中高齢以降に発症するうつ病や双極性障害などの気分障害が、認知症の前兆として現れる可能性が指摘されているが、その背景となる病態メカニズムはほとんど解明されていない。
量子科学技術研究開発機構の量子医科学研究所脳機能イメージング研究センターは、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室、国立精神・神経医療研究センター、東京科学大精神科(精神行動医科学分野の協力を受けて、中高齢発症の気分障害(うつ病、双極性障害)の患者の脳内に蓄積するタウ病変をPETにより可視化し、 中高齢発症の気分障害患者では、認知機能が正常な段階でタウ病変が出現していることを明らかにした。
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中高齢発症の気分障害は、社会的孤立や介護負担の増加と関連しており、高齢化が進む現代において深刻な社会的課題となってい る。さらに近年の疫学研究からは、中高齢発症の気分障害が認知症の前段階として現れる可能性が指摘されている。
本研究では、量子科学技術研究開発機構が開発した、様々な認知症や関連疾患におけるタウ病変を鋭敏に捉えることができる世界で唯一のPETイメージング薬剤を用い、40歳以降で発症したうつ病および双極性障害の 人を対象にPET検査を実施した。
その結果、同年代の健常者と比較して、中高齢発症の気分障害の患者は、タウ病変を有している確率が約4.8倍高いことが明らかにな った。さらに、国立精神・神経医療研究センターのブレインバンクのデータを用いた検討により、40歳以降にうつ状態または躁状態を初発した患者ではタウ病変を持つ割合が高いことが確認された。また、うつ状態や躁状態が認知機能障害の発症に平均して約7年先行していることが明らかとな った。
これらにより、中高齢発症の気分障害の中に、認知症の原因タンパク質の一つであるタウ病変が認知症発症前から既に蓄積していることを生体で確認するとともに、死後脳データからも裏付けがなされた。
本研究では、40歳以降に気分障害を発症した(中高齢発症の気分障害)患者52名と同年代の健常47名を対象に、タウPET・アミロイドPETを行い、様々なタウ病変の頻度・分布・症状との関連について検討した。
その結果、中高齢発症の気分障害患者群では、PETでタウ病変ありと判定される割合が50%と、健常高齢者の14.8%と比べて有意に高く、タウ病変の沈着に影響を与える要因を補正するため、年齢・性別・全般的な認知機能を統計的に調整するとその頻度は約4.8倍 だった。
また、アミロイドPETの結果から、アミロイドβの蓄積についても、中高齢発症の気分障害患者では健常者より頻度が高いことがわか った。
これにより、中高齢発症の気分障害の一部には、健常加齢では説明できないレベルの異常タンパク質の蓄積が存在することが示唆され、認知症の前駆段階の可能性が考えられ る。
この成果により、アミロイドβやタウの病変の可視化による客観的な早期診断を行い治療介入するという、新しい中高齢発症の気分障害の診断・治療戦略の開発が期待される。
発表文 https://www.qst.go.jp/site/press/20250609.html
本研究の成果は認知症分野において極めて注目度が高い国際的な学術誌の一つである『Alzheimer's & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association』のオンライン版に、2025年6月9日に掲載された。
掲載文 Diverse tau pathologies in late-life mood disorders revealed by PET and autopsy assays
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