社が初めて開発、1990年にGlaxoSmithKlineに独占的にライセンスされ、同社がリレンザとして発売した。
CD388は、ザナミビルの多価複合体で、半減期を延長するように改変されたヒトIgG1のCH1-Fcハイブリッドドメインに結合している。CD388はザナミビルの抗ウイルス活性を向上させ、高病原性株やノイラミニダーゼ阻害剤耐性株を含むA型およびB型インフルエンザウイルス全般に対して強力かつ普遍的な活性を示し、耐性獲得の可能性が低く、致死性マウス感染モデルにおいて強力な有効性を示した。
10月9日にCD388が米国食品医薬品局(FDA)から画期的治療薬指定を受けた。
ーーー
Merckは今後5年間で180億ドル規模の売上げ減少が見込まれるキイトルーダ®の2028年の特許切れに備え、治療薬の拡充に向けた買収を進めている。キイトルーダは昨年の同社売上げのほぼ半分を占めていた。
癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。
キイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ、MK-3475)は「抗PD-1抗体」とよばれる免疫チェックポイント阻害薬で、T細胞のPD-1に結合することにより、PD-1 とがん細胞のPD-L1の結合を防止する。その結果、T細胞が活性化され、抗がん作用が発揮されると考えられている。
ーーーーー
Merckは2023年4月16日、「キイトルーダ」特許切れ対策として、潰瘍性大腸炎やクローン病(炎症性腸疾患)向けの治療薬を開発している米バイオ企業Prometheus Biosciencesを買収すると発表した。
2023/4/18 米Merck、バイオ企業を1.4兆円で買収
同社は7月にも、呼吸器疾患治療薬を手がける英バイオ医薬品企業Verona Pharmaを約100億ドル(約1兆4700億円)で買収することで合意している。
Verona Pharmaは、昨年に米食品医薬品局(FDA)から承認された慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬「Ohtuvayre(アンシフェントリン)」を手掛けている。


コメントする