米製薬大手 Pfizerは11月3日、デンマーク製薬大手のNovo Nordisk を提訴したと発表した。
Pfizerが買収で合意していた肥満症治療薬を開発する米新興企業Metseraに対し、Novo Nordisk が対抗して買収提案を出したことを問題視した。
Novo Nordisk は肥満症薬で先行しており、買収は独占につながると主張している。
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新タイプの肥満症治療薬の利用者が、米国を中心に世界で急増している。
先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手Novo Nordisk のWegovy(ウゴービ )で、2021年に米国で承認された。もともと糖尿病(内臓脂肪の蓄積が主な原因)のために開発した薬(GLP-1受容体作動薬)を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。日本では「セマグルチド(遺伝子組換え)」として2023年3月に承認された。
米Eli Lillyは2023年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬Zepboundを米市場に投入した。
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(以降)
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その後、Danuglipronを1日1回服用する試験を複数の用量で進めていたが、2025年4月14日、開発を中止したと発表した。臨床試験で被験者1人が薬物性肝障害を発症した可能性があり、服用をやめたところ回復したことが理由。
Pfizerは本年9月22日、肥満治療薬スタートアップの Metsera を最大73億ドルで買収することで合意したと発表した。自社開発の減量薬を安全上の理由で中止したPfizerは、急成長する市場で遅れを取り戻す狙いがある。
発表によると、Pfizerは Metsera に対し1株当たり47.50ドル(19日の終値33ドル強に対し、43%のプレミアム)の現金を支払うほか、特定の業績目標達成時には追加で22.50ドルを支払う。
同社の非インクレチン系肥満治療薬は、MET-233i:で、食欲調節ホルモンであるアミリンの作用を模倣する長時間作用型アナログ。第1相臨床試験の段階にあり、GLP-1受容体アゴニストとの併用療法の可能性も探られている。
インクレチンは、食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンで、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド )とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)がある。(上図参照)
Metseraの候補製品は、MET-097i: 完全にバイアスされた超長時間作用型GLP-1受容体アゴニストの注射剤候補で、第3相臨床試験への移行が予定されている。
このほか、経口GLP-1受容体作動薬候補(MET-224oおよびMET-097o:臨床試験の開始が間近)のMET-815や、MET-097iのプロドラッグ(体内で活性型に変換される前の薬剤)がある。
しかし、Metsera は10月30日にデンマークのNovo Nordiskから一方的な買収提案を受けたと発表した。
株式1株あたり56.50 ドルの現金+最大21.25 ドルの追加払いを含むもので、最大85億ドル(一時金60億ドル+マイルストーン達成に応じた支払い)になる。Pfizerの提示額はマイルストーンを含め73億ドルである。
Metseraの取締役会は、この提案をPfizerとの合意を上回る「Superior Company Proposal(優越的買収提案)」と判断。これにより、Pfizerとの既存合意においてPfizer側が対応交渉を行う機会(いわゆるマッチング期間)が発生する。
これに対し、Pfizerは、Novo Nordiskの提案が「反競争的である」「買収契約における優先交渉権(あるいはマッチング条項)を無視している」と主張した。
Pfizerは、Metseraおよびその取締役会、さらにNovo Nordiskを対象に、契約違反・取締役義務違反・妨害行為を理由とした訴訟を提起した。
また、連邦法(〈クレイトン法〉第7条、〈シャーマン法〉第1条・第2条)に基づく反トラスト(反競争)訴訟も提起した。Pfizer側主張では、デンマークのNovo NordiskがMetseraを買収して将来のアメリカのライバルを排除しようとしているというもの。
PfizerとNovo Nordiskは、Metseraの買収をめぐり、4日に予定されている法廷審問を前に、それぞれの提示額を引き上げた。
Metseraの発表によると、Novo Nordiskの最新の提示額は1株当たり最大86.20ドルで、総額100億ドルに達する。一方、Pfizerの新たな提示額は1株70ドルで、総額およそ81億ドルとされている。Metseraによれば、Pfizerには自社の提案内容を再調整するため2日間の交渉期間が与えられている。
PfizerはMetseraおよびNovo Nordiskを相手取って起こした2件の訴訟のうち1件で、4日間とされていた自社の対抗入札期限を凍結するよう裁判所に求めている。この審問は、4日午前11時から米デラウェア州衡平裁判所で行われる予定。
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なお、Eli LillyとNovio Nordiskは、減量薬を含む新たな薬価取引をホワイトハウスと発表する計画である。
価格譲歩の見返りとして、両社は65歳以上のアメリカ人を対象とする連邦健康保険制度であるメディケアの下で、自社の薬剤の保険適用を獲得することになる。この保険適用は、両製薬会社にとって重要な新たな償還機会を提供するものである。
メディケアの適用は、これらの肥満治療薬にとって潜在的に大きな市場拡大を意味する。何百万人もの高齢アメリカ人にとって、これらの治療がより利用しやすくなるからである。
トランプ大統領は、英製薬大手AstraZenecaと、一部処方薬の価格を大幅引き下げる代わりに医薬品関税を3年間免除することで合意したと発表(10/10)
今後米国で発売するすべての新薬に他の先進国での最低価格を適用するほか、メディケイド(低所得者向け医療保険制度)加入者向けに大幅に値引きを行う。
さらにアストラゼネカは直販サイトで取り扱う製品数を増やす予定で、大統領はその価格について、「大幅な値引き」になると述べた。また、近く立ち上げ予定の医薬品販売サイト「TrumpRx」でも医薬品を提供する計画。
アストラゼネカは米国での医薬品製造や研究開発に今後5年間で500億ドル(約7兆6千億円)を投資し、米国内で販売する薬の現地製造を目指す。
10/1の米Pfizerに次ぐ。同社は米国の医薬品価格を他の先進国が支払っている最低価格(最恵国待遇価格、いわゆるMFN価格)に合わせることとなる。
アメリカの薬剤価格の問題に関して、トランプが提案した行政命令「Delivering Most-Favored-Nation Prescription Drug Pricing to American Patients」〈5/12付)に基づくもので、
アメリカ人が他の国々と同じ価格で処方薬を購入できるようにするため、特定の製薬会社に対して具体的な措置を取るよう求める内容。
米国では、原則的に製薬会社が薬の価格を自由に決めることなどから、他の先進国の約3倍になることもある。
Pfizer とAstraZenecaは、今後発動される医薬品関税の対象から3年間免除される。
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